FTAウォッチ 2007年3月13日
タイ−日本 FTA交渉:
背景:キャンペーンの経過、論点、行動計画


情報源:FTA Watch March 13, 2007
Japan-Thailand Economic Partnership Agreement (JTEPA)
Background: Campaign Chronology, Issues, and Planned Actions
JTEPA_Background070313.pdf

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2007年3月15日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/basel/JTEPA/070313_FTA_Watch.html


キャンペーンの経過

 2006年11月、FTAウォッチは、日本タイ経済連携協定(JTEPA)は関税削減を通じて両国間での有害廃棄物の貿易を促進するであろうことを知ることとなった。我々の問い合わせに応えてタイ外務省はそのことを確認した。FTAウォッチはJTEPAの草案を調査し、まさしく協定書の第3章(原産地規則)第28条(原産品)項目(i)〜(l)に廃棄物の記述を発見した。
 例えばJTEPA草案は関税分類 3825をリストしているが、それは都市ゴミの焼却灰、廃水設備からの汚泥、医療廃棄物などを含む。原産品に関するタイの表はこれら及びその他の有害廃棄物がJTEPA調印後10年以内に現在の関税率をゼロにまで引き下げることによってタイと日本の間で自由に輸入・輸出されることができるようにする。

 多くのことが懸念され不安となり、FTAウォッチはJTEPAがもたらすかも知れない結果と影響について一般公衆に知らせるために多くの報道発表を行ったが、それらは今までにタイでは公衆の間で議論されたことがないことであった。
 タイ外務省は、NGOs、大学人、及びジャーナリストの間に広がる懸念に対し12月22日にバンコクのチュラロンコーン大学で公聴会を開催することで対応した。
 FTAウォッチは、この会議のために割かれた時間はJTEPAに関連する全ての問題について議論するためにはあまりにも短すぎるので、本物の公聴会ではないと指摘した。一方、JTEPA草案は公衆の審査を受けるよう事前に公開されることはなかった。したがってFTAウォッチは、そのような儀式的な会議に参加せず、代わりに会場の近くで別途の記者会見を行い、政府が現在の形でJTEPAに調印することに反対するためにもっと広い公衆キャンペーンが必要であるとした。

 同時に、FTAウォッチは様々な社会団体に働きかけることを開始し、彼らにJTEPAには有害廃棄物のリストなど多くの懸念ある問題点があり、全ての利害関係者による注意深い再検証がなされるべきであると伝えた。
 2007年1月11日、FTAウォッチとその同盟組織の4人の代表は国家立法会議(NLA)の公衆参加委員会に説明を行った。1月29日、FTAウォッチの代表は国家人権委員会(NHRC)の議長と共にタイ国首相スラユット将軍に面会し、政府はJTEPA草案の検証に少なくとも6ヶ月はかけるべきであると勧告した。しかしスラユット首相は6ヶ月は長すぎると言い、政府は3ヶ月で草案を再検証すると回答した。

 2月6日、FTAウォッチは国家経済社会諮問委員会(NESAC)にJTEPAについての懸念、特に関税が削減される物品の中に有害廃棄物が含まれていることについて説明した。国家経済社会諮問委員会(NESAC)は、スラユット政権に対して政府はJTEPA草案を見直すべきであると勧告した。多くのメンバーはまた、有害廃棄物のリストはJTEPA草案から削除されるべきとするFTAウォッチの考えを支持した。

 一方、政府はJTEPA草案を討議のために国家立法会議(NLA)に送付した。そこでFTAウォッチは国家立法会議(NLA)のメンバに個別の働きかけを行った。2007年2月14日、FTAウォッチは国家立法会議(NLA)の他の委員会である外務委員会に説明を行った。多くの国家立法会議(NLA)のメンバーは、草案文書及び現在の政府による調印の正当性についての疑問を提起した。
 JTEPA草案は国家立法会議(NLA)のメンバーに対し、まさに最後のぎりぎりである会議の1日前、また多くのメンバーに対しては会議当日に開示された。
 国家立法会議(NLA)の多くのメンバーは、JTEPA草案を十分に調査する機会がなかったにもかかわらず、JTEPA草案に賛成した。彼らは重要な論点について明確に理解しておらず、タイ外務省の一方的な説明を単純に受け入れた。一方、多くの国家立法会議(NLA)メンバーはさらなる討議のための時間を要求したが、議長は彼らに発言の機会を与えなかった。
 FTAウォッチは、国家立法会議(NLA)はクーデターによって違法に政権を掌握した政府によって強硬に推し進められるプロセスを正当化するために利用されていたということを遺憾に思った。

 国家立法会議(NLA)の支持に弾みをつけてスラユット内閣は2月28日に議案を通し、タイ外務省にJTEPAは調印の準備ができていると指示した。同時に政府はタイ外務省に対し、JTEPAが有害廃棄物貿易と微生物特許の二つの懸念に関連するタイの国内法を無効にすることがないことを確実にするために、これら二つの問題を明確にするよう命じた。
 そのためにタイ外務省は、他のこととともに、特にJTEPAは両国に対し有害廃棄物の輸入または輸出に同意することを義務付けるものではないということを述べる1ページの付属書をJTEPA草案に加えることを日本政府と交渉することとなった。
 そしてタイ外務省はスラユット首相の訪日の日程を、日本とタイの外交関係樹立120周年を記念する行事に参加するために4月2日から4日と設定した。スラユット首相は訪日中にカウンターパートナーである安倍首相とともにJTEPAに調印することが予想される。

なぜFTAウォッチはJTEPAに反対するのか?

 まず第一にJTEPA草案は、タクシン前政権の取組として非常に急いで作成され交渉が行われたことである。既得権益を持ち大きな影響力を持つ人々の小さなグループだけがJTEPA草案作成のプロセスに関与した。
 JTEPAは貿易と投資についての協定であると言われている。しかし、実際にはJTEPAの内容は環境、健康、福祉さらには国家の安全や自主権にいたるまで、もっと範囲が広くその影響は遠くにまで及ぶ。しかし、これらの分野に責任がある政府省庁や機関でさえ、JTEPAの草案作成の作業に招かれることはなかった。実際、彼らはつい最近までJTEPA草案に何が書かれているのかさえ知らなかった。

 第二の問題は、JTEPAの作成及び交渉に公衆の十分な参加が欠如していたということである。タイ外務省は公衆参加の機会を作り、様々な利害関係者から意見を聞いたと主張する。しかし、12月22日の”公聴会”はせいぜい単なる世間に対する受けをねらただけのものである。議論に割かれた時間は非常に短くJTEPA草案は会議の前に開示されることはなかった。
 FTAウォッチはそのような公聴会のやり方はタイにおける公衆参加や民主主義の向上に役に立たないということを指摘した。実際、現政権のJTEPAを強引に進めるやり方は、1997年タイ国憲法に規定されている人々の参加の権利を侵害するものである。
 この問題について、FTAウォッチ及び他の組織や個人は全ての利害関係者に受け入れられる中立な委員会がJTEPA草案の内容だけでなく、この草案が作成されたプロセスをも検証するために設立されるべきであると提案した。

 第三に、FTAウォッチはJTEPAがもし現在の形のままで調印されれば日本からタイへの有害廃棄物輸入が増加するであろうことを信ずるに足る十分な証拠を持っている。タイ外務省はJTEPAはタイが日本によって送られる有害廃棄物を受け入れること求めていないと述べた。しかし、有害廃棄物はJTEPA草案の中で変装している。JTEPAの美しい言葉は”原産品”という言葉の下に有害廃棄物をリストしている。
 JTEPAはまた、産業廃棄物のリサイクリングを通じて有害廃棄物の輸入をもたらす。リサイクリングは有害廃棄物の輸入に道を開くのみでなく、産業廃棄物をリサイクルするためにタイにもっと多くの工場建設をもたらす。一旦有害廃棄物がタイに持ち込まれると、タイにおける有害廃棄物の管理と監視のシステムは多くの抜け穴を持っているので、それらが最終的にどのように投棄されるかを追跡することが非常に難しい。

行動計画

 重要な展開があればいつでもFTAウォッチは記者会見や記者発表を行って対応してきた。2月28日のJTEPAの調印に着手するという内閣の決定の後は、我々はタイにおけるJTEPAキャンペーンは新たな段階に入ることが必要であると感じ、一連の行動計画に着手した。

 3月18日、FTAウォッチはもうひとつの記者会見を行い、メディアと一般公衆がまだ十分には目を向けていないこの問題に注意を払うよう試みる。これは、TEPAがもっと多くの投資をタイで行うことをJ促進することに関することである。JTEPAで唱道されているように、もし日本からもっと多くの投資が行われるなら、国内の投資家らは悪影響を受けるであろうと指摘する。
 NESAC、NHRC、GSEI(社会環境研究所のためのガバナンス)及びNLAの中の公衆参加委員会は3月19日にこの問題、すなわちJTEPAと投資について討論するためにセミナーを開催する。これは、JTEPA草案はすでに多くの注目を浴びるようになった有害廃棄物の問題や微生物の特許の問題だけでなく、政府がまだ示していないその他の問題に関しても問題があるということを指摘するものである。

 最後に3月25日にFTAウォッチは公開セミナーを開催し、有害廃棄物や微生物以外の問題にも取り組んでいる多くの活動家も取り込むことを期待している。
 これらの分野は農業や健康等も含む。その中で、我々はもっと幅広くもっと情報の与えられた展望でJTEPAについて議論することができる。FTAウォッチはまた、JTEPA草案に対抗する文書をもっと包括的で体系的な方法で起草することを試みている。
 我々はこの3月25日の公開セミナーがJTEPAに関するもっと広い全国レベルのキャンペーンの新たな開始となり、タイだけでなく同じ考えをもった日本の市民組織からの支援もお願いしたい。

以上



化学物質問題市民研究会
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