ChemSec 2018年6月26日
精子数は、
あなたが考える以上に重要である


情報源:ChemSec, June 26, 2018
Sperm counts for more than you think
http://chemsec.org/sperm-counts-for-more-than-you-think/

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2018年7月4日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/edc/Int/
180626_ChemSec_Sperm_counts_for_more_than_you_think.html


 出生率は、環境汚染と性感染症の結果として急落し、全体主義政府は、人類の生殖を確保するために、わずかに残った繁殖力のある女性たちを強制的に妊娠出産に奉仕させた。

 この暗黒郷(ディストピア)の未来は、評判のテレビシリーズ 『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』 (訳注1)の背景である。それはフィクションであるが、その物語は実際に起こりそうにないことではない。

 真相は、男性の精子数が過去40年間で半分以下となり、科学者らによれば、今後もこの低下は続きそうである。

 これらの驚くべき数字は科学ジャーナル『 Human Reproduction Update』に 2017年7月25日に発表された研究で報告された。その研究は、1970年代以来、精液サンプルを提供した43,000人近くの男性の185の調査からの結果を分析した。

 精子数の減少を示す調査は以前にも示されたが、これは科学者が西側世界の男性に明確で進行中の傾向であることを初めて示したものである。調査は南アメリカ、アジア、及びアフリカではそのような同じ傾向を示さなかった。

 この分野における主導的な専門家らは、この研究で示された数について非常に懸念した。マンチェスター大学の科学ディレクターであるダニエル・ブライソン教授は、精子数の減少の程度を”衝撃的”と呼んで、更なる研究を推進するための警告として行動すべきと述べた。

 数億の精子のうち、一匹の精子だけが勝ち抜いて卵子に到達し受胎させることができることを考えれば、精子数の減少は人間の生殖に影響を与えるのだということを心から理解することができる。受胎の機会が減ることにより、集団における不妊率が増大するのは当然の結果である。

 男性におけるこの変化は、西側諸国における多くのカップルは女性が30代まで妊娠を遅らせるということと偶然に一致して生じている。この年代では女性の生殖力は急速に低下しており、そのことは妊娠したいカップルにとってダブルパンチである。

 数週間前、男性の生殖分野の世界の主導的な専門家らがこの問題を討議するためにストックホルムに参集し、参加者らは共通の懸念を確認した。彼らはこの問題は長い間見過ごされて来ており、今、真剣になる必要があると感じた。

 ”今、政府、当局、及び全医学界は、一般的生殖能力と出産は、人間を含む世界の生物種の健康と生存にとって基本的であることを認識しなくてならない”と、男性生殖分野のスウェーデンの主導的専門家の一人ステファン・アーバーは会議の後で述べた。

 それでは、この精子数の減少は何が原因であろうか?

 きついジーパン、熱いサウナと泡風呂、前ポケットの中の携帯電話、膝の上に置くパソコン。これらの全てはいくつかの研究である影響を持つことが示されているが、最大の犯人はこれらとは全く違う何かではなかろうか?

 ”その減少は西側世界だけで顕著なので、環境中のある化学物質がこのことの主要な原因である可能性が非常に高い”。

 多くの研究が、フタル酸エステル類、難燃剤類、及びビスフェノール類のような内分泌かく乱化学物質が男性の生殖能に非常に影響を及ぼしていることを示している。

 これらの物質はホルモンのように振る舞い、又は本来のホルモンの作用を阻害し、思春期はもとより特に胎芽及び胎児の発達中に高い作用を持つ。それらはまた、暴露以降の世代にまで影響を持続させるかもしれない。

 そしてこれらの化学物質はすべて、化粧品、衣類、電子機器のような日用品中に見いだされるが、興味深いことには、そのことは精子数の減少と並行して、社会により広く拡散している。

 しかし正確な原因を同定することは難しい仕事である。それにもかかわらず我々は単一の物質が我々の健康に及ぼす影響について一つか二つを知っているかもしれないが、実際の真実は我々は毎日人間が作り出した化学物質の複雑な混合物に暴露しているということである。

 そしてこの化学物質のカクテルが何を含んでいるのか、又は我々に対して何をするのかについて、我々は非常にわずかしか知らない。

 したがって信頼できるデータ又は結論の欠如は、特定の化学物質の規制を議論する時にしばしば論争となり、実際にそれらを製品から取り除くプロセスを非常に遅く面倒なものにする。

 ”我々は、ある化学物質をもっと迅速に廃止することを正当化するのに十分な知識を持っている、それは最終的には危機にある我々の種の生存に関わることである。もっと多くの証拠を求める必要があるのか? 特にこれらの化学物質は多くの場合、より安全な物質で代替することができることを考えれば、私にとっては頭を悩ます必要のないことである”と ChemSec の上席毒性学者アナ・レンクイスト博士は述べた。

 その理由が何であろうと、男性の精子数の減少は大変なことである。もしそれらが過去40年間に半分以下になったのなら、今後さらに40年経ったらどのくらい減少するのか想像することは恐ろしいことである。

 特に、我々が将来に向かうにつれて、事態がより悪くなると科学者らが言っている。もしかしたら将来、世界には生殖力のある男性は残っていないかもしれない。

 『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』は、ほんの少し現実になったのではないであろうか? ただし、不妊になっているのは女性ではなくて男性らしいという違いはあるけれど。
訳注1
ハンドメイズ・テイル/侍女の物語(ウィキペディア)
 『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』 (The Handmaid's Tale) は 1985年のマーガレット・アトウッドの小説『侍女の物語』に基づいて製作された、2017年に始まるアメリカ合衆国のテレビドラマシリーズである。ストリーミングサービス Hulu により製作・配信されている。女性が"侍女"と呼ばれ性と生殖の奉仕を強制される近未来のディストピア(暗黒郷)を描く。

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