IPEN/内分泌学会 2024年2月20日
最新の科学は、プラスチック、殺虫剤、その他の発生源に
含まれる内分泌かく乱化学物質が世界的に健康上の
脅威をもたらしていることを示している

環境中の EDCs への日常的な暴露は、不妊症、糖尿病、免疫不全、
その他の重篤な症状の発生率の増加に関連している可能性がある

情報源:IPEN and Endocrine Society, 20 February 2024
Latest Science Shows Endocrine Disrupting Chemicals in Plastics,
Pesticides, and Other Sources Pose Health Threats Globally
https://ipen.org/news/latest-science-shows-endocrine-disrupting-
chemicals-plastics-pesticides-and-other-sources-pose


訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2024年3月12日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/edc/IPEN/240220_IPEN_Latest_Science_Shows_Endocrine_
Disrupting_Chemicals_in_Plastics_Pesticides_and_Other_Sources_Pose_Health_Threats_Globally.html


非常に危険な農薬は、特にグローバル・サウスにおいて継続的な脅威となっている

【ケニア、ナイロビ】 ホルモン関連の健康状態に関する世界有数の科学及び医学専門家による報告書は、我々の周囲や日常生活に遍在する内分泌かく乱化学物質類(EDCs)による人間の健康への深刻な脅威について新たな懸念を引き起こしている。

 報告書『内分泌かく乱化学物質:人間の健康への脅威(Endocrine Disrupting Chemicals: Threats to Human Health)』は、大規模な有害物質グループが世界的な健康上の懸念の高まりに関与している可能性があるという増大する証拠をもって、EDCs に関する科学の現状に関する包括的な最新情報を提供している。

 国際汚染物質廃絶ネットワーク(IPEN)と共同作成した内分泌学会のその報告書には、プラスチック、殺虫剤、消費者製品(子ども向け製品を含む)、ペルフルオロアルキル物質及びポリフルオロアルキル物質(PFAS)の4つの発生源からの EDCs への暴露に関する詳細な分析が含まれていまる。 PFAS は、EDC であることが知られているか、EDC であると疑われる数千の化学物質のクラスでる。

 内分泌学会と IPEN の報告書は、ナイロビで開催されている国連環境総会(UNEA-6)(訳注:2024年2月26日〜同年3月1日)の会合中に発表される。 UNEAの主要議題には、新たに採択された化学物質に関する世界的枠組みの歓迎、危険性の高い農薬に対する世界的な行動の推進、プラスチックや有害化学物質による循環経済への脅威などが含まれる。 同報告書は、今年後半に予定されている『内分泌かく乱化学物質の科学の現状に関する 2012 年報告書(2012 Report on State of the Science of Endocrine Disrupting Chemicals)(環境省による日本語訳版)』に関する UNEP と WHO による更新を予想している。

 ”十分に確立された一連の科学的研究は、我々の日常生活の一部である内分泌かく乱化学物質が我々を生殖障害、がん、糖尿病、肥満、心臓病、その他の深刻な健康状態に陥りやすくしていることを示している”と、主著者であるテキサス大学オースティン校のアンドレア・C・ゴア博士は述べている。ゴア博士は内分泌学会の理事会のメンバーでもある。”これらの化学物質は、妊婦と子どもに特に深刻なリスクをもたらす。 今こそ、国連環境総会やその他の世界的な政策立案者らが、公衆衛生に対するこの脅威に対処するための行動を起こす時である。

 ホルモンは、体のプロセスと健康の正常な発達、適応、維持に貢献する天然化学物質である。 内分泌かく乱化学物質(EDC)への暴露はホルモンとその作用を妨げることにより、多くの健康関連機能に影響を与える可能性があり、多くの深刻な症状のリスクが増大する結果をもたらす。環境中の EDCs が、糖尿病、神経障害、生殖障害、炎症、免疫機能低下などの障害に寄与していることを示す証拠がある。

 報告書の 4 つの分析のうち 2 つは、プラスチック中で、及び殺虫剤として使用される EDCs に目を向けている。 科学者らが化学物質とプラスチック汚染が深刻化する危機であると警告しているにもかかわらず、プラスチックと農薬の世界的な生産は増加している。グリホサートは世界で最も広く使用されている除草剤であり、最近の研究ではグリホサートが EDC の 10 の重要な特性(訳注:Consensus on the key characteristics of endocrine-disrupting chemicals as a basis for hazard identification / Michele A La Merrill et al. PubMed 2019 Nov 12)のうち 8 つを備えていることが判明した(訳注:Glyphosate and the key characteristics of an endocrine disruptor: A review / Juan P Munoz et al. PubMed 2020 Oct 19)。 他の研究では、グリホサートと生殖健康への悪影響との関連性が発見されている。 プラスチックは何千もの既知の有害物質で作られており、その中には EDCs であることが既知または疑われているものもある。 この報告書は、多くのプラスチックに含まれる 2 つの有害化学物質であるビスフェノール類とフタル酸エステル類を調査している。 プラスチックからの EDCs への暴露は、プラスチックの製造、使用、廃棄のあらゆる段階で、さらにはリサイクルされたプラスチックからも発生する。

 内分泌学会と IPEN の報告書は、EDCs による健康への脅威の証拠が増えている一方で、現在の規制が追いついていないと指摘している。”EDCs は他の有害化学物質とは異なるが、ほとんどの規制はこれらの違いに対処できていない”と IPEN 科学顧問のサラ・ブロシェ博士は述べた。”例えば、内分泌かく乱化学物質類は非常に低用量であっても健康上の問題を引き起こす可能性があり、EDCs への暴露に安全な用量は存在しないであろうことを我々は知っている。 しかし、規制は通常、低用量の影響を防ぐものではない。 我々は、健康な環境に対する人権を守るという目標を掲げ、最新の科学に基づいて EDCs を管理する世界的なアプローチを必要としている。”

 UNEA-6会議では、IPENも『高危険農薬による世界的脅威(The Global Threat from Highly Hazardous Pesticides)』と題する新たな報告書を発表し、特に低・中所得国におけるHHP(Highly Hazardous Pesticides)による継続的な健康と環境リスクに焦点を当てている。 内分泌学会の報告書で検討された 3 つの HHPs である DDT、グリホサート、クロルピリホスは、特にグローバル・サウスにおいて健康上の脅威をもたらし続けているため、新しい IPEN 報告書でも強調されている。

 この報告書は、プラスチックや殺虫剤に加えて、ヒ素や鉛、また、撥油剤や撥水剤やコーティング剤として使用される人工の”永久化学物質”である広く使用されているパーフルオロアルキル物質及びポリフルオロアルキル物質(PFAS)からの EDC 暴露についても調査している。 最近の IPEN 報告書(訳注:Lead in Paint)に記載されているように、鉛は多くの国で依然として塗料に使用されている。 鉛への暴露による内分泌関連の症状には、思春期の開始の遅れや閉経の早期化などが含まれる場合がある。 ヒ素は、がんやその他の健康状態と長い間関連付けられてきた一般的な金属であり、最近の証拠では、ヒ素が複数の内分泌系をかく乱させる可能性があることが示されている。 PFAS は衣料品や食品の包装など数百の製品に使用されているが、最近の研究では、一部の PFAS がエストロゲンやテストステロンなどのホルモンを阻害し、甲状腺ホルモンの機能を損なう可能性があることが示されている。

 IPENの代表者は UNEA-6 会議に参加し、IPENは新しい報告書の調査結果を検討するために UNEA でブリーフィングを主催する予定である。

内分泌学会とIPENについて

内分泌学会は、ホルモン研究に専念する科学者と、ホルモン関連疾患を持つ人々の治療に従事する医師で構成される世界最古かつ最大の組織である。 内分泌学者らは、糖尿病や肥満から不妊症、骨の健康、ホルモン関連のがんに至るまで、現代の最も差し迫った健康問題の解決の中核を担っている。 この協会には、122 か国の科学者、医師、教育者、看護師、学生を含む 18,000 人以上の会員がいる。 学会と内分泌学の分野についてさらに詳しく知りたい場合は、当会のサイトwww.endocrine.org をご覧ください。 Twitter で @TheEndoSociety と @EndoMedia をフォローしてください。

国際汚染物質廃絶ネットワーク (IPEN) は、特に低所得国及び中所得国において、有害物質の生産、使用、廃棄から人間の健康と環境の権利を保護する政策を推進する世界有数の組織である。 IPEN は、EDC を含む世界最悪の化学物質を廃絶し、化学物質による広範な被害を防ぐために活動している。



化学物質問題市民研究会
トップページに戻る