2006年12月8日タイ・バンコク セミナー「日タイFTA交渉と環境・汚染問題」報告 報告:土井利幸 (タイ・マヒドン大学大学院博士課程在籍) 掲載日:2006年12月9日 このページへのリンク: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/basel/JTEPA/061208JTEPA_seminar.html
冒頭、グリーンピース東南アジア(GPSEA)で反有害物質キャンペーンを担当するキティクン・キティアラームさんは、日ピ経済連携協定(JPEPA)を事例として、その具体的内容、とりわけ関税引き下げが、日本から他国への有害物質流出につながる仕組みを説明しました。また、キティクンさんは、日ピ両国の市民社会の動きにも触れ、フィリピンで様々な抗議行動が展開されたこと、日本の外務省のホームページでは英語と日本語の情報に齟齬があり、日本の市民に対してJPEPAの影響が周知されていない点を指摘しました。 代替産業ネットワークキャンペーンのペンチョーム・セータンさんは、今年三ヶ月間日本に滞在し、富山や北九州で産業公害の現場を実地調査した経験に基づき、日本の産業公害汚染が出口なしの状態で、有害物質流出の背景になっている事実を、映像をまじえて紹介しました。これを受ける形で、社会開発と環境のためのガバナンス研究所のスターワン・サティアンタイさんが、タイでも近年急速に産業公害が進行していることに警鐘を発しつつ、日本からの有害物質流入が現状を深刻化させる点を強調しました。 最後に、国家人権委員会のバントゥーン・セッタシロートさんが、JTEPA交渉過程の問題点を解説しました。バントゥーンさんによると、12月22日にバンコクで「公聴会」が開催されますが、JTEPAの具体的内容に関しては、いまだに十分な情報が開示されていません。また、課題は有害物質流入の件に限られておらず、700名もの人びとが出席すると言われるたった一日の「公聴会」で、あらゆる課題について議論を深めることはまったく不可能です。むしろ、政府に「市民の意見を聞いた」という口実を与えてしまいかねません。バントゥーンさんは、「個人的見解」と断わりながらも、現立法府が真に国民を代表するものではない以上、拙速な決定は見合わされるべきだとしました。 また、質疑応答の時間に、ペンチョームさんが、JPEPAによる有害物質流入の問題に対して日本の市民団体が発した共同声明文(11月29日英語版)を参加者に配布し、日本でも本件を注視している人々のいることが紹介されました。 集会の参加者は、主催者を含めて15名。メディア関係者では7チャンネルが取材に来ていました(報道されたかどうかは未確認)。ペンチョームさんの話では、二週間前に同趣旨の学習会を開いた時には、朝日新聞のタイ人記者が参加したのみ。ということで、中国とのFTAをはじめ、FTA一般に対する関心が高い一方で、環境への悪影響についてはタイでもほとんどかえりみられていないようです。12月22日の「公聴会」当日は、会の内外で呼応した活動が組まれることでしょうし、今後交渉内容の細部が明らかになるにつれ、タイ社会での関心も高まっていくではありましょうが、キャンペーンの先行きは平坦ではなさそうです。月並みですが、こういう現状だからこそ、日タイ両サイドの市民間でこれまでの情報・経験・戦略を交換することで、最大限の成果を期待したいところです。 写真:JTEPAによる有害物質流入をうったえる発題者(左から、キティクンさん、スターワンさん、バントゥーンさん、ペンチョームさん) 2006年12月9日 土井利幸(どい・としゆき) タイ・マヒドン大学大学院博士課程在籍 |