PMC 2021年7月31日
内分泌かく乱物質はまた、神経かく乱物質として作用し、
内分泌及び神経かく乱物質(ENDs)と新たに命名できる

ジル=エリック・セラリーニ及びジェラルド・ジャンジャー
情報源:PMC, July 31, 2021
Endocrine disruptors also function as nervous disruptors
and can be renamed endocrine and nervous disruptors (ENDs)

By Gilles-Eric Seralini and Gerald Jungers
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8365328/

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2021年9月6日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/edc/Int/210731_PMC_
Endocrine_disruptors_also_function_as_nervous_disruptors.html

略語 :ED, Endocrine disruptors 内分泌かく乱物質;ENDs, Endocrine and nervous disruptors 内分泌及び神経かく乱物質;ND, Nervous disruptors 神経かく乱物質;WHO, World Health Organization 世界保健機関
キーワード :Endocrine disruptors, Nervous disruptors, Neurotoxicity, Cognitive, Behaviour, Pollutants



アブストラクト
 内分泌かく乱(ED)及び内分泌かく乱物質類(EDs)は、多数の化学的汚染物質が生殖機能障害の原因であることが判明した後、1995年に科学的概念として登場した。世界保健機関は、生殖だけでなくホルモン機能にも直接的又は間接的に影響を与える、石油化学から合成された物質、可塑剤、農薬、及び様々な汚染物質のリストを国連環境計画とともに確立した。
 細胞は、内分泌系又は神経系内で伝達される化学的又は電気的信号を介して通信する。ホルモンかく乱物質が神経内分泌又はより一般的なメカニズムのいずれかを介して神経系の発達又は機能を直接的又は間接的に阻害する可能性があるかどうかを調査するために、特に神経毒性、認知、及び行動のカテゴリーで、神経系に対する EDs の影響を確認するために科学文献を調べた。
 これまでに、WHO によって国際的に特定された 177の EDs の全てが、神経系に影響を与えることが知られていることを我々は示した。
 さらに、この神経かく乱の根底にある正確なメカニズムも確立されている。 EDs は主に甲状腺を介して機能すると以前は信じられていた。しかし本研究は、EDs の約 80%が他のメカニズムを介して機能するという堅固な証拠を示している。
 したがって、EDs は神経かく乱物質(NDs)でもあり、内分泌及び神経かく乱物質(ENDs)と総称することができる。 ENDs のほとんどは石油残留物に由来し、それらの様々な作用メカニズムは、電子通信技術の”スパム”のメカニズムと類似している。したがって ENDs は生物学的文脈の中でスパムの事例と見なすことができる。


1. はじめに
 内分泌かく乱(ED)又は内分泌かく乱物質類(EDs)は、多数の化学的汚染物質が生殖機能障害の原因であることが判明した後、1995年に科学的概念として登場した[Colborn [1]; Lindstrom et al.[2]; Ginsburg[3]]。これが提起されたのは、[Carson [4]]より 30年前のことであった。 EDs は、もっと最近、本[Seralini [5]]の中でレビューされたが、この本は、特定された生体異物(xenobiotics)の分子の生体内蓄積、及び 1世代又は数世代の生理学全体へのそれらの複合的及び長期的影響の理解を深めた。それらは生態系のすべてのレベルの生物で同定されており、食物連鎖でも遍在的に見られる。

 世界保健機関[WHO [6]]はを国連環境計画とともに、人間を含む主に哺乳類の、生殖だけでなくホルモン機能にも直接的又は間接的に影響を与える物質、農薬、様々な汚染物質からなる 176の化合物のリスト(Table 1、列1〜3)確立した(訳注1)。これにより、多くの国がこれらの化学物質の生産と使用に関する規制方針を確立し、又は食品、空気、水の汚染を管理することができるようになった。動物又は人間の集団又は下位集団で実証された ENDs の影響に基づいて、規制の閾値を中心に多くの政治的議論が提起され、疫学的及び分子レベルで発表されている。除草剤ラウンドアップは、農薬として広く使用されていること及び比較的最近の ED 影響の実証により、177番目の化合物として追加された[Richard etal.[7]]。

 疫学は、哺乳類又は人間の健康に対する分子の又は混合物の複合的及び長期的影響に関する疑問を解決するために技術的に適合されていない[Mesnage etal, [8]]。これは、エピジェネティックな(訳注2)及び世代を超えた影響が研究されるとさらに複雑になる[Skinner and Anway [[9]]。たとえば、農薬の蓄積は、それらのレベルを病状と相関させるためのマーカーとして使用できるかどうかを確認するために、死亡後の臓器で測定されることはめったにない。その代わり、内分泌かく乱の理解は、実験動物モデル、家畜、汚染地域での野生生物の観察、及び問題の化学物質を生産する工場での産業医学における生化学的、細胞的、有機的及び環境的影響の複合知識の進歩によって支援される可能性がある。

 内分泌系は、有性生殖と性的発達の制御に限定されていない。内分泌かく乱物質は、甲状腺、糖質コルチコイド軸、副腎及び膵臓系、脂肪組織、免疫又は神経内分泌標的に影響を与える可能性がある[Laessig et al,[[10]; Masuo and Ishido[11] ;Weiss [12]; Leon-Olea et al.[13]]。それらは、特に様々な神経伝達物質の干渉を介して、認知効果さえ持っている[Schantz and Widholm [14]]。

 細胞は、内分泌系又は神経系内で伝達される化学的又は電気的信号を介して通信する。一般に、内分泌学では、ホルモンは受容体の利用能と濃度に応じて二相性の作用を示し、標的組織や特定の生物によって異なる時間、用量、性別に依存する効果をもたらす。したがって、例えばエストラジオールなどのホルモンは、ピルとして薬理学的用量で使用された場合、又は胚芽期又は胎児期にこの機能を阻害する可能性があるため、”排卵を刺激する”と言うのは還元主義者(訳注3)である。したがって、内分泌かく乱物質は、同様の二相性の相反する効果を発揮する可能性を有するかもしれない。

 したがって、ホルモンかく乱物質が神経発達を直接的又は間接的に阻害するか[Grandjean and Landrigan [15]]、又は神経内分泌又はより一般的なメカニズムのいずれかを介して成人でも機能するかどうかを判断するために、この研究は国際的に特定されている主要な(WHO が言うところの)内分泌かく乱物質の神経系(神経毒性、認知、行動を含む)への ENDs の影響を確かめるために科学的文献を調べた。


2. 材料と方法
 各化合物は、176の既知の内分泌かく乱物質[WHO [6]]にラウンドアップを加えて番号が付けられた(Nb, Table 1)。 その名前は、Pub Med データバンク、そして最終的には Google Scholar で、キーワード「nervous 神経」又は「neurotoxicity 神経毒性」又は「cognitive 認知」又は「behavio(u)r 行動」に関連付けられた。 参照が多すぎる場合、キーワードを直接関連付けるために「or 又は」は除外された。 20を超える参照が公開されていることが判明した場合は、「review レビュー」がキーワードに追加され、引用された。 最後に、他のモデルを除外することなく、人間又は哺乳類の最新の研究に焦点を当てて、最大 5つの参照が示された。 メカニズムは、神経細胞(ニューロン)又は神経系への直接的な影響として、又は甲状腺の調節を含む間接的な影響として文書化された(Table 1、列4)。


3. 結果と考察
 神経系への影響を評価するために、(WHOガイドラインに従って)176の国際的に特定された EDs の全てが、1931年から2021年の間に発行された国際的な文献で研究された(Table 1)。ひとつ残さず全ての EDs が神経かく乱又は明確な神経調節(neurodisruption)を誘発する一方で、特定のまれなケースでは刺激さえも発生することが観察された。したがって、研究された EDs の 100%は、直接的又は間接的に既知の神経調節物質(neuromodulators)であった。以前は、神経に影響を与える内分泌かく乱物質は、神経系の発達を制御することが古典的に知られている甲状腺を介して機能すると一般的に信じられていた。しかし、この研究は、EDs の少なくとも 79.1%が実際には他のさまざまなメカニズムを通じて NDs でもあるというかなり多くの証拠を示している(Table 1)。全体のうち 37の化合物は、甲状腺依存性のメカニズムを持っているとされていた。したがって、この包括的な概念の出現により、内分泌及び神経かく乱物質の集合的略語(総称)である”ENDs”の導入と使用を提案せざるを得なくなった。

 河川に汚染物質として存在する可能性のある治療ホルモン又は医薬品(Table 1の列 3を参照)[Arya et al. [16]; Saussereau et al. [17]; Goulle et al. [18]]は、安定した石油化学ベースの生体異物よりも生分解性が高い特定の天然植物エストロゲンなどの ENDs を含むことが多く、多くの場合、生物に体内蓄積をもたらす。エージェントオレンジ又はダイオキシンなどの化学物質の混合物も ENDs として引用されている。さらに、POEA(ポリエトキシ化牛脂アミン)などの農薬の配合剤が EDs であることが最近発見された[Gasnier et al. [19]; Defarge et al. [20]]そして神経影響も持つ可能性がある[Malhotraet al. [21];Sato et al.[22]]。一部のモデルでは、世界中で使用されている主要な農薬製剤の有効成分として申告されているグリホサートは単独では [Martinez et al. [23]; Coullery et al. [24]]、ラウンドアップ中に存在する同等の製剤よりも神経系への毒性又はかく乱性が低いことが示されている[Mesnage et al. [8]; Aitbali et al. [25]; Gallegos et al. [26]]。これは、EDs として個別に識別される申告されていない多環芳香族炭化水素と重金属を含む非グリホサートベースの除草剤にも当てはまることが証明されている[Seralini and Jungers [27]]。

 ENDs が生理学的機能及び病状に及ぼす影響は、特にそれらがいくつかの細胞内及び細胞間コミュニケーションと同時に相互作用するため、予想よりも特異性が低いように思われる。それらの大部分は石油残留物に由来し、それらの作用メカニズムは電子通信技術の「スパム」のメカニズムに例えることができる。したがって、ENDs は、生物学的文脈におけるスパムの広範な事例と見なすことができる。


参照
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訳注1:WHO/UNEP 176 EDCs リスト
State of the Science of Endocrine Disrupting Chemicals - 2012(Summary 版ではなく完全版)の Appendix II Pages 253 - 257 参照

訳注2:エピジェネティックな(epigenetic)
エピジェネティクス(ウィキペディア)
 エピジェネティクス(英語: epigenetics)とは、一般的には「DNA塩基配列の変化を伴わない細胞分裂後も継承される遺伝子発現あるいは細胞表現型の変化を研究する学問領域」である。

訳注3:還元主義者(reductionist)
還元主義(ウィキペディア)
日本で比較的定着している定義では
  • 考察・研究している対象の中に階層構造を見つけ出し、上位階層において成立する基本法則や基本概念が、「いつでも必ずそれより一つ下位の法則と概念で書き換えが可能」としてしまう考え方のこと。
  • 複雑な物事でも、それを構成する要素に分解し、それらの個別(一部)の要素だけを理解すれば、元の複雑な物事全体の性質や振る舞いもすべて理解できるはずだ、と想定する考え方
上記のような考え方・主張に対する否定的な呼称。 要素還元主義とも言う。


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