グリーンピース東南アジア ブリーフィング 2007年1月9日
JTEPA 廃棄物自由貿易協定

情報源:Greenpeace Southeast Asia, Briefing, 9 January 2007
JTEPA - A Free Waste Trade Agreement
FINAL-English-Fact-Sheet1.pdf

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2007年1月10日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/basel/JTEPA/070109_JTEPA_gp_fact_sheet.html


 2004年以来、日本及びタイ政府は正式には日本タイ経済協力協定(FTEPA)と呼ばれる自由貿易協定を公式に交渉している。この協定は日本からタイへ輸出される日本の有害廃棄物をリストにし、それらの関税撤廃を求めている。

 交渉中の協定書の全文と有害廃棄物のリストはまだ公開されていないが、同協定は2007年1月には国家立法会議によって承認されることが予想されている。

 JTEPA が秘密に覆われているということは衝撃的なことである。それと同時に恐ろしいことは、制限されている有害廃棄物のタイへの輸出を容易にすることを意図しているこの貿易協定は、たとえリサイクルが目的であっても貧しい国への全ての有害廃棄物の投棄を阻止する有害廃棄物の国境を越える移動に関するバーゼル条約を採択した世界の共同体が明確に非難し弾劾した有害廃棄物貿易を実際に合法化するということである。

 JEEPAの交渉責任者であるピサン・マナワプトは2006年11月28日の公式の書簡の中で、”タイは海藻の灰(ケルプ)、一般廃棄物焼却炉からの灰と残渣等の灰とその他のスラッグは関税を直ちに1%からゼロに削減し、化学又は他のどこにも示されていない関連産業からの残渣、一般廃棄物、下水汚泥、その他の廃棄物は直ちに又は3年で5%からゼロに削減する”ということを確認した。タイ関税分類によれば、後半のタイプの廃棄物にはまた医療廃棄物が含まれる。タイ交渉担当者が協定書全文を公開しないので、この公式書簡の中で述べられた廃棄物以外にJTEPAに他の廃棄物が含まれているかどうかについて公衆は知ることができない。

なぜ日本は有害物質を輸出したがるのか?

 日本では大量の廃棄物が発生している。産業廃棄物が年間4億1,200万トン、一般廃棄物が年間5,100万トンが発生している。日本は世界最多の一般廃棄物焼却炉1,850基を保有している。これらの焼却炉は人の健康と環境に深刻な影響を与える残留性有害化学物質を放出する。日本は発がん性物質であるダイオキシンを世界で最も多く排出しており、それらの大部分は廃棄物焼却炉に由来する。
 日本では廃棄物が日々増大しているのに埋め立て用地が十分にないので、埋め立てもまた多くの問題を起こしている。焼却炉からの灰の埋め立てはダイオキシンを周囲の環境に排出し、風がそれを他の場所に運ぶまで周囲の大気中に長期間滞在する。
 世界最大の埋め立て処分場のある谷戸沢ではがんが原因で死ぬ人が多い。これらの理由で日本は廃棄物を輸出することによっ廃棄物の問題の解決を図ろうとしている。
 日本は、タイ、フィリピン、インドネシアのような、より貧しい国に対し廃棄物を貿易交渉の道具として用いることによって廃棄物輸出を合法化しようとしている。

 タイ政府は、”どのような原材料もそれが化学製品であろうとその他のものであろうと、人、動物、植物、財産、又は環境を損なうかもしれないものは”有害物質法1992年”により管理されるので、上述の関税削減は日本からの廃棄物の輸入自由化に門戸を開くことを意味するものではない”と主張している。

 通関当局の統計は、2006年の最初の11か月間で日本は、関税の分類を”その他”と表記して有害廃棄物−海藻の灰(ケルプ)、一般廃棄物焼却炉からの灰と残渣等の灰、及びその他のスラッグ−396,809トンをタイに送り込んでいることを明らかにしている。日本からのこの量は、タイに廃棄物を送った8か国の全量の98%である。同期間中、日本は、関税の分類を”化学又は関連産業”と表記して”医療廃棄物” 42kgをタイに送った唯一の国である。

タイ自身の有害廃棄物問題

 実際に今日、タイはでは”有害物質法1992年”がすでに実施されているにもかかわらず、自国の有害廃棄物から生じる多くの問題に直面している。汚染管理部門の情報によれば、2004年にタイでは約181万トンの有害廃棄物が発生している。産業分野からの有害廃棄物140.5万トンのうちわずか50%だけが処理されており、家庭から出る有害廃棄物40.3万トンのうちほとんどは適切に管理されていない。結果として多くの有害廃棄物の不法投棄事件が起きているが、違反者は捕まらず罰金をとられることもない。それに加えて他国がタイに輸出する多くの多くの有害廃棄物がある。例えば、2003年にはイギリスは有害廃棄物をクロン・トエイ(Klong Toey)とサムトプラカルンの港に送り込んだ。

バーゼル条約との矛盾

 タイと日本はともにバーゼル条約の締約国であるが、この条約は先進国から開発途上国に投棄される廃棄物の問題を解決するための国際的な取組として作られたものである。JTEPAにおける有害廃棄物の関税撤廃はバーゼル条約の意図に全く反するものである。それにもかかわらず、バーゼル条約にはリサイクルのためならは有害廃棄物の輸出を許すという抜け道がある。有害廃棄物リサイクリングはリサイクルを行う作業者にとって非常に危険であり、リサイクル作業の後に残る有害残留物が環境を汚染する。したがって、バーゼル禁止と呼ばれる同条約の修正があり、それはリサイクル目的であっても有害廃棄物の輸出入を禁止している。日本もタイもこのバーゼル禁止を批准していない。さらに悪いことには、日本は、JTEPAを通じてタイに有害廃棄物を投棄することを合法化する企てと同じように、バーゼル禁止の実施に反対して活動している主要国である。

有害廃棄物の関税撤廃に対するタイ交渉担当者の理由

 2006年12月22日のチュラロンコーン大学におけるJTEPAに関する”公聴会”で一つの質問が交渉担当者らに投げかけられた。”もし、JTEPAにおける有害廃棄物輸入がすでに有害廃棄物法1992年によって禁止されているなら、なぜ有害廃棄物の関税撤廃がJTEPAに含まれているのか?” 交渉担当者の1人は、”それは交渉の戦術である”と答えた。これは明らかに非常に悪い戦術である。なぜなら、日本の交渉担当者は、廃棄物をタイに輸出することができないならJTEPAにそれらを含めなかったであろうからである。一方、税関当局の統計は明らかに日本がすでにこれらの有害廃棄物をタイに輸出していることを示している。もしJTEPAが署名され批准されたら、間違いなくタイはもっと多くの有害廃棄物を受け取り、永久に日本のゴミ容器になるであろう。

結論

 タイと日本の政府はJTEPAに廃棄物貿易自由化の条項を含めることの重要性について誠実さを欠いた。実際にこれらの条項を含めることは、廃棄物管理の国内処理の包括的な政策に深刻な影響を我が国及び国際的に与え、バーゼル条約によって確立されたこれらの規範と自由貿易との間の衝突を引き起こすように計画されたように見える。関税撤廃は多くの製品に適用されるが、貿易対象のいくつかの物質を管理する又は禁止することは強い倫理的、環境的、さらには経済的な意味があるということはよく知られていることである。有害廃棄物は世界の共同体が管理し、それらの輸出がより弱い経済に外部コストを課すことになる場合には、きっぱりと禁止することを求めてきた物質のうちの一つである。様々な局面でバーゼル条約の義務を先頭に立って攻撃している国、日本はJTEPAに非常に疑わしい意図を持っている。実際、廃棄物の自由貿易を抑制するために作られたこれらの法律がこれらの関税撤廃によって攻撃にさらされている。この協定から廃棄物の全てが削除されるまで、この協定の批准を阻止するために速やかな措置がとられなくてはならない。

勧告
  1. タイ国家立法会議と日本の議会の双方は、全ての廃棄物のリストが関税削減条項から抹消されるまでこの協定を批准することを拒否すべきである。
  2. 日本とタイは、環境正義と廃棄物自国内処理に関するバーゼル条約の原則を支持するという強いメッセージを送るために、可能な限り早急にバーゼル条約禁止修正条項を批准すべきである。バーゼル条約加盟国によって1995年以来、求められているにもかかわらず両国がバーゼル禁止を批准していないことは大きな間違いである。
  3. 日本及びタイ両国で完全に公平な複数の利害関係者による審議により、JTEPAにそのような条項をどのようにして含めるか決定されるべきである。
  4. 日本とタイは有害物質の使用を削減し過剰な包装と計画的製品廃用化をなくすことにより有害及びその他の廃棄物をその源から防ぐための真剣なプログラムに着手すべきである。


化学物質問題市民研究会
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