米・国立健康研究所(NIH)
Environmental Factor 2019年12月号
内分泌かく乱物質の特定は生物学から始まる
専門家らは危険性の特定に役立てるために、
ホルモンが体内でどのように作用するかに基づき、
内分泌かく乱化学物質の 10の重要な特性を提案した。

ジャネール・ウィーバー
情報源: Environmental Factor - December 2019 - NIH
Endocrine disruptor identification begins with biology
Based on how hormones act in the body,
experts proposed 10 key characteristics of
endocrine-disrupting chemicals, to help identify hazards.

By Janelle Weaver
https://factor.niehs.nih.gov/2019/12/feature/1-feature-endocrine-disruptor/index.htm

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2019年12月20日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/edc/Int/191200_NIH_
Endocrine_disruptor_identification_begins_with_biology.html

 内分泌かく乱化学物質(EDCs)の10の特性を提示する合意声明は、これらの化学物質が有するリスクを評価するための普遍的な枠組みを提供するであろう。本年11月12日に『 Nature Reviews Endocrinology 』に発表されたその声明は、国立環境健康科学研究所(NIEHS)から補助金を受け、またカリフォルニア大学バークレー校(UCD)の NIEHS スーパーファンド研究センターの研究橋渡しコア(Research Translation Core)から補助金の一部を受けた科学者らの共著により書かれた。

 ”一般大衆は、食品プロセス、食品容器、身体手入れ用品、そしてその他の消費者製品中で使用されている産業化学物質は害を引き起こす可能性を持っている”と、合意声明の共著者であり、前 NIEHS 補助金受領者であるマサチューセッツ大学の R. トーマス・ゾラー博士は述べた。

 ”内分泌かく乱化学物質を特定するための重要な独特のアプローチは、公衆の健康を守るための合理的なリスク評価戦略を開発する第一歩である”。

 ”内分泌かく乱化学物質の重要な特性は、ホルモン作用を変更する原因物質の機能的な特性である”と合意声明の第一著者であるカリフォルニア大学デービス校のミシェル・ラ・メリル博士は説明した。”これらの重要な特性は、それらがなすこと、それらがなす方法、そしてそれらが制御される方法を干渉することを含んで、ホルモン系がかく乱され得る主要なメカニズムに関わっている”。ラ・メリル博士は、 NIEHS から補助金を提供されている UCD 環境健康科学センターのメンバーである。

EDCs の 10 の重要な特性
 内分泌かく乱化学物質(EDCs)はホルモン作用を干渉し、それにより有害健康影響のリスクを高める。例えば EDCs への暴露は、がん、生殖障害、認識障害、又は肥満のリスクを高める。 EDCs のホルモン作用と影響の知識に基づき、専門家らの国際的グループが 10 の重要な特性を提案した。
参照:内分泌かく乱化学物質の重要な特性の作用の図解
  1. ホルモン受容体と相互作用する又は活性化する。
  2. ホルモン受容体を阻害する又は妨げる。
  3. ホルモン受容体発現を変える。
  4. ホルモン応答細胞中で分子信号伝達を変える。
  5. ホルモン生成又はホルモン応答細胞中でエピジェネティックな変化を誘発する。
  6. ホルモン合成を変える。
  7. 細胞膜を横切るホルモン輸送を変える。
  8. 組織中のホルモンの分布又はホルモンの巡回レベルを変える。
  9. ホルモン代謝又はクリアランスを変える。
  10. 拡散、移動、又は分化を含む運命、又はホルモン生成又はホルモン応答細胞の生存を変える。
内分泌生物学

 研究が EDCs への暴露による体への危険(hazards)の証拠を提供している(右側の囲み記事を参照のこと)。しかし、ある物質をひとつの EDC としてと特定するのに役立つよう全てのこれらのデータを統合する広く認められた体系的な手法は存在しない。

 共著者で NIEHS 補助金受領者であるノースカロライナ州立大学の研究副部長ヒーサー・パティソウル博士によれば、内分泌かく乱物質の定義さえ長年議論され続けている。

 ”この点で我々は一歩譲って、内分泌かく乱化学物質は実際に体の中で何をするのか?と問うた。内分泌系はそれがかく乱された時にどのように見えるのか? 生物学がどのように影響を受けたかという観点から、我々は内分泌かく乱が何を意味するかを定義することができるのか?”と、パティソウルは述べた。

 ”これは科学を検証し、分子及び細胞レベルで、何が内分泌かく乱の’純分認証極印(品質証明)’を構成するのか特定するするために理想的な機会であった”と、彼女は付け加えた。

全体論的なアプローチ

 同声明の著者らは、国際がん研究機関(IARC)の発がん性物質を特定するための方法として’重要な特性’を用いる取り組みに触発された。それは特定の経路や前提への狭い焦点ではなく、機械論的な(mechanistic)証拠の、広い全体論的な検討を支える。

 ”この行動の明確な成果は、内分泌かく乱化学物質のための我々の現在の毒性テスト構想”は極めて不十分であり、内分泌系が損なわれることがあり得る全ての方法から成っていないということが分かったことである”とパティソウルは述べた。

 ”この文書は、これらのテスト手法のギャプを補強し、将来の研究の必要を優先付けるのに役立てるために利用することができる”。

 パティソウルによれば、ホルモン受容体結合は歴史的に基本的な実験に基づく規制のためのテストの中心であった。それとは対照的に内分泌系の他のメカニズムはあまり注目されなかった。

 ”我々は、内分泌かく乱化学物質が体に作用することができる 10の方法のうち、化学物質テスト・プログラムの中で確実に考慮されているのは、わずか 3つの方法だけであることを知った”と、パティソウルは述べた。”我々は、内分泌かく乱化学物質が我々の生理機能を変えることができる全ての方法を完全に説明するために、他の 7つの方法のための分析を非常に強く必要としている。”

 ”何が内分泌かく乱作用を構成するのかを定義することにより、我々はもっと容易に、そしてできれば、それらが広範な人間の疾病を引き起こす前に、これらの化学物質の特定を可能にすることができる”と彼女は説明した。

強力な枠組みであるが、チェックリストではない

 合意声明の著者らは、その重要な特性はチェックリストとして使用されるべきではないと警告する。ひとつの特性のために強い証拠があれば十分である。例えば、過塩素酸塩は重要な特性をだだひとつだけ持っているが、その内分泌かく乱作用は人間及び実験による証拠により強力に支えられている。

 ”どのような場合でも、ひとつの内分泌かく乱化学物質を特定することは単に支持する証拠を持つ重要な特性の合計を数え上げることではないということを認めることが、極めて重要である”と合意声明の共著者であり、 NIEHS の名誉科学者であるケネス・コラ博士は述べた。”ホルモンは一般的に全体システムを通じて作用し、全体システムをかく乱するためにひとつの重要な特性だけでおそらく十分である”

引用: La Merrill MA, Vandenberg LN, Smith MT, Goodson W, Browne P, Patisaul HB, Guyton KZ, Kortenkamp A, Cogliano VJ, Woodruff TJ, Rieswijk L, Sone H, Korach KS, Gore AC, Zeise L, Zoeller RT. 2019. Consensus on the key characteristics of endocrine-disrupting chemicals as a basis for hazard identification. Nat Rev Endocrinol. doi: 10.1038/s41574-019-0273-8.

(ジャネール・ウィーバー博士は NIEHS 情報出版連絡室の契約著述家である)

内分泌かく乱化学物質の重要な特性の作用の図解(囲み記事参照)




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