「盟主誕生 1」

「風よ!切り裂け…!バギ…!」
 バシュバシュバシュバシュ   !!!
「ほげええええええやああああっっ!!!」
ばったり。

 転職の神殿、ダーマ神殿横の森では、修行中の僧侶見習いが自分のバギを喰らって血しぶき上げて倒れていた。
「ううう…。ほ、ホイミ…。ぐはっ」
「なんでこう、俺って呪文が下手かなぁ…」
「もしかして、才能ない?ナッシング?いやいやそんな!前向き!前向き!ナルちゃんは大器晩成型なんだってば!そう!それ!」

 自分で自分を励まし、商人から僧侶を目指す、俺、   ナルセスは今日の休みですらも呪文の練習に励んでいたりする。

「ホイミは得意なんだけどなぁ…。あ、でも、ジャルディーノさんみたいな感覚とは違うんだよなぁ…。祈りが足りないのかな。それとも人徳?神の加護?あの人は特別か?特別だけど」
 ぶつぶつ言いながら、カマイタチで裂かれた手足を自分で回復させる。
 どうにも特に攻撃呪文は下手くそで、そのまんま自分が喰らうと言うギャグっぷりをいつもかましてしまう。

 ダーマ神殿には同じように僧侶を目指して修行している人間が大勢いる。
 はっきり言って、その中でも俺は落ちこぼれていた。
 一人前になって、卒業していく人たちを見送っては度々ブルーに陥る日々。
「…いかんいかん。俺はバラモスを倒す仲間になるんだから。こんな事で挫けてちゃあいかん。…剣の練習でもするかな」

 ダーマ神殿の北側にはいわく付きの賢者の塔が建っている。
 魔物も出る難解な塔で、実戦経験のためにダーマ神殿の修行者たちが腕試しに向かうことも多かった。
 ニーズさん達はすでにまぁ、攻略しているワケだけれど。
 そこの魔物くらい倒せないと仲間に戻れないよなぁ…。
 装備を整えて、休日を使って俺は賢者の塔へと一つ実戦修行へと向っていた。


 森を抜け、目指す塔が近付く。
 僧侶姿の俺は、森の途中、少年の叫び声に立ち止まって周囲を見渡した。

「兄貴っ!死ぬなよっ!兄貴っ!兄貴ー!!!
「……。うっ。ハアハア………。ビーム、俺はいいから…。お前この最後の薬草を使って…。ダーマ神殿に助けを呼びに行くんだ。僧侶、を…」
 賢者の塔の間際、魔物にでもやられたのか、重傷を負って倒れ、弟に泣きつかれている青年の姿が茂みの影に伺えた。
 弟の方も軽傷を負っていたが、歩けない程でもない。
 良く似た青い髪の兄弟が、怪我に負けて、状況を嘆いているのに遭遇して、そのまま俺は助けに向かう。

「もしもし。大丈夫ですか〜?」
 ガサガサ。森を掻き分け、顔を覗かせると、弟の方が殺気に満ちた鋭い視線で振り向き、一瞬俺は引く。   魔物かなんかだと警戒したんだろうけど…。
 子供が見せるような目でなくて、ちょっと俺はビビった。

「……。僧侶…?」
 意識を失いかかっている兄の方が俺の格好に気づいて、「助かった」と胸を撫で下ろした。勿論僧侶見習いたるこの俺様は、無料奉仕で回復呪文をかけてあげる。

「弟君の方も。はいホイミっと♪…なんでこんな所に倒れてたんですか?」
 怪我の治療をしながら、特に気なしに、いつもの調子で俺は世間話を持ちかけていた。お世辞にも、装備は貧弱だったし(一応二人とも鉄の槍装備)、弟はまだ子供だし、兄貴の方も背は高くても細かったしで、あんまり強そうには見えなかったから。
 まさか難攻不落の『賢者の塔』に挑んでいたとは考えもせずに。

「助けてくれてありがとう。僧侶さん。危ないところだったよ。実はあの賢者の塔に入って行ったんだけど…。魔物が強くてね…」
「……。無理だって。俺たちじゃ。諦めようぜ兄貴」
「え”。塔に…、っすか。きちんとパーティ組んだ方がいいですよ」
「君も、塔に行くところだったのかな?」
「ああ。そうっすよ。って言っても、俺は魔法その他の練習したいだけなんで、一階で雑魚敵相手にちびちび戦おうかなと思っていただけで…」
「その、多分雑魚敵に負けたんだよな、俺たち。諦めて、もう帰ろうぜ、兄貴…」

 弟は、その後に珍しい目的を言葉にして、俺をびっくりさせてくれた。
「賢者ワグナスに会うなんて、無理なんだよ…。いいじゃんか、もう…」
「はいっ?ワグナスさんに会いたいんですか?」

    多分、この一言から、俺の運命は大きく変わろうとしていた。

++

「うん…。力を貸して貰えるかなとか、思ったんだけど…。何せこの世界に魔法をもたらした賢者様だ。会うことができたら、すごい力が貰えるとか、…」

 そうだったかな…………??????(滝汗)
 まぁ、人の噂も伝承も勝手なもので、賢者はなんでも願いを叶えてくれるとか、都合の良いものにされてたりするんだろうな…。
 ただ悪人は、その力を悪用しようと思って、塔に挑んだりもする。
 賢者に会おうとこの塔に挑む者は、多かれ少なかれ、『強い願い』を持っていたものだった。(会っても多分叶えてくれないような気がするんだけど………)

 暫く、俺は思案に暮れていた。
「簡単に会えますよ?」と教えてあげるべきなのか。
 だって、俺なら会わせてあげられる。
 無謀極まりない、この兄弟を、賢者と引き会わすことが。

「俺、ダーマ神殿で僧侶の修行してるナルセスって言う者なんですけど、良かったら話してみてくれませんか?賢者に会って何をしたいんですか?話によっては、協力してもいいし…」
「………」
 弟は胡散臭いと疑った視線で、遠慮無しに俺を舐めるように見つめていた。お兄さんの方は気さくなお人よしタイプみたいで、すんなりと事情を話し始める。

 港で出会った女性に一目惚れ。
 それから、彼女は「新しい世界」が見たいと言った。
 苦しい、辛い環境にいる彼女、それを救うために彼女のために町を作ると。

女のために町を作ると……!!!!



「ま、マジっすか?グレイさん。そんな夢みたいな事………。本気で考えてるんですか?だって、町ですよ?町?」
「エジンベアの生活は苦しいんだ。何処か遠くへ行きたいと、思う庶民は珍しくないよ。国に縛られない、未開のいい土地があるんだ。そこで皆で暮らせたらいいな。自分たちで住みたいように作って。嫌な貴族とかもいなくて。皆で協力して暮らしていけるような…」

「…いい話っすね」
 手当てを終えた青年、グレイさんはお世辞にも裕福そうには見えない。弟も痩せているし。人のいい笑顔にも苦労が垣間見えるようだった。
 エジンベアなんて島国のことは良く知らないけど、聞けば聞くほど、酷い悪政、辛い税。お高い貴族たち。 縛られた可哀相な想い人。

 ものすごく、体が熱くなるのを感じていた。
 好きな女のために、そんな馬鹿みたいな決意をしてしまう人、物凄く感動に震えていた。
「グレイさん…。グレイさん………!!!俺、俺、感動しましたっ!!」

 惚れた女性をただ救いたいだけ。無力ながらもできる事をしたいと。
 なんて感動なんだろう!いいじゃないか、恋に馬鹿でも!!!

「ワグナスさんに…、会ってどうなるとも思えませんけど、会わせる事はできますよ!俺、協力します!グレイさんは漢ですよ!その心意気に惚れましたっ!!」
 青い髪の青年の両手をがっしりと握り締め、力いっぱいに俺は叫ぶ。
「作るべきですよ!町を!そんでもって彼女と幸せになって下さいよ!…わかるなぁ。その気持ち。俺だって、そんな事できたらどんなにかっこいいか。店を持つぐらいは考えた事あったけど」

 脳裏に浮かんだのは、自分の幼なじみの恋人。
 彼女に町一つプレゼントしたりしたら、どんなにビックリするだろう。そしてどんなに惚れ直す事か。

「いいなぁ…。浪漫、男の浪漫ですね!」
「協力…?い、いいの…?って、言うか、賢者様に、会わせることができる……?」
 すんなりとはグレイさんは信じられずに、弟と顔を合わせて瞬きする。
 それもそうだ、
『賢者ワグナスがあんだけ好き勝手フラフラしてる』
    なんて殆ど誰も知らないんだから。

「賢者ワグナスは、アリアハンから旅立ったオルテガの息子、勇者ニーズと共に旅をしてるんですよ。今はテドン辺りかな?ジャルディーノさんから手紙が来れば返事も出して、会わせてあげられますよ」
 手当ては完了、俺は興奮しながら、高揚感を覚えながら立ち上がり、グレイさんの手を引き上げる。

 立ち上がったグレイさんは、改めて俺をじっと見つめて、訊いた。
「勇者ニーズ?知ってるよ。こないだポルトガで旅立った勇者だろう?イシスを救った英雄だとか…。オルテガだってもちろん知ってる」
 追って立ち上がった弟、ビームも兄の言葉に補足していた。

「ジャルディーノってのは勇者ニーズの仲間。イシスの最高実力者の僧侶、ラーの化身とか言われてる。…お前知り合いなのかよ」
 何処か信用ならないように、ビームの口調にはトゲが見えたけれど、

 思わず俺は…、調子に乗った。

「ジャルディーノさんとは友達っす♪あ、ニーズさんも賢者ワグナスさんも」
 驚く兄弟の反応が面白くて、顔の緩みがおさまらない。
 二人は呆気に取られて、弟は、暫し考え込む。
「……。出船セレモニーの時、いたかも、コイツ…」(ぼそ)
「えっ!?ほんとっ!?」
「ああ、いましたね〜♪いましたよ〜♪」

「……。ナルセス君…。君、すごいな。一体何者なんだい?」
 何者なんだい?そう聞かれて、一瞬俺は首を傾げて考える。
 でも、…ここは、大きく出るしかないだろう。胸を張って、ふっふっふっと、僧侶見習いは不敵に微笑んだ。

「良くぞ訊いてくれました。俺、ナルセスはラーの化身ジャルディーノさんの『マブダチ』にして、
勇者ニーズと共に、
魔王バラモスを倒す仲間の一人です!!


 どよどよと、兄弟が内面で圧倒されたのに俺は満足していた♪
 拳を握り締め、「こう見えて凄いんですよ!」と自慢げにガッツポーズを決める。
 宣言は、でも、あくまでも現時点では目標だったんだけど…(笑)

「まっ、魔王を倒す勇者の仲間……!!こ、これは失礼致しましたっ!」
 気分いいぞ!どこかで見た時代劇のように、グレイさんは地面にひれ伏して詫びる。弟くんは呆気に取られて立ち尽くしていた。
 事実、勇者と一緒にいた所を見ていたので疑う事もできずに。

「はっはっはっはっはっ。そんな、そんなたいしたモンじゃないですよ♪あっはっはっはっはっはっはっ♪♪♪」

 賢者の塔での修行は取りやめ、俺は兄弟と共にダーマ神殿へと戻って行く。
 彼らには、もう一人女の子の同行者がいるらしい。
 詳しい話をその娘も合わせてするために。

++

 ダーマ神殿には各職業の修行場の他、旅人向けの宿泊街も存在している。
 観光客目当ての販売店もちらほらあったり。
 いつも人通りが賑やかで、様々な地方、様々な職業の人間が行き来していた。

 兄弟の連れの女の子は宿を取って待機中で、長旅で疲労もあってか、養生していたらしい。宿の部屋を訪ねて、グレイさんが事情を説明すると、元気な女の子が一人部屋から飛び出してくる。
「えっ?協力者増えたの?わあっ!嬉しいな!私クレイモア!よろしくね!」
 明るい茶の髪をピンクのリボンで結んだ、にこにことした陽気な少女。
 俺も挨拶すると、嬉しそうに弾むように行動を促した。

「休んでる場合じゃないかもー。下でお茶でもしながらお話しようよ、グレイさん」
「そうだね。クレイモアすっかり元気になったみたいだし」
「……………」
「なぁに?まーだビーム君は不満なの?全く、子供なんだから」
「ムッ。うるせーな。なんでもねーよ」
「すいませんねナルセス君。この子ってばお兄ちゃん取られるのが嫌みたいで。いまだに結婚反対してるんですよ」
「なるほど。そっか〜」
「ち、違っ!!!」

 クレイモアちゃんとビームは言い争いながら、宿の下の酒場件食堂に降りて行く。席に着いて簡単な自己紹介と、事情説明、今後のことなどを話し合う。

「で、具体的に、場所はどの辺を考えてるんですか?」
「えっとね、ここ。前に漁船が遭難した時に流れ着いたんだ。いいと思うんだけど」
「……。なかなか難儀な人生送ってますねグレイさん」(汗)
 世界地図を拡げて、グレイさんが指差した場所はエジンベアから西の未開の大陸。南のサマンオサ大陸とは違い、北の大陸はまだ国が無く、どこの領地でも在り得ない。何処の国にも断りはいらない自由な場所ってことだ。

「なるほどぉ…。ここは、中央に先住民がいるとか。その位ですよね、殆ど人のいない大陸。いいかもですね」
「うん。ここは、海流もいいんだ。魚がいっぱい取れるよ」
「水産物が豊富なんですね。でも、未開の土地ならきっと資源とかもいっぱいなんでしょうね。温泉とか出ないかな」
「いいね!温泉。入りた〜い!」

 一人むっつりだったビームを除き、三人は和気合い合いと談笑も交えて相談に花を咲かせる。
「資金とかはどうするつもりなんですか。さすがにお金もかかるだろうし…」
「それは…」
 グレイさんの表情は曇り、クレイモアちゃんもさすがに渋い顔に変わる。

「さすがにね、私もそんなにそんなに。お金も作れないかな〜。旅費とかでいっぱいいっぱい」
「資金援助。スポンサーが必要だなぁ。金持ち…。ドエールさんにでも頼んでみるかな…。あとは、ロマリア王とか………?いやいや、ジャルディーノさんが姫になって頼めば…。ぶつぶつ」
「誰か、いい人いるかい?スポンサー」
「うーんと…。当たってみますか。当たって砕けろ!」

 かくして、まずはスポンサー集め。
 ツテをフル活用して、なんとか資金を集めよう計画が始まった。


■@イシス貴族、ドエールさん

 金持ちの友達と言えば彼しかいない。イシスに住まう、ジャルディーノさんの親友。名門貴族として、父親の後をドエールさんが継いでいたところを、訪問した俺は無茶ながら相談に乗り出した。

「え?また、面白い事しようとしているんだね…。いいよ。僕で良ければ。協力させてもらうよ」
「ままま、マジすかっ!!」
 金髪麗しい、品のある美少年はにこりと即答で、俺は両の拳を握り締める。
「ナルセス君、僧侶の修行してるんじゃないの?こんな事してて大丈夫?」
うごふっ。ナイス突っ込み。あのですね…。困ってる人を助ける、すなわちこれも神の道。僧侶への足がかりですよ〜。まぁ、未開の地なんで、拓くにも魔物と戦ったり、用心棒も必要なんですよ。そーゆー事で、実戦経験にもなるし、怪我人も出るかも知れない。やっぱり僧侶は必要なんですよ」

「なるほどね…。どんな町にするつもりなの?大きくしたいなら、マイスさんに話すのもいいんじゃないかな。地図を見る限り、海辺だよね。海産物が豊富なら、イシスは喜んで取引すると思うよ」
「なんとっ。え、国家と取引ですか?」
 思わぬでかい話になって、いいのかな?とたじろぐが、マイスさんは色々あったけど、頭がいいことには信頼おける人だ。
 もしうまく取引ができれば、強力な資金源になる。

「イシスは砂漠の国だから、海産物は愚か、水産物はほとんど取れない。だからポルトガと貿易で賄っているんだよ。もちろんイシス王家の管轄に置くのではなくて、貿易の相手としてね。自治の町になるんだろうし」
「………。じ〜〜〜〜〜ん…。ああ、いいかも…。うおおおおおっ!なんかスゴイ事になってきたかも!!国家と取引なんてそーんなっ!」
「うおおおおおっ!た、楽しい〜〜〜!!燃えてきた!商人魂が燃えてきたー!!!」

 そして、話は、瞬く間に大きくなっていく。
 グレイさんに許可を取って、そのまま俺は城のマイスさんの所へ殴りこむ。

「たたた、たのも〜〜〜!!!商売の話なのですが〜!!!」


■Aイシス、姫の従者、神官マイスさん

 ジャルディーノさんの従兄弟、マイスさんは姫の従者でもあって、女王陛下にも発言もできる地位の高い人。逸る鼓動もそのままに案内された部屋に激しくノックして俺は転がり込む。
「…誰かと思ったら、君か。一体何の用かな」
「はいっ!実はお願いがあって来ました!商売の話です!!」
 ジャルディーノさんと同じく、燃えるような赤毛の青年は応対用の部屋で、冷静に表情も変えずに終始俺の話を思索していた。

「場所を見せて貰おうかな。実際の土地を見せて貰おう。地図だけではなんとも言えないね」
「……。確かに、そうですよね。…解りました、一緒に下見に行きましょう!」

 地図を手に、マイスさん、ドエールさんも含めて、俺たちはグレイさんが目を付けたと言う未開の土地を調べに向かう。
 グレイさんにキメラの翼を支給して、関係者全員で夢の土地へ。
 二つの海流が重なり、漁港に適した場所。土の様子、東に広がる山岳地帯、気候、近隣の魔物の分布状況。
    調査は進み、マイスさんは拡大地図に何かをこまめに書き込み、厳しく審査を繰り返していた。

「…いい土地だね。作物も良く育ちそうだ。しっかりとした後ろ立てがあれば、大きな町に発展できるだろう。リーダーは君かな?」
 言いだしっぺで、年長だったグレイさんにマイスさんはいくつかの約束と、注文を指し示す。
「最初にイシスに来てくれた事に感謝しよう。イシスは砂漠ゆえに食料不足に悩まされている。優先的に取引してくれるなら、全面的にバックアップしよう。金銭的援助、労働力も提供する」
「ほっ、本当ですかっ!!?」
 驚き、歓喜したグレイさんはクレイモアちゃんと手を取り合って飛び跳ねる。
「他の国に上手い事言われても、イシスを最たる扱いとしてくれる事が条件だよ。その代わり、友好国のポルトガへは僕から話を付けてあげよう。ポルトガを介して、貿易を行う手順でいいかな」

「そんなっ。願ったり叶ったりで…」
グ レイさんはもはや半分呆けて、開いた口が塞がらないでいて笑えた。
「やったー!やったっすねグレイさん!これで町が作れますよ!彼女呼べますよ!」
「ありがとう!ありがとう!ナルセスくん!!」

 頼るべきものは『ツテ』だな。国家権力万歳〜!(/>▽<)/ 
 強力な協力者を得て、新しい町への夢は実現へと歩き始めた。


■Bアリアハン王

 調子に乗った俺ってば、ダメモトでアリアハンにまでやって来た。
 かと言って、アリアハン王さまに直接お会いしたことはないので、国王に面識ある知人を訊ねる事から始まる。

 どんどん。
「こんにちわ〜!ナルセスです!お久しぶりです〜!」
「あら。ナルセス殿ではないですか。ご無沙汰しておりました」
   そう、訊ねたのはアリアハンの誇る勇者、ニーズさん自宅。すっかり有名人になっているジパング娘がドアからにこやかに顔を覗かせる。
「まさかニーズ殿もご一緒ですか?ど、どちらに!?」
 愛する夫(当人全否定)の帰省を期待して、サイカちゃんはキョロキョロと俺の後ろをくまなく探す。それはもうくまなく。

「あ〜…、ごめんねー。ニーズさんは一緒じゃないんだ。今日はエマーダさんにお話があってさ」
「御母上にですか。でわでわお茶でもお出ししますね〜♪」

 そうなんだ。ニーズさん達とすぐに会えれば、そのまま王様への話を頼んだとこなんだけど、今は船で移動中だからいまいち所在が確定しない。
 ので、お母さんのエマーダさんを俺は引き合いに出す。
 オルテガさんの時代からエマーダさんは王様とも何回も会っているし、仲介に入って貰おうとお願いしてみる。
 町作りの説明、イシスの協力など…。

「なんともはや〜!浪漫あるお話でわ御座いませんか!私もお手伝いしたいです!」
「マジ!?あ、でも、ニーズさんは嫌がるかも」
「素敵な話ね。暗い世界情勢の中、希望の町になりそうで、良いと思います。それに、勇者の仲間が作る町に、勇者の故郷たるアリアハンが協力しないのは寂しい話。王様はきっと良い返事を下さると思います」
 お母さんのエマーダさんは笑顔で、もちろん国王も承諾してくれる。

 イシス王家が後ろにいることでの信頼もあって、アリアハンも町作りの援助、協力をしてくれる事になった。
 数年暮らしたアリアハンにはもちろん顔が聞くこの俺様。
 アリアハン商会にも売り込み、新しい町への出店や、居住なども考えてくれる人もぼちぼち現れてくれる。
 新しい自治都市が生まれるかも知れない話題には、誰もが好意的に耳を傾けてくれた。


■Cロマリア王

 そして、裕福な国、ロマリア国王にはバッチリ面識がある。
 何せ代わりにニーズさんが王様やって、俺が大臣やったくらいだし、何よりロマリア国王はジャル姫がお気に入りだった。(笑)
 更に、この王様が遊び好きな情報だって掴んでいる。

「新しい町!良いのう!どんな町ができるのじゃ?カジノはあるのか?」
「カジノすか?…いいですね!世界一のカジノを造るとか、いいんじゃないでしょうか。でっかいすごろく場も造って………。劇場なんかもいいですね。アッサラームよりも大きな劇場造ったりして。もちろん王様、フリーパスにしますよ〜♪」
「おおおっ!わかった!頼むぞ!ロマリアも是非参列しよう」
「ありがとうございます〜!!」(もみ手)

 ロマリア、ちょろい♪♪♪щ( ̄∀ ̄)ш

++

「いいかも。イシスと、アリアハンと、ロマリア、ポルトガ。大きな町の方がお姉ちゃん喜ぶよきっと。楽しい町になりそうだね♪」
「なんか、本当に、すごい事になってきたなぁ…」
「……。ふぅ」
 ロマリアでの報告は町の喫茶店で行われていた。クレイモアちゃんはごきげんにパフェを食べて、グレイさんは話の大きさに放心気味、ビームくんはつまらなさそうに頬杖ついていた。

「お姉さ〜ん。コーヒーおかわり下さいー」
「あ、私も紅茶おかわりお願いしまーす」
 ごきげんなのは俺も同じで、思わず食も進んで昼食をがっついていた。
「ファルは、どう思うかな。静かな町の方が良かったんじゃ…」
「あのね、グレイさん。私これで、少し安心してるんだ」
 紅茶が届いて、砂糖を入れながらクレイモアちゃんは遠慮がちに話し始める。……余りいい話ではない。

「私たちのお兄様、性格悪いからさ。お姉ちゃんが出て行くのを黙って見ている筈無いと思うの。きっと取り返しに来るよ。もしかしたら、権力を振りかざしてくるかも知れない。逃げ回るのも嫌じゃない?同じように、『力』のある人が傍に居れば、立ち向かう事もできるかなって…」
「……。俺なら、町なんかぶっ潰すけど」
 横から、とんでもない事を挟むのはもちろんビーム。
「…でも、いくらお兄様でも、後ろに国家がいればそう簡単に手は出せないわ。どこの国も、援助した都市が壊滅したら損害こうむるもの」

「まぁ、脅しにはなるかな。複数の国家の協力があるんだぜ〜、って言う。…ファルカータさんには、護衛が必要だなぁ…」
「…申し訳ない」
 無力さを痛感してるグレイさんは頭を下げる。でも、俺は助けようとしている気持ちが一番大事だと思うから、明るく笑い飛ばす。
「大丈夫ですよ。そのうちワグナスさんやらも来て、皆で守りますから。俺、考えてる事があるんですよ。町に教会建てて、そこで最初に、結婚式するのがグレイさん達なんですよ。そうしたいなって思って、俺」

「ナルセス君…」
「…すごい!!いいねそれ!最初の結婚式!しようねグレイさん!」
「ついでに、その内、俺もそこで式できたらいいなとか思っちゃったりして…」

 テーブルに沸く笑い声。
 ロマリア城下の町、運が良ければ出稼ぎに来ているアニーちゃんに会えるかも知れない。町を歩く間、密かに期待して目は彼女を探していた。
 グレイさんたちに比べたら何の障害もないし、平和な恋人同士、ただ一緒にいないぐらいで。
 でも、いつかずっと一緒に居られるようになりたいと、心の中では思ってる。
 自分が手をかけて作った町で、結婚式して幸せに暮らせたら、いいだろうなぁ。
 
 いつしか俺まで「新しい町」に夢を見るようになっていた。

 喫茶店内で俺たちのテーブルはひときわ賑やかで、一人の青年が俺の横からひょいと顔を出す。
「……。………あっ!」
 にやっと笑った、その顔はドンピシャで知り合いだった。
「おお。やっぱりナルセスじゃん。ひっさしぶり〜♪ターバン見てそうかなって思ってさ。懐かしいなぁ〜。元気してたか★」

 顔を出したのは俺同様、頭にターバンを巻いた青年だった。
 額の上でターバンをブローチで留めた、アッサラーム系統の商人の装い。だいたいアッサラーム、イシス方面の商人はターバンを愛用していた。

 俺はロマリア出身だけど、親父がアッサラーム出なのでターバンを引き継いでいたりする。青年は俺の従兄弟のお兄さんで、陽気な顔に空色の髪、黙っていれば割かしいい男系、良く遊んでくれた俺の兄貴分のラルク…アンシェル。

「ラルク…の兄貴!兄貴こそ何処をほっつき歩いてんですかっ。数年アッサラームに帰ってないでしょ!」
「ん、フラフラとな。今はランシールでぼちぼち暮らしてるよ」
「ちょっと、俺のハンバーガー喰わないで下さいよ!」
「ケチケチするなよ。女にもてないぞ」
 言ってる傍から、大食いのこの人は俺の昼飯を二口くらいで飲み込む。

「ナルセス君のお兄さんなんですか?こんにちわ」
「かわいい女の子いるじゃん♪彼氏いる?」
 クレイモアちゃんに返事しながら、空いていた椅子に座ってくつろぎ始めるラルクの兄貴。昔からマイペースな人だった。
「何図々しく座ってんですか!」(笑)

「えっと、彼氏は募集中ですvでも、かっこよくて、品が良くて、大人で優しくないと駄目ですvお金持ちがいいですv」
「厳しいな。ナルセス駄目じゃん」
「なんで俺。兄貴だって駄目ですよ。俺は彼女いるからいんですよ!あ、そうだ、兄貴も知ってるでしょ、アニーちゃん。カザーブの武器屋の…」
「ああ、お前がいっつも相手にされてなかった娘ね」
 奢らせるつもりなのか、兄貴はウェイトレスを呼んで大量の注文を読み上げる。
「だあああああああああっ!!!昔の古傷をっ!いいからっ!その恋が叶って今はラブラブなんです!」

     ………。」(゚д゚)
「……なんですか、その顔」
 同情されたような、憐れんだ、なんとも言えない瞳で兄貴は俺に振り返った。
「……。いくら寂しいからって、そんなバレバレの嘘つくなよ…。哀しくなるだろ?」
「ホントです〜!!!」
「ああ、そうそう。聞けよナルセス〜。俺さ、今聖女ラディナードと付き合ってんの。いいだろ〜」


(間)


 兄貴の頼んだメニューが続々とテーブルに運ばれてくる。
 ハンバーガーx10、コーラ、骨付きチキン(かご入り)、スペシャルポテマヨピザ(大)、ミートボールスープ(大)…。

「兄貴、それこそ、妄想でしょう…?」
 詳しくは知らないけどさぁ、聖王国ランシールの聖女様が、こんな人と付き合うわけないじゃん………?
 俺もクレイモアちゃんも、グレイさんもビームにしたって、底なし胃袋の青年を前にして口が聞けない。

「妄想なら毎日してるってー。現実のラディもまたいいよな〜。あっちもこっちもさわりて〜」
「えっと、夢の話はいいですよ。言っときますけど、奢らないですからねっ!!」
「お前さ、久し振りに会った従兄弟に対して昼飯ぐらい奢ってやろうと言う、男気はないのかね」
「兄貴の方が、久し振りに会った年下の従兄弟に奢るべきじゃないんでしょうかね」

「俺今無職だからさ〜。いや〜、助かったよ。腹減って倒れそうだったんだよねー。持ち金尽きちゃってさー。ってゆーか、ロマリア来たら久し振りにモンスター格闘場行っちゃって、負けたんだよね〜。きれいさっぱり♪」
「ぎやああああああああっっ!!搾り取られる〜!!」
「持つべきものは従兄弟だよね〜。ありがとナルセス!ごっそさん!」
 満面の笑顔で、またウェイトレス呼び止めて追加注文なんかをおっ始めるラルクの兄貴。兄貴の腹が満たされるまで、俺たちは終始無言だった。
 喋れなかったよ。あああ、一体いくらかかるんだ…。

 半泣きで、俺は腹を満足そうに叩いた兄貴に呟く。
 せめてこれくらいの代価がないと嫌だって…。
「兄貴さぁ…。アッサラーム商会にまだ顔効くじゃん…?ちょっとできたらお願いしたい事あんだけど…」(疲れてる)
「ん?商売の話か?アッサラームでもランシールでも顔効くけど〜♪あ〜、喰った喰った♪」

 そこへ、まさに救済の女神は現れた。
 膨れた腹を撫でていたラルクの兄貴が、不意に真顔になってキョロキョロと首を動かして誰かを探す。
「いい女レーダーが反応!何処だ何処だ!」

 カランカラン♪
 喫茶店のドアが鈴を鳴らして開き、女神様はまっすぐにラルク兄貴の元にツカツカと向かってくる。
 白い服装の上に、地味な皮の外套、フードを被って顔を隠していた。
 見上げるラルク兄貴の肩に片手を乗せ、女性は艶やかな唇から美しい声で俺たちまでも魅了する。

「大人しく待っていてと言ったでしょう。どうしてじっとしていられないの」
「らららら、らでぃ〜vvv」

 嬉しそうな兄貴の浮かれた歓声も何処吹く風。
 フードの中から零れた金の髪、美しい翠の瞳、その美しさに俺たちは見惚れていた。
 こればかりは百聞は一見にしかず、彼女が「彼女」であるのだという疑いは浮かびはしない。

 ボロを着ても決して消えない高貴さ、
 そんなものを携えて、目の前にランシールの聖女ラディナード、降臨する。




BACK NEXT