第三話 真実の心 |
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■何日目かに、もう過ぎた日数さえ、数えるのを諦めてしまっていた。 もう1週間以上もの間、砂漠で失われた<水の石>を探す、そして魔物との戦いも続いていた。 ユイジェスやレーンと別れて、神官フィオーラの持っていた「転送の印」を含んだ石を使い、自分達は砂漠へと跳んだ。 シャボール王国を越え、西の荒廃する砂漠地帯は以前あった王国の名からチェミーロ地方と呼ばれている。シャボールも砂漠を抱える国だが、チェミーロ地方には更に広大な砂漠地帯が広がっていた。 今となっては小数の移動民族が姿を見せるだけの、人の住まない荒野である。 リカロは、砂漠での日々の後半を熱射病で過ごすしかなくなっていた。 せっかく、ルーサスにおんぶしてもらっていると言うのに、今の彼女には喜んでいる気力も無いらしい。 昼の砂漠の暑さ。夜の寒さ。何度も激しい温度差を味わった<神々の涙>探しは今までになく過酷だった。砂漠には砂漠故の魔物も多く存在する。 リカロだけでなく、ルーサスや、同行しているフィオーラでさえもすでに限界状態だった。 あれから・・・、ユイジェス達はどうしただろう。 まだ、国境の町ギマにいるんだろうか。 自国にある聖地に、<命の杖>を受け継ぎに戻ると言ったレーンは・・・。 リカロは、おぼろげな、薄れていく意識の中で、先日別れた仲間達の事を思った。 「熱い・・・」 マントを深く被って、ルーサスにおんぶされていても、目の前の景色はゆらゆらを蜃気楼を見せて、歪んではかすれた。 「・・・ちっ・・・。水が切れた・・・」 すぐそばのはずなのに、ルーサスの舌打ちが酷く遠くに木霊した。 「あそこに廃墟が見えるわ。少し休むわよ。リカロも心配だから」 マント越しにも、日差しが痛い中、気丈すぎるフィオーラがしきって休息に落ち着いた。 頭がぼうっとして、何も考えられなくなってしまっている・・・。 一緒にいるニ人、魔術師のルーサスと元水神の神官フィオーラは、リカロよりかは正気を保っていた。が、しかし、消耗はもう限度を超えていた。 いつの時代に滅びたのか、もう知る事の無い砂にさらされた廃墟の落とす影に三人は逃げ込み、果てしない疲れをいくらか癒すのだった。 夕刻、リカロは渇きに呻いて、貪るように堕ちた睡眠から目を覚ます。 「・・・・・」 遠い砂丘の向こうに、陽が落ちてゆくところだった。横には崩れた石壁に寄りかかり、死んだように眠っている相棒のルーサスがいる。 深く頭に被せたマントの奥、疲れた彼の砂にまみれた顔に、リカロはそっと手をふれて覗き込んだ。 「・・・ルーサスごめんね。ありがとう・・・」 いち早く根をあげてしまって、彼に面倒をかけてしまった。この廃墟に、オアシスの痕跡でもあればいいんだけど・・・。彼を助けるために、そう思う。 もう少し横には、同行している、神官フィオーラの休む姿も見えた。 ルーサスとはラマス神殿での因縁もあり、彼女は強い姿勢を崩さない。 いい人なんだけど・・・。私には優しいし・・・。 太陽は、瞬く間に空から姿を消した。 これからの時間は、対照的な冷たく、凍える世界に砂漠は姿を変える。 私は、廃墟の中を水を探そうと歩き出した。 ふと。何かが呼んだ気がした。 「え・・・?」 誰だろう・・・・?私は首をかしげる。 私、夢の中でも誰かに呼ばれなかった・・・??? リカロは何処かに確信を覚えていた。 そう、とても優しい女の人に、私は夢の中で会ったような覚えがあった。 「呼んでる・・・!!」 |
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■サロール大陸、シャボール王国の西、すでに朽ちた砂漠地帯チェミーロ地方。 かつて、この砂漠地方にも王国はあったと言う。 それが今も名前の名残りを残す、チェミーロ王国。 その国の何処かに、水神イセーリアの宿るという、<水の石>は安置されていた。 かつては・・・。 <水の石>は、水神を信仰する信仰の国ラマス神殿にこそ安置されていた。 現在までラマス神殿に崇められていた<真実の輪>は、このチェミーロ王国にこそ、始めは置かれていたのだと言う。 <神々の涙>の一つ、<水の石>の力を砂漠の国は求め、ラマス神殿は<石>との交換に応じた。 その後、砂漠の王国チェミーロは潤いを得、繁栄するかと思ったのだが、その予想はもろく崩れ去った。その真相は誰も知らない。 この地方では、水の力が得られなかった、そう語る者もいた。 <水の石>が国にあるにもかかわらず、この国は砂漠のまま、誰にも止められることなく、急速に枯れて人は消えた。 荒廃した砂漠の何処かに、<水の石>はその姿を隠した。 国内でそれをめぐる争いがあったとも、盗賊に奪われたとも、話はいくらでも噂としてあがっていた。 けれど、真相は誰も知らなかった。 「きゃあああっ!」 名前も知らない、廃墟を水を求めてさまよっていたリカロは、意表をついて砂に足を取られ悲鳴を上げた。 ザザザザザザザザザザ・・・・!!ザンッ!! バシャアアアッツ!! 「がぼっ。がぼがぼ。がほっ!」 穴の上に砂が長い年月をかけ、積もっていた道だったのか、リカロは砂の中をズルズルと飲み込まれて落下、冷たい衝撃の中に突き落とされた。 「ひゃああっ!?水っ!?」 足がつかない程の、大量の水をまさか今感じることができるとは・・・。 リカロは贅沢な気持ちでも、砂の底の泉で立ち泳ぎをし、辺りを見回した。 なんて綺麗な水なの・・・? 砂の底、埋もれた建物の中に、水がたまった場所の様だった。地底となった場所、暗いのに、水自体が意思を持ったかのようにキラキラと輝いていた。 上に果てしなく広がる砂漠が嘘のようなまばゆい景色 足のつける場所はないか?リカロはきょろきょろと水面を見渡す。 その時、水中で何かが光ってリカロを呼んだ。 「あ・・・」 これだ。そうリカロは直感していた。 胸が、鼓動が何かを予感したのか、ひとりでに早くなる。息を大きく吸い込み、リカロは水中に潜って「光」を追う。 その正体はすぐに見つけることができた。 水中、瓦礫の中に、すでにもう形を定めていない女神像が倒れているのが、水明かりの中に揺れて見えた。ラマスの民であるリカロにはわかる、それは女神イセーリアの像だ。 自分の探す<封じられた神々の涙>、その一つ、水神の宿る石<水の石>はここにあるのだろうか。 倒れてもいまだに祈りの姿をとる、水神の像には青銀にきらめく、美しい腕輪が嵌められている。手を伸ばそうとした瞬間、水の中で、もの言わぬ女神像が瞳を開いた錯覚を覚えた。 (え・・・・・!!?) 過去に、女神と自分で尊敬し崇めた、あの日の最高司祭を思い出す。 一度だけ、その人に会った事がある。 でも、ただの一度は、決して忘れられない記憶になった。 ラマス王国における、女神、水神に愛され、その身に強い加護の力も受けていた、サーミリア・ディニアル。 何故、今彼女に会うのだろう。 すでに死した、若い彼女のままで。 まだ幼かった、あの日私が受けた微笑みのように、崩れた女神像はリカロに優しい微笑みを向ける。 (おいでなさい。リカロ) 小さい頃、両親と、姉達とで、ラマス神殿に赴いたことがあった。その時確かに、リカロはその女神を見たのだ。 (サ−ミリア様・・・?サーミリア様なの・・・!?) ここは水中のはずであった。しかし、リカロの瞳に映る景色は、幼い頃に見た女神との邂逅に遡る。 ルーサスと同じ、綺麗な深い翠の髪を揺らし、白い神官衣を纏ったサーミリア・ディニアルは泉のせせらぎの様な美しい声で自分に囁きかける。 「ありがとう・・・。感謝しています。いつもあの子を支えてくれるあなたに、私は心から感謝しています・・・」 何より、サーミリア・ディニアルは、今しがた水中の女神像に見つけた、聖銀の腕輪を身に付けている。 これは一体どういうことなの? 混乱と、逸る鼓動に、リカロはじっと彼女を見つめた。 「サーミリア様が、水神イセーリアなの、ですか・・・?」 ひときわ水神の加護を持ち、その身に水神の『印』も宿していたと聞くサーミリア・ディニアル。まさか彼女は神の化身だったのか・・・? 「私は、イセーリアではありません。けれど、女神は私の中に在ります」 「え・・・」 「女神は・・・。この地に<腕輪>を移され、水の力を渇いた大地に与えようとしたのです。しかし、すでに、水の力は失われつつありました・・・」 ・・・すぐには、話が理解できなかった。 水神はサーミリア・ディニアルの中にいる? 力を失った? 思い出す、水の石に宿る水神の力によって、この地方は潤うはずだった。けれど国は涸れた。それは何故か・・・。 「リカロ。お願いがあります。この腕輪を、その腕に」 「え!私ですか!?」 素でリカロは驚きに跳ね上がった。けれど、見つめたサーミリアの切ない痛切な瞳に、冷静さを呼び戻す。 「・・・・。サーミリア様の中に、水神がいるということは・・・。サーミリア様が、この腕輪の、<水の石>に宿るということですか・・・?」 白い両手の上に、煌く<水の腕輪>。 しかし、リカロは手に取る事をためらった。 どうして、すぐに思い出さなかったんだろう。 「私、受け取れません。サーミリア様、ルーサスが、あなたに会いたがっています。お母さんに、ずっと会いたがっているんです!」 父親に、母を殺されたその日から、彼の旅は始まった。 今でも悪夢にうなされる、ロイジック城の中池に浮かんだ母親の亡骸。 そのお母さんがここにいるのにっ!! 「ルーサスがするべきです。私呼んできます!」 「お待ちなさい。あの子には無理なのです」 間髪いれずに、母親は息子との再会を否定する。 「あの子には、私が感じられないのです、リカロ。あの子は、<水>を否定している」 水、それの否定の意味は、リカロにはすぐに思い立つ事があった。 ルーサスは、そう、ラマス神殿の後継者ではあるけれど、水神への祈りの言葉など一度たりとも聞いたことがない。ルーサスは水神を信じていない。 「そんな・・・・!」 リカロは叫ばずにはいられなかった。ここに、お母さんがいるのに! あんなに会いたがっているのに、どうして会えないの! 「それはきっと、サーミリア様が水の中で殺されたから・・・!」 彼女は、夫の手によって水の中に押さえつけられ、そのまま死体となって浮かび上がったのだ。ルーサスは、母親を奪った水さえも憎む。 「それは・・・「あの人」の優しさです。私を愛する水の中で死なせてくれたこと・・・」 微笑みしか見たことのないような彼女が、ふっと表情を沈ませた。 美しい顔には悲しみと、不思議と慈しみを感じる。 「変化の神への、精一杯の抵抗だったのです・・・」 「サーミリア様・・・?」 殺された本人は、盗賊である夫を庇う? 父親を憎んでやまない、ルーサスと一緒にいるリカロにはその思いは受け入れられそうになかった。そうだ、自分だって、その男に家族を、町を焼かれたのだ・・・。 「・・・・。いずれ、王子が気づいて下さるでしょう・・・。その時、ルーサスにも会えるかも知れません。・・・・。どうぞ、その日まで。リカロ」 「あ・・・」 もう一度、サーミリアは<水の腕輪>をリカロに渡そうとする。 自分と共にあると言う。 ルーサスは母親に会えないまま。 私の付ける腕輪に母親の意識が宿っていても・・・。 「ルーサスと、会えますよね。サーミリア様・・・」 腕輪に手のひらがふれた時、その優しさにリカロは涙を落とした。 「それまで、預かっておきます。私のものじゃありません・・・」 水の中で、リカロは激しく息を取りこぼした。 予告もなく、自分の意識は水中に戻り、失った空気にリカロは慌てて水面に上がっていった。 水面から顔を出し、両手の中の腕輪をリカロは確認する。 水中に倒れる崩れた女神像には、すでに腕輪がなくなっていた。 |
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■リカロが戻ると、足音にルーサスは目を覚ました。 「おはよ・・・。ただいま・・・」 辺りには月のもたらす明かりしか当たらない、月明かりを背に、リカロは泣き出しそうな顔でルーサスを見下ろした。 「・・・・。何処行ってたんだ」 「見て・・・。腕輪見つけたの」 崩れた壁に寄りかかり休んでいた、彼の隣に座って腕にはめられた腕輪を見せる。ルーサスは小さく驚き、安堵のため息をもらした。 「そうか・・・。そのままお前がしておけ」 しておくもなにも、外す事はできないのだけれど。これは預かり物だから。 いつかあなたに返すために。 「ルーサス、ちょっと触ってみて。腕輪」 「・・・なんで」 「なんでって・・・。嫌なの?」 すぐに応じない、彼を見てサーミリアの言葉を思い出す。 「ルーサスは<水>を否定している」 「お前、水神に会ったのか?」 膝の上に腕を組みながら、ルーサスは何処か遠くを見つめて訊いてくる。 「え・・?・・・ううん。会ってないよ」 「女神イセーリアは、それとももう、力尽きたのか・・・」 「・・・・・・・・・」 リカロは、彼の横顔を見つめて、唇を噛んだ。神々が力を失う。同時進行で、生きる人間達の希望もかき消えていくようだった。 お母さんに会えたら、ルーサスは幸せになれる? ザガスを倒し、復讐を果たしたなら、ルーサスは幸せになれるの? ・・・・どうして、<希望>を手に入れたはずの自分は、こんなに悲しい気持ちでいっぱいなんだろう・・・。 リカロは、知っているのかもしれなかった。 神々の力は、すでに希望にはなりえないことを。 |
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■ユイジェス・マラハーン、ミラマの第二王子。兄王子に反発し、レーン王女との婚約話に反発し、城を抜け出した。 ミラマに伝わる伝説の青い髪の王子、それは第一王子ではなく、<風の剣>はユイジェスを選び、彼は<真実の輪>を額に置く、ルーサスに誘われ旅に出る。 短い間に、ユイジェスは多くの真実を知った。 世界に眠りについた、八つの神の宿る石たちの呼び名。 <封じられた神々の涙>は世界の何処かに眠っている。 先日大地の霊山でユイジェス王子は大地の王に出遭い、力を借りた。 創造神に見放され、変化の神の叛乱にこの世界から神々は姿を消す。消えかけの世界をつなぎとめようと、何かしようとしているのが自分達だった。 大地の王が宿る石は、ユイジェスが左手の甲にはめる手甲の中にある。必要に応じて大地の王が盾となり、持ち主を守ってくれる。 真実の石はルーサスが所持していた。 石の中にいる真実の神との邂逅は果たしていないが、真実の輪を用い、ザガスを追うに問題はなかった。 自分の姿を自在に変えられる石。変化の神リモルフの宿る石、<変化の指輪>はサラウージ大陸の王国二つを脅かす大盗賊ザガスの手に輝いている。 それを見破る事ができるのは真実の輪をする者だけであった。 荒廃した砂漠の廃墟からは、リカロが<水の腕輪>を見つけ出していた。 水神イセーリアは力を失い、ラマス神殿元最高司祭、サーミリア・ディニアルの中に女神はいるという。 そうすることでしか、女神は存在する事ができない程、力を失っているのかも知れなかった。 ジュスオースの王女、レーンは自国にある、聖地ライラツに<命の杖>を求めて帰国していた。ライラツにある命の神の神殿の最高司祭、彼女の母親に頼み、命の神の眠りを覚ましてもらうために ユイジェスはミラマの王城から、<風の剣>を持ち出して来ている。剣には、本来宿されているはずの<風の石>は施されてはいない。 仲間となった口のきけない少女、シオルを通じて<風の石>がシャボール王国にあることを聞く。しかし、魔族の女に封印を解かれ、シャボールは魔物が溢れかえる危険地帯に陥っていた。 その魔族の女は、シャボールの王女、サエラ。・・・・と名乗る。 ユイジェスの兄、第一王子ニュエズ・マラハーンの婚約者がその人であった。 婚約者を探しに向かった、兄王子の行方も知れていなかった。 そして、ユイジェスを庇って、シオルがサエラに連れ去られていく。 確かめたい、ささやきをユイジェスに残して・・・。 国境の町ギマでレーンを待っていたユイジェスは、共にいるミラマの宮廷魔術師サダと共に、日々魔法や剣の鍛錬に終始し続けていた。 気だけは焦り、一刻も早く、消えたシオルを助けに行きたい。 けれど、それだけの力が自分にはないのが、ユイジェスには良くわかっていた。自分は落ちこぼれで、怠け者だった。過去に決別し、サダ・ローイも目を見張る程に、寝る間も惜しんで彼は特訓に明け暮れていた。 町の近場に現れた魔物とも戦い、実戦の経験値も積んでいく。 隣国シャボールの異変に国境に押し寄せたミラマの正規軍とも、進んでユイジェスは打ち合った。 弟王子の素質に、誰もが驚いた数日間だった。 レーンは、いつものような強気な表情はなく、情けなさそうに、ユイジェスの元に戻ってきてうなだれた。 馬を奔らせ、それでも、必死に急いでくれたことはわかる。 「ユイジェス。・・・何も言い訳できないわ・・・。<命の杖>は、私には、封印を解く事ができなかった・・・。ごめんなさい」 ユイジェスの泊まる宿に焦燥の見える顔を覗かせて、レーンはらしくなく傷心していた。 「そっか・・・。でも、仕方ないよ。行こう」 「偉そうなこと言って、私って、結局口だけなのね」 「レーン王女、気に病まないで下さい。急ぐ事はないですよ。ルーサス・ディニアルも、<水の石>を探してくるでしょうし、王子も強くなりました。対抗できる力はあります」 レーンの肩に手をのせ、サダは彼女を慰める。 「今日はレーンも疲れてるだろうから・・・。明日、出発しよう。大丈夫。サエラを倒せなくても、シオルさえ助け出せれば、それだけできればまずはいいんだ」 「そうね・・・」 レーンは思い切り、落胆のため息をつく。 何より、自分の未熟さが嫌なんだろう。けれど、疲れているのか、レーンは素直にそのまま休んだ。 レーンが戻り、サダを連れ、ユイジェスは明日の朝シャボール城を目指して旅立つ。胸が痛む幻を残した、シオルを救い出すために。 「ごめんなさい・・・」 「でも、さよならなの・・・」 |
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■その晩、悔しさにレーンは静かに啼いていた。 「私じゃ、命の神に会えない・・・」 命の神アリ−ズの神殿の地下、杖を抱えるアリーズの女神像の前で、何度言葉を投げた事か。・・・けれど、女神は一言も自分に言葉を返さなかった。 母親なら言葉は届くのか?しかし、母親にその気はない。 神は戦いたくないのだと言う。 けれど、神々は絶対に、目覚めるときに来たのに・・・!! 世界が終末へと堕ちていくのを、私達はこのまま黙って見ているしかないのか。 そんなはずはない。そんなはずはないのに・・・。 諦めちゃいけない。 諦めたら、全てが終わってしまう。 だから、心を強く保たなくてはいけないのに。 ・・・ニュエズ様・・・。 レーンは、婚約者の元に向った彼の姿を思い出していた。 彼に会うだけで、愚かな私は救われるのに・・・。 無事でいますよね。どうか、無事で。 寂しさと、悔しさが同時に彼女の中でこみ上げてきた。彼女は横になりながら身を屈めて、一人嗚咽を隠して震える・・・。 |
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