BAN からのメッセージ
E-wasteの適正管理のためのアジア地域 ワークショップ
バーゼル条約事務局・日本環境省共催

2005年12月22日
高宮由佳(バーゼル・アクション・ネットワーク(BAN) )
http://www.ban.org
(本稿は化学物質問題市民研究会ピコ通信88号(2005年12月22日発行)に掲載されたものです)
化学物質問題市民研究会 2005年12月22日
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/


 皆さん、E-wasteという言葉を耳にされたことがあるでしょうか? E-wasteとは Electronic and Electric Waste のアメリカ英語の略で、パソコンをはじめとする廃電子電気製品のことを指します。このE-wasteの環境上適正な管理、いわゆるESM(Environmentally Sound Management)をアジア太平洋地域全体で実現させるために、2005年11月21日〜24日、バーゼル条約事務局、日本環境省、国立環境研究所の共催でE-wasteワークショップが開かれました。

 なぜバーゼル条約事務局がアジア地域のE-waste問題に関与するかといえば、電子電気製品には鉛、ガリウムひ素、水銀、カドミウム、ポリ塩化ビフェニール(PCB)、臭素化難燃剤(BFR)など様々な有害物質が使用されているため、使い古した電子電気製品は有害廃棄物として、バーゼル条約の規制に応じて適正に処理されるべきものだからです。しかし、この有害なE-wasteが安い人件費と緩い環境規制が原因で、特に中国などのアジアの貧しい農村地域へ不法輸出され、不適切な処理・廃棄によって環境汚染を引き起こしているという事例が後を絶ちません。

 こうしたE-wasteの不適切な越境移動を未然に防ぐ対策の一環として、本年7月に開催されたバーゼル条約第4回作業部会において、「アジア太平洋地域におけるE-wasteの環境上適正な管理プロジェクト」 (2005〜08年)の実施が承認されました。 今回のE-wasteワークショップはそのプロジェクトのキックオフということで、アジアの途上国各国が各々提出したプロジェクトについて政府代表者、研究者、産業界、NGOなどの間で策定が試みられたのです。
 Basel Action Network(BAN)は米国シアトルを拠点に有害廃棄物の越境移動問題に取り組む環境NGOで、今回のE-wasteワークショップでは正式参加者として発表・発言をして参りました。以下に、ワークショップ全体の議論、BANの発表、それらの結果をまとめ、NGOの立場から分析しながら、E-wasteの問題の核心を追及したと思います。

◆E-wasteワークショップ/議論の流れ

 バーゼル条約事務局の説明によると、E-wasteはアジアの多くの国々で急速に顕在化しており、アジア太平洋地域レベルでの取り組みを緊急に要する問題になってきています。その背景には三点あります。
  1. 再生資源(すなわち、リサイクル向けの廃棄物、特に電子機器)の南北間そして南南間の越境移動が増加の傾向にあります。
  2. 経済のグローバル化に伴い、再生資源のグローバル、リージョナル(地域的)な貿易圏が形成され始めています。
  3. 中古パソコンのような中古品・再生品の輸出入を促進、環境関連財・サービス(WTOの定義)を含む製品・商品の貿易障壁を低減する方策を検討している政府が増えています。
 この実状を踏まえてE-wasteワークショップでは、各国の有害廃棄物の輸出入に関する状況や対応、または制度や法律について情報交換を行い、各国に異なる、あるいは共通する弱点や今後の課題が認識されました。具体的な議論の中身として重要なものを以下に三点挙げます。(参考:中央環境審議会 廃棄物・リサイクル部会 国際循環型社会形成と環境保全に関する専門委員会 第二回 配布資料1『国際循環型社会形成におけるバーゼル条約の役割』桑原バーゼル条約事務局長提出)

  1. E-wasteが先進国から途上国へ流れ、環境汚染、健康侵害を引き起こしている原因は、南北間の経済発展格差、労働賃金の格差、国内法規制の格差、環境基準の格差です。これらを克服し、環境汚染を伴ったE-wasteの不法輸出入を防ぐには、バーゼル条約通告制度が活用されなければなりませんが、そのために各国の迅速かつ的確な行動に対する支援、キャパシティビルディングが必要です。バーゼル条約は、有害廃棄物の通告制度の効果的な運用を促進することにより、地球規模・地域規模での再生資源の管理と越境移動について共通のルールと基準("level playing field")構築の基礎を提供する役割を担います。
  2. E-wasteの越境移動や管理・処理に関する情報の不足、情報の不確実性の解消が必要です。地域レベルで、データベースの構築、ESMに関する情報や経験の共有とE-wasteの分類基準や定義の共通化を図っていくべきです。
  3. 止まないE-wasteの不法輸出入を防ぐためには、税関職員、取締官のトレーニング強化のみならず、政府、地方自治体、リサイクル業者、産業界、消費者・市民まで、すべての関係者の意識向上を促進させる必要があります。
 今回のワークショップでは、E-wasteの輸出国と輸入国が同じ一つのテーブルを囲んでいました。日本もアジアの各発展途上国も、有害廃棄物の不法輸出入対策に向けて連携することを約束したわけですが、ここで私がひとつ疑問に感じるのは、中古品(廃棄物になる可能性の高い寿命の短い製品)や廃棄物は先進国から途上国へ流れる、という構造が歴史的に確固としてある中で、E-wasteの「地域リサイクルシステム」を構築するというプロジェクトのねらいに途上国は果たして納得できたのでしょうか?

◆途上国の懸念「中古品はすぐにゴミと化す」


(c) Basel Action Network 2005
 BANの2002年のレポートとドキュメンタリー"Exporting Harm: High-TechTrashing of Asia"は、中国の貧しい農村で北米や日本から「リサイクル品」とか「再生資源」として輸入された使用済みのパソコンやプリンターを農民が防護もなしに素手で解体、選別、野焼きをしている実態を世界に暴露しました。そして今年の秋にBANはExporting Harmの続編といえる、"The Digital Dump: Exporting Re-use and Abuse to Africa"と題したレポートとドキュメンタリー(注1、2)を製作しました。

(注1)The Digital Dump のレポートとドキュメンタリーはBANのホームページ http://www.ban.org で入手可能です。

(注2)バーゼル・アクション・ネットワーク プレスリリース 2005年10月24日 ハイテク有害ゴミがアフリカへ輸出 アメリカとヨーロッパは”再使用・修理”貿易でディジタルごみ捨て場を作り出す (当研究会訳)

 北米やヨーロッパから中古品と廃棄物との間のグレーゾーンを狙って、また、「Digital Divide(情報技術を持つ者と持たない者のギャップ)を埋める」という一見良心的な名目のもと、中古品・寄贈品と偽って、もう使い物・売り物にならないパソコンやテレビなどいわゆる「がらくた」が送られている実態に注意を喚起しています。
 機能する「中古品」と機能しない「廃棄物」を区別・検査する体制が、輸出港・輸入港の両際で無いに等しく、ナイジェリアへ輸出される中古家電製品(PC、プリンター、テレビなど)の全体量のうち、約75%はもう機能しない廃棄物であると我々の調査結果は示しています。
 ナイジェリアにはそういったE-wasteを適正にリサイクルできる施設が存在しないので、結局、売り物にならないものは倉庫の中に放置されるか、あるいは、人家近くの空き地や道端、湿地に廃棄され、カサを減らす為に焼却され、有害物質の溶出や煙による放出によって環境汚染・健康侵害が引き起こされているのです。

 先のE-wasteワークショップでは発展途上国の代表や我々NGOが揃って提言した点がありました。
  • 拡大生産者責任(EPR)の重要性、EPRをいかに具体化するか
  • 廃棄物の発生削減の最優先(Reduce, Reuse, Recycleの優先順位)
  • 有害物質の生産段階での除去の最優先
◆Recycle よりも Reduceを!

 2005年4月に行われたG8の廃棄物政策、3Rイニシアティブの会合が開かれた際もBANはRecycleへの過剰な依存について警告を発しました。3R(Reduce、Re-use、Recycle)はまずReduce(廃棄物発生の削減)、次にRe-use(資源の再使用)そして 最終手段としてRecycle(資源のリサイクル)、この優先順位でごみ問題を解決していこうというのがその本意です。廃棄物を「再生可能な資源、すなわち、リサイクル資源」として扱い、その国際循環を促進する傾向が近年目立ってきました。今回のE-wasteワークショップも全面的にE-wasteの国際リサイクルを促進するものであり、そもそものE-waste発生の削減に対する視点が明らかに欠けていました。

 発展途上国からのワークショップ参加者の「中古品、使用済み製品はいらない!」という悲痛な叫びは決して小さくありませんでした。発展途上国には例えば、使用済みパソコンやテレビが、安価な製品として、寄贈品として、先進国から送られてきますが、それらは寿命が短いため、結局すぐにごみとなって廃棄処分されるのです。
 先進国は生活の便を向上させるといった電気電化製品の恩恵だけを味わい、寿命を迎えた製品の処理の責任は途上国へ転嫁しているのです。世界の「環境不正義」の一例と言えるでしょう。発展途上国と共にBANは、拡大生産者責任に基づく廃棄物の発生源での削減、有害物質の生産段階からの除去を、より社会的に公平で効率的な対策方法であるとして強く主張します。

◆アメリカと日本の NGO のかけはしの役割

 BANは米国シアトルにありますので、ワシントン州やシアトル周辺の郡レベルのE-wasteの環境上適正な管理の制度化を目指す委員会などに参加しています。また、バーゼル条約の理念や規則を尊重し、E-wasteの有害部分を途上国(非OECD国)に輸出しないと誓約したリサイクル業者の連合を組織するなど、アメリカ国内におけるE-wasteの適正な処理の社会体制の構築に貢献しています。
 その中での日本人である私の役割といえば、有害廃棄物の国際循環にかかわる政策、特に日本政府が主導する3Rイニシアティブを継続的に監視・分析し、より社会的に公平な環境保護政策となるよう提言活動をすることです。また、アメリカと日本のE-waste問題に取り組むNGOコミュニティーの架け橋としての役割を担うべく、連密な情報交換を心がけていくつもりです。
 アメリカはバーゼル条約自体も批准していませんが、アメリカと日本は世界の最大E-waste産出国ですので、この2国の中からE-wasteの真に公平で環境上適正な管理を促進していくことの意義は大変大きいでしょう。


化学物質問題市民研究会
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