The Nation 2017年8月28日
パキスタンの船舶解体産業は
徹底的に点検する必要がある

欧州委員会はガイドライン遵守の期限を2019年に設定している

情報源:The Nation, August 28, 2017
Pakistan's ship-breaking industry needs 'overhaul'
European Commission sets 2019 cut-off date for guidelines compliance
http://nation.com.pk/editors-picks/28-Aug-2017
/pakistan-s-ship-breaking-industry-needs-overhaul


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2017年9月5日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/basel/shipbreaking/
Nation_170828_Pakistans_ship-breaking_industry_needs_overhaul.html


【イスラマバード】パキスタンは、アジアの船舶解体産業が 2019年までにその基準を確実に順守するよう求める欧州委員会の新たなガイドラインに基づき、安全環境基準を強化する必要がある。

 欧州連合のこの動きは、昨年、ガダニ船舶解体現場で起きた解体中のタンカーの最悪の爆発と大規模火災で28人が死亡し、50人以上の労働者が負傷した事故(訳注1)に対応するものである。

 ”インドとバングラデシュを含む南アジアの船舶リサイクル現場では極めて不十分な基準で作業が行われている”と、船舶解体産業の基準を監視している国際 NGO の船舶解体プラットフォームによって実施された一つの調査が述べている。

 財政的な動機付けによってEUが承認した解体現場を船主に選択させるために、欧州委員会は欧州の社会的及び環境的基準に合致する世界中の解体現場のリストを今年の秋までに更新すること及び、EU船籍の商業用船舶の船主に、EU基準に合致した解体施設をリサイクルのために2019年までに使用するよう義務付けることを決定していた。

 他方、 NGOs はこれらの規則は、EUの船主は、彼らの船をEU基準に合致しない外国の解体現場に送る前に、わずか2,400 ユーロ(約31万円)を支払えば、彼らの船の船籍を簡単に変更できるので、ほとんど効果がないであろうことを恐れている。

 欧州委員会によるある調査によれば、 世界の全船舶の40%はEU法人の管理下にあるが、EU船籍の船舶は 20%程度であり、廃船となるのは9%だけである。

 ”理論的には、欧州の船主がEU承認の解体現場を選ぶことは非常に容易であるが、現実にはEU所有又はEU船籍の廃船の大部分は、バングラデシュ、インド、又はパキスタンの海岸で危険で汚い方法で解体されている”と、 第三世界の海岸に廃船を乗り上げさせるビーチング方式の解体により引き起こされる、汚染と危険な作業環境を防止するための活動をする 19団体の連合体である船舶解体プラットフォーム(Shipbreaking Platform)の設立者であり、ディレクターであるイングビルド・ジェンセンは述べた。

 他方、船舶解体プラットフォームによれば、ビーチング方式は南アジアで最も一般的に行われている船舶解体方法である。同 NGO によれば、2016年には世界の廃船の86%が海岸で解体された。その解体方法は非常に大きな汚染をもたらし、その労働環境は実にすさまじいとジェンセンは述べた。

 同 NGO によれば、2016年にはバングラデシュの解体現場で少なくとも22人の労働者が死亡し、29人が重傷を負った。昨年、解体のためにパキスタンのガダニ海岸に乗り上げたタンカーが解体中に爆発して大規模な火災を起こし、28人の労働者が死亡し、50人以上が負傷するという史上最悪の大惨事が起きた(訳注1)。

 欧州経済社会委員会による報告書によれば、バングラデシュではその多くが18歳以下の非熟練労働者が、1日12〜16時間の作業に対して3ドル(約330円)の賃金で、廃船の解体作業を行っている。船舶解体産業で働く男性の平均寿命はバングラデシュの一般的男性の寿命より20歳低い。

 国際法政策研究所(International Law and Policy Institute;ILPI)による調査によれば、ほとんどの船舶の鋼鉄は、鉛、水銀、亜鉛、ヒ素、及びクロムを含む塗料で塗装されている。また、乗り上げた船から PCBs 、アスベスト、及び大量の油が波に洗われている。

 それに対してEUの規則は、承認される施設は不浸透性の床を持たなくてはならず、解体は海水、又は”砂又は砂利のような浸透性の表面”に接触することなく、行うことを義務付けている。

 しかし高い環境基準と労働者への十分な支払いは、船主がEU承認解体場の使用にしり込みすることを意味する。

 ”我々は、高い労働力コスト、社会的費用、及び税により不利な条件になる”とスペインの除染、解体、及びリサイクル会社である DDR 船舶の社長アントニオ・バレドは述べた。

 アジアの解体現場はまた、地域の鉄鋼産業により近いので、欧州の競争相手より有利である。”アジアの解体現場が船舶のリサイクルに関心を持つ理由は、彼らがスクラップを利用するからである”と、産業団体である欧州共同体船主協会の事務局長パトリック・バーホーベンは述べた。”ヨーロッパにはない活発な鉄くず産業がある。欧州で船舶解体をする経済的な意味はない”。

 その結果、18あるEU承認施設のひとつであるフランスの港ボルドーは年間、1隻の船舶を解体するだけであるが、それは通常、公共団体が所有する船舶である。

 ”我々の船舶処理能力は年間10隻である”とボルドー港の造船所のディレクター、パトリック・ブロケードは述べた。”今日、我々の役割は非常に小さい”。

 欧州のほとんどの船主は、古い船舶をどうするかを決定するときに最終収益を綿密に検討しており、現在は、利益が環境的懸念に勝る。

 2016年には、EU法人所有の又はEU船籍の328隻の船舶が解体されたが、そのうち84%は南アジアの海岸に乗り上げて解体されたとジェンセンは述べた。

 同 NGO によれば、ドイツの船主は、解体のために売られた合計 99隻のうち、南アジアの海岸に乗り上げた97隻の船舶に責任がある。ギリシャは南アジアの船舶解体場に売った104隻の船舶に責任があるが、その数はEU諸国の中で最高である(訳注2)。

 ブリュッセル(欧州委員会)で検討されているひとつの解決方法は、クリーンな解体場を使用させるために船主に財政的動機を与えることである。

 そのアイディアは、EUの港に入る全ての船舶にある手数料を課すことである。船舶の運用期間中に徴収された金は、その船がEU承認の解体場で最終的にスクラップにされるなら、返金されることになる。その構想は、NGOs 及び欧州の造船産業によって支持されているが、船主からは強く反対されており、国際海事機関(IMO)によってまとめられた世界的解決のための取組みを混乱させるものであると非難した。同機関は、2009年に船舶の安全な処分に関する香港条約を採択したが(訳注3)、非常にわずかな国しか批准していないので、それはまだ発効していない。国際的船主協会は自主的なガイドラインだけを持っている。

 バーホーベンは、例えEUが、南アジアでの船舶解体とEU承認解体場との相違を相殺することを目指す財政的動機に同意しても、欧州の解体場は能力不足なので効果がないと警告した。

 ”我々は欧州に確かに解体能力を持っているが、それは大型バンカー船やコンテナー船を解体するのには適していない”と彼は述べた。”そしてもし、政府又はEUがこれらの施設を作るために金を出さないなら、我々は決してそのような能力を持つことはできないと、私は思う”。

 結局、欧州委員会は、その措置のEU及び国際法との整合性について、”更なる検討が必要” として、手数料の導入に難色を示した。

 欧州委員会は、造船所のリストの更新のために欧州共同体の外から22件の登録申請があったが、そのことはまだ世界的な影響力を持っていることを示していると述べて、道徳的な説得がうまくいくことを期待している。”リストへの登録申請は、世界中の様々な地域の施設からきている”と、欧州委員会報道担当官は述べた。”このことは、そのリストが船籍に関係なく、すべての分野にとって一つの参考になるであろう”。


訳注1:ガダニ事故
訳注2:2016年船舶解体の状況
訳注3:IMO条約


化学物質問題市民研究会
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