BAN 有害廃棄物ニュース 2006年9月15日
コートジボワールの有害廃棄物投棄の謎は深まる
硫化水素が原因か?


情報源:Toxic Trade News / 15 September 2006
Toxic waste mystery in Ivory Coast deepens
by Debora MacKenzie, New Scientist (UK)
http://www.ban.org/ban_news/2006/060915_toxic_mystery.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年9月17日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/basel/BAN/06_09_15_toxic_waste_mystery.html


 8月にコートジボワール(アフリカ西部象牙海岸)の港市アビジャン周辺の野ざらしのゴミ捨て場11か所に投棄された有害廃棄物で、現在までに7人が死亡し30,000人が被害を受けたと報告されている。
 コートジボワール政府はこの事件で総辞職し、15日(金)には怒った群集が港湾責任者の家に火を放った。いくつかの投棄現場は未だに囲いがなされず、子ども達が中で遊んでいる。

 被害者の治療は彼らが何によって毒されたのかによるが、それは謎のままである。国連環境計画(UNEP)からの専門家らが調査のためにアビジャンに急遽、派遣された。”外国の専門家ら”が15日(金)にアビジャンで、廃棄物には硫化水素(H2S)が含まれていると述べたと伝えられるが、その廃棄物を所有する会社はそれは”驚くべきことである”と述べている。

 硫化水素は腐った卵のような独特の臭いがするが、アビジョンで投棄が行われた後は同市のいたる所でそのような臭いがしている。実際、この悪臭はアビジョンにこの廃棄物が到着してからのものである。

スロップ(洗浄排水)の荷おろし

 2006年7月2日、プロボ・コアラ号はジブラルタルからアムステルダムに寄港し、アムステルダム港湾サービス(APS)に”スロップ(苛性ソーダで貨物船を洗浄した後の廃水)”の処理を依頼した(訳注1:スロップの処理)。同船は、ガソリンを製造するための石油誘導体を運ぶためにトラフィグラ・ビヒール社と契約していた。

 そのようなスロップは通常、船舶からの汚染防止に関する1978年のマルポール条約(訳注2)の下で取り扱われる。”しかし、ポンプでそれらをくみ出した時に、腐った卵のような臭いがした”−と有害廃棄物の取引を監視する圧力団体でアメリカのシアトルに拠点を置くバーゼル・アクション・ネットワーク(BAN)のジム・パケットは述べている。

 このことは、それは正規のマルポール廃棄物ではなく、異なったやり方で処理されなくてはならなかった。アムステルダム港湾サービス(APS)は処理費用としてもっと多くの金を要求した。”船の管理者はその価格は高すぎると判断した”−とトラフィグラ社の報道担当は「New Scientist」記者に述べた。

 彼らは、廃棄物(スロップ)をポンプで船に戻して出港し、エストニアとナイジェリアに寄港し、最終的にコートジボワールのアビジャンでカンパニエ・トミー社とこの廃棄物の引き取りについて契約した。トラフィグラ社は、トミー社がトラフィグラ社の関連会社であるピューマ・エナージ社の所有会社であるという報告を否定した。

 アムステルダム港湾サービス(APS)はその廃棄物を化学的に分析していたが、”彼らは硫化水素については分析を行っていなかった”−とトラフィグラ社の報道担当は述べた。”私は硫化水素の存在は否定できないが、私はひどく驚いている。”

呼吸困難

 硫化水素(訳注3)への低レベル暴露による症状には遅延性があり、頭痛、めまい、衰弱、喉の痛み、吐き気、鼻血、呼吸困難などがある。これらの症状はアビジャンで人々により報告されている。

 イギリスの安全衛生長官ミカエル・コスティガンは、1,000ppmのガス濃度では数分間で、その半分の濃度では数時間で意識不明となり死亡するが、数百ppmのガス濃度でも目の痛みや呼吸困難をもたらすと述べている。

 硫化水素は青酸カリのように代謝毒性があり、人為的な発生源には石油化学工業などがあり、また、下水処理場、ごみ処理場などにおいても、硫黄が嫌気性細菌によって還元され硫化水素が発生する。



訳注1:スロップ処理
 タンカーの場合、タンククリーニングは空荷航海中に行われ、スロップタンク(洗浄汚水を集めるタンク、積荷航海時には貨物タンクとして使用する)に溜まった汚水は比重差を利用して水と油に完全に分離される。清浄な水は航海中に排出できるが、油分を含んだ汚水は海洋汚染防止の観点から排出できない。このため航海中はスロップタンクに溜めておき、積み地で陸揚げするか集油船に移送して回収することになる。(プロダクトタンカー/川崎汽船

訳注2:マルポール条約
船舶の運航やその事故による海洋の汚染を防止するための条約。1983年から国際的に発効。日本は1983年6月に加入した。 油類、バラ積み有害液体物質、梱包されて輸送される有害物質、汚水及び廃物の全てが規制対象となっている。(マルポール73/78条約/EICネット

訳注3:硫化水素
(出典:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)



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