「帰ってきた約束」
+ISSAC+
全く持って迂闊だった・・・・・・。
今はニーズが国王とあってか、いつもより警備は手薄になっていたのは否めない。本物の王様の方に本物の警備が付いているし、こっちは余りにも注意されていなかったのだった。しかもニーズ当人は、いつもそうだが危機感がない。無い!(怒)
金の冠が盗まれたと言っても、通常通り、毒されない様子で平然としているのがうちの勇者なのである。
そこを叩き起こして無理やり夜の街へと駆り出すと、昼間とはうって変わったロマリア城下の静けさに舌を打った。
「いいか。早いとこ取り戻さないと大変なことになるぞ。俺達だけの問題じゃないんだ。こと勇者としての信用問題だし。アリアハンの名折れにもなるんだ」
灯りを片手に俺の足はとにかく慌てる。
「そうですよね。すぐにその塔へ行きましょう」
「また塔か。盗賊は高いとこが好きだなぁー」
あくびをしながら付いてくる商人のナルセスは、当然もう大臣の格好はしていない。もちろんジャルも姫様じゃあない。
「つくづく、盗賊にやられる運命なのか。俺達は・・・」
「俺達が迂闊なんだよ!」
ニーズに怒鳴り、喝を入れる。
「盗賊め・・・。エルフの次は覆面野郎か。見てろよ目にもの見せてやる」
俺は怒りに燃え、案内人を買って出た少女との待ち合わせの宿にやって来る。
「な、なななななな、何でアニーちゃんがっ!」
待ち合わせた宿屋から、登場したのは同い年位の女の子だった。武闘家だと言っていたし、ナルセスの幼なじみだとも言っている。
塔の事や、カンダタについて俺達は何の情報も無いし、土地勘もない。しかも夜の決行だ。案内人は必要だと判断して同行をお願いした。
「別に。たまたまカンダタが逃げるとこを見ただけよ」
彼女、アニーはこのロマリアの更に北。森の中にあるカザーブ村出身で、ナルセスとは子供の頃からの付き合いという話。
ちらっとこちらを見たアニーは、ジャルを見て、首を傾げて見せた。
「え・・・?男の子・・・・・・・?」
「あ、はい。昼間はお姫様でしたけど。本当は男です。すみません」
謝るのもどうかと思ったけど。
いまいち疑ったままのアニーを急かして、カンダタのアジトといわれるシャンパーニの塔へと、俺達は夜の急行を開始した。
夜の行軍は初めてじゃないが、さすがに見知らぬ土地で知らないモンスターも多く、予想外な攻撃に思いの他俺たちは苦戦している。
さすがにアニーはそんな敵たちの対処法もよく知っていて、武闘家である彼女は密かにナルセスよりも頼りになった。何故かそんなアニーはやたらと『赤毛の僧侶』を気にしてチラ見。
ナルセスの手当てを行うジャルディーノを、厳しい顔でじっと見つめるアニーにそれとなく俺は声をかけてみる事にした。
「・・・なんかジャルにあるの?」
俺は疑問をそのままストレートにぶつけている。
「・・・・・・・・。本当に男の子よね???」
「一応」
あんまり自信持って言えないところはあるが、ジャルディーノの場合は……。
いや、しかし、すでに確認済みではある。
二人をよそに、俺とアニーとニーズとで火を囲む。少し休んでまたすぐ向うつもりの、一時の休憩時間。今はとにかく時間が惜しかった。
「でも、なんか、仲いいのよね・・・」
「そりゃ。アイツ、ジャルディーノファンクラブ会長らしいし。ジャルに付いて旅立ってここまで来たんだし」
横でニーズがぼそっとぼやいた。納得しないようで、アニーは手を唇に当てて思案している。
「女の子は?アイツ女の子好きでしょ?それよりもあの人なの?」
「それよりもジャルだな」
ニーズは即答した。俺も即答した。
「何て言っても命の恩人だし」
「命の恩人……?」
声色の変わった彼女の元に、噂される二人組も遅れて顔を出す。
「もういいよ。お待たせ〜。すぐ行く?」
じーーっ、とナルセスを見上げるアニー。
「…え、何?男前?」
「バーカ」
おどけたナルセスにアニーは冷たかった。
立ち上がって、アニーは鉄の爪を手に嵌める。
「もう行った方がいいよ。逃がしたら後が大変だもの」
「そうだな。急ごう」
冷たくされて、溜め息つく声が後ろから聞こえる。俺ははっきり言って、そんなことよりも盗賊退治の方に頭が集中していた。
+ANEE+
夜通しの行軍の中。私は非常にムカついていた。
勇者や戦士のアイザックはいいとして、ナルセスはうるさい。とにかくうっとうしい。寝不足や疲れもあって、イライラしてるのにひたすら話しかけてくるし・・・。
「ねぇ、まだ怒ってんのアニーちゃん。もしかしてさ、俺の事心配して付いて来てくれたとかじゃないの?」
「全然違うから安心して」
相変わらず、こんな時でも脳天気なんだから。
「ナルセス、あのジャルって人のファンなの?」
チラッと横目に見ながら聞いてみる。
深夜の森の中をザカザカ音を立てて進みながら。幼なじみの返答に私の不快指数はますます上がってゆくことになるというのに。
「うん?そう!そうなんだよ!大ファンなんだよ。いや〜、だってさ、めっちゃ可愛いと思わない?それにさ、実はすっっげー!強いんだよ」
「・・・・・・・・・・」
ナニよこの反応。
嬉しそうにまくし立てるナルセスの言葉を、半分以上私は聞き流した。
ムカつく。
ちょっと怪我したから心配してやれば、
「大丈夫ですか?今ホイミかけますね」
スタタターっと慌てて、あの赤毛の子が走ってきて先を越されるし。私は荷物から薬草を取り出したまま、二人の親しさを眺めるだけ。
夜が明けて、朝食休憩。
手にモノ持たず出てきた私たちは、そこら辺で手に入れたものを簡単に調理して食べるのだけれど・・・・・・。
「ちょっと、馬鹿!!何処まで切ってるのよ!コレじゃ食べるとこないでしょ!何処食べるのよ!!!」
「は、はいっ。すみませんっ」
野菜の皮を剥かせれば、ごっそり実も剥いてゆく始末。じゃがいもなんて、皮が厚さ1cmはあったわよ。
「もういいから火見ててよ!」
「は、はいっ。そうします!」
「って、ほら、沸いてるでしょー!!ナニから入れてるのよ。煮えないものから入れるんでしょー!って、零さないでっ!それは入れなくていいの!もうっ!邪魔!アンタ邪魔なのよっ!」
「ごっ、ごめんなさいごめんなさいーっっ」
後片付けもろくに出来ないし、かつて類を見ないような不器用さ、どん臭さよ。
勇者と戦士はもう知っているのか特に何も言わないけど、ナルセスの奴がしょんぼりするこの子を慰めていた。
・・・・・・・・・・・・。
本当に仲いいみたいね・・・・・。
私は(ナルセスは元からだけど)その子にも冷たく当たるようになっていた。だって何だかムカつくんだもの。
そう。最大にどうにかしてると思ったのは、やっとのことで倒したカンダタを逃がしてやると言い出した時だった。
カンダタは、この辺では格好もさることながら強いことでも有名で。倒すのに本当に苦労した。
勇者と僧侶の魔法の力や、各個撃破の作戦でどうにかなったのに。のびた子分達とカンダタは突然手の平返して謝りだした。
盗んだ「金の冠」も返して、もう盗みも止めるからどうか見逃してくれって。そんなこと信じるはずがない。
「ジャルディーノ。許すばっかりが僧侶じゃないだろう。過ちはしっかり正されるべきなんだよ。こいつらはきちんと連行して、牢屋に入れられるべきなんだ」
断固として、アイザックは彼に抗議を訴えている。
「そうかも知れません。でも、もう痛い思いもして、反省しています。ここは行かせてあげませんか」
「駄目よ!見なさいよ!こんなの演技なのわかるでしょ!どうせまた同じこと繰り返すつもりなんだから、ここで逃がしたりしたら地元民の私達が困るのよ!」
「もうしねえよ〜。どうか見逃してくれよ〜。これからはまともに働くからよ〜」
子分達と正座して懇願するカンダタ。
「そうですよね。大丈夫です。きっといい仕事が見つかりますよ」
明るく言ってくれちゃって・・・。平和主義の僧侶はカンダタの手を握り締めて諭している。カンダタは嘘泣き。
「おい。ニーズ!何とか言ってくれよ。こいつら逃がす訳に行かないだろ」
腕組みして見てた勇者にアイザックは意見を求めるが、冷静に彼は暴言を吐く。
「・・・俺は別に困らないからいいよ」
「困れ!!!」
「私は困るわよ!カンダタ一味に結構痛い目見てる人はいっぱいいるのよ!こんなんで許したら示しがつかないわ!」
私達が討論しているなか、いつもうるさいくせにナルセスは妙に静かだった。ジャルも頑固で、全く抗議が終わらないまま、やがてナルセスが多数決を提案した。
結果は三対ニ。
「ニーズ!!何でだよ!!」
怒って勇者を両手で掴むアイザックに、私も同感、怒りと呆れで体が震えるまで到達する。
「いいだろ、王冠は戻ったんだから。早く帰って寝ようぜ」
「・・・お前ただ疲れてるから早く終わらせたいだけだろ」
「そうとも言うな」
勇者半分寝てます。反応がすごい投げやり。
「まあまあまあ、多数決は多数決だから。良かったな、カンダタさん。今のうちに逃げなよ」
「ちょっとナルセス!」
「ありがてえ〜!じゃあな〜!へへへ」
「あ、ちょっと待ってください。その怪我では大変ですよね」
わざわざ、魔法まで使わなくてもいいじゃない。
私は納得がいかない。
当たり前のように、平然としているナルセスが気になって仕方なかった。
+NALSES+
なんとか王冠も取り戻して、ひと安心。ひと安心。
アイザックは正義感熱く、一人でいつまでも怒っているけれど、無理な行軍の後もあってひとまず塔の一階で休むことに意見はまとまっていた。
あいつ等が仕返しに来るかも知れないと、一応見張りを残して交代で昼寝することにする。その組み合わせ、俺はアニーちゃんとが良かったんだけど。
「嫌よ。何でアンタとなのよ」
「・・・ほら。話さなきゃいけないこともあるしさ」
「アイザックとがいいな」
少し黙った後、とんでもない台詞がアニーちゃんからこぼれた。
「なっ!?」
指名されて不思議そうなアイザックを慌てて見て、またアニーちゃんに視線を戻す。
「なんで!?なんでアイザック!まさかあーゆーのが好みなの!?」
「一番まともだからよ」
「うおおーーっ!お前いつの間に、俺のアニーちゃんとそんなに仲良くなったんだよ!ええっ!えーっこの野郎!」
瞬間移動してアイザックを揺さぶる。何だよめちゃめちゃ悔しいじゃねーかよ。
「何もしてないだろ!」
「違うって言ってるでしょ!!」
ボカ!後ろからグーで殴られる。
・・・・・・・ふう。さすがに効いたな。力あるんだよな、アニーちゃん。
「アニーはさ、見張りしなくていいよ。俺達だけでするからさ」
「・・・そう?」
「な、ナニまたかっこつけたこと言ってんだよ、アイザック!」
見苦しいけど、すっかり取り乱して俺はアイザックに再び喰ってかかっていた。
「やめなさいよ!馬鹿!」
ボコ!!
・・・・・はぁ。みじめ?俺。
アニーちゃんはゆっくりお休み。俺達だけ交代で見張りになった。
とほほ………。
アミダで決めた、最初の見張りは俺だった。疲れて眠りに落ちる皆を横目に、妙に寂しい気持ちになる。
俺のうちの飯屋の、アニーちゃんの家族は常連さんだった。
ロマリアに来るたび、必ず食べに来てくれる。俺達がカザーブの武器屋に世話になる事もあった。親同士が仲良くて、親が話してる時はいつも二人で遊んでいた・・・。
いつも、怒られてたけど、俺。
くそう。くそう!アイザックめ!!!
俺は床に転がって、じたばたともんどりうった。
じっとしていると泣きが入りそうで、気分転換のために塔の外へ出て風に当たる。
塔の影で日差しはきつくなく、森の葉ずれの音が気持ちよくて、にわかに眠気も襲ってくる。見張り役なので眠ることはできないが、ぼんやりしていると不意に想い人が外に出てきて思わず体がびくついた。
「・・・・話、聞いておこうかと思って」
「ああ。・・・あれ。あれね・・・・・・」
必死に意識をそっちに持っていく。
アニーちゃんには言わないといけないことがあった。壁に寄りかかったまま、俺はぼちぼちと身の上を語り始めることにする。
「ロマリアでさ、アニーちゃん怒ったじゃないか。余計な話ばっかりしないで、ってさ・・・」
「・・・・うん。あれね。だって、私はおじさんたちのこと聞いてたのに、関係ないことばかり言うんだもの」
アニーちゃんは塔の壁によりかかるけれど、こっちは見ない。
「・・・言えなかったんだよな。その、親父も母さんも、今は居なくてさ」
「居ない?何処に行ったのよ」
「・・・・多分、天国・・・・、かな」
重くならないように、冗談めかして言う。気まずさのあまり、俺は頬をかいていた。
「冗談やめてよ。嘘でしょ?」
アニーちゃんが俺の横顔に食い入った視線を当てる。口にするのはとても抵抗があった。
「俺でもこんな冗談言わないって。二年前に、アリアハンに魔物の襲撃があってさ・・・。その時に。二人とも」
「。そんな・・・・・・・」
悲しみに唇を噛んで、アニーちゃんは俯いた。こんな顔は見たくないし、こんな話も本当はしたくない。
「あ、でもさ。多分、きっと、親父達は浮かばれてると思うんだ。ジャルディーノさんのおかげでさ」
「あの子の・・・」
「そう!俺も、助けてもらった一人だよ。おかげで、そのおかげで、こうして生きているし、そんなに悲しみに暮れることもなく、笑って生きてこれた。命の恩人って以上に、俺には尊敬できる人で、目標なんだ」
「そんなにたくさん魔物が来たの」
「ん?うん。そりゃもう、絶望的だったくらいに。壊滅寸前だったね。ジャルディーノさんいなかったら、アリアハンはもう駄目だったんじゃないかな・・・」
「アニーちゃん・・・・・・?」
様子がおかしいので、俺は顔を覗き込んだ。幼なじみの女の子は微かに震えて、泣くのをじっと堪えてるみたいだった。
+ANEE+
私は・・・・自分の体が震えるのを止めることが出来なかった。
どうして、わからなかったんだろう。ナルセスが、帰ってこない事だって本当はあったのに。
アリアハンか何処かで、いつものように明るく過ごして、帰って来なくてもどっちでもいいと思っていた。そんなに深く考えていなかったのよ。
泣けないよ。ナルセスが笑っているのに泣けないでしょう?
いつもそうなんだ。いつも何かあってもナルセスはすぐに笑えたんだ。
「ナルセスが、無事で良かった……」
やっとのことで、言葉を口に変換出来た。
「あの子にも、お礼言っておかないと・・・」
「・・・え・・・?それは・・・、いや。そんなのはいいけどさ。俺はいっぱい言ってるし。うん。ごめんね。言いづらくてさ」
そりゃ、そうでしょうよ。
アンタ親孝行者だもの。仲良かったもんね。きっと、すごいショックだったに違いないのに・・・。
「あのジャルって子について来たんでしょ?これからも行くんだ」
「・・・・・・・・。ん、まぁね。まだまだ行くよ」
「そんなに信用してるの」
「そんなにって・・・・・・」
「あの子がカンダタ許すにしても何も言わないし。・・・何にでもフォローしてるよね。そんなにあの子のすること全部認めてるの」
ナルセスはちょっと困っていた。
言葉に詰まって、一呼吸してから話し出す。
「許すって言うか・・・認めると言うか・・・、俺なんかよりあの人はさ、ずっとずっと大きなことを考えているんだよ。またカンダタが何かしても絶対許すんだろうな〜とか思ってさ。そんなの、俺がどうこう言ったってしょうがないじゃんか。あの人に比べたら、俺なんか一般市民なんだからさ。いちいち意見するつもりないんだよ」
行ってしまうんだ。本気であの人との繋がりが大事で、あの子を追いかけて行くつもりなんだ。そんなに大きな存在なんだ。
・・・知っていたはずなのに。
わかってたのに。私なんか、何の意味もない存在だったことなんて。
「ねぇ、どうして、アリアハンに行ったの」
私は塔の壁を背にしゃがみ込んだ。どこか声が震えている。
「なに?それは・・・親父達が修行に行くって言うからさ、俺だって一緒に行くよ」
「そうだね。行くよね」
すねた様な言い方をしてしまい・・・。今にも泣き出しそうな自分がとても悔しい。
だって、今度は自分の意志で何処かへ行ってしまうんだ。
真剣な目標が『あの子』なんだ。
いつも適当なことばかり言っていた、私の知ってるナルセスじゃないんだと。
「……どうして、私のこと好きとか言っていたの」
「えっっ!そ、そりゃあ・・・・」
ナルセスは赤くなって慌てて、頭を掻いたり落ち着かなくなる。私はもう我慢できなくなって、思いを全て吐露してしまうの。
「必ず迎えに来るとか、私が一番いいとか、一番可愛いとか、言ってたよね。でもそんなの私が特別だったからじゃない。誰でも良かったんだ。誰でも良くて、冗談だったんだ。わかってたのに。私わかってたのに」
ごめん。泣いてしまう。・・・困るよね。両手で顔を覆って泣いてしまう。
「・・・・でも、冗談でも、そんなこと言われたら気になるよ。……私、馬鹿みたい。一人でずっと待ってて。馬鹿みたいね」
「・・・・待ってたの?マジで待ってたの?ねぇ」
心底驚いた顔で、私の肩を幼なじみは掴む。
「俺、嫌われてると思ってたんだよ。いっつも、怒られてばっかりだったしさ。だから、だからさ・・・・」
ナルセスの顔は赤く、動揺しているのが見えて、動作がかなりおたおたとして落ち着かない。
「だから、と言うか、本気になるのは恥ずかしい、というか。怖かったってゆーか・・・。あーっ!もうっ!めっちゃ、緊張するなぁっっ!」
頭をかきむしったり、顔を叩いたり、咳払いしたりする幼なじみの少年。
やがて意を決したように一呼吸おいて、彼は告白を決めた。
「冗談じゃないよ。全部冗談じゃない。それは確かに調子よく聞こえたかもしれないけど、全部本気だったよ。全部本気!アニーちゃんは特別でした!」
私は草の上に座り込んで、じっとその言葉の真意を考えていた。
本心なのかと、すぐには信じることができなくて。
「・・・・うっ、うん。(咳払い)あー・・・・、っと。アニーちゃん」
「……………」
「真剣に、言わせてもらうよ。これ、本当ね。今までも本当だけど。俺、ナルセスは…、アニーちゃんが、好きです」
力なく座り込んでしまった私の手を取り、いつになく真剣なまなざしは私だけを映して想いを告げた。
「子供の頃からの、話・・・です。アニーちゃんは気が強くて、怒りっぽいけど、すごく俺にはかわいかったんです。アリアハンでも、よく考えてました。忘れた事ありません。こっちに来る時も、会えるの期待してました。・・・さっきの、アイザックにも嫉妬してたし・・・」
最後はぼそっと独り言のように言う。
「信じて、いいのかな・・・」
「アニーちゃんが好きだ!」
めいっぱい照れて、目を閉じて彼は繰り返す。
「でも、私・・・あの子みたいにかわいくないよ」
「なにあの子って。・・・まさかジャルディーノさん?アニーちゃん、アレはまた男の子であって、女の子のかわいさとは違うよー」
ナルセスは苦笑。
「私がドレス着たって似合わないもの」
「そんなことないよ〜。ドレスなんか着たら、絶対舞い上がって何も言えなくなっちゃうよ。あ、ドレスよりも水着とかがいいかな。何も着なくてもいいよ」
顔面パンチ。
「ごめんなさい」
「いいえ」
信じてみても、いいかな・・・。私は鼻を押さえるナルセスにそっと寄り添ってみた。
「・・・でも、ごめんね。私も、素直じゃなかったよね。ごめんね」
私も素直じゃなかったから、いけなかったんだ。
鼻を押さえて首を振る彼に、私は耳元で告白した。大きな声でなんて、言えないよ。恥ずかしいもの。
「じゃあ、私寝るから、見張りお願いね」
恥ずかしいからそのまま塔の中へ逃げて行こうと立ち上がる。
「ちょ・・・、待ってよ。もうちょっと」
その腕は引き戻されて、半ば強引に私はナルセスに抱きしめられていた。彼も私も少しだけ大人になっていたから、意識しすぎて顔は真っ赤に染まってしまった。
「やだ。離してよ。誰か来たらどうするの」
「皆寝てるよー。俺、ちゃんと帰ってくるからね。時々、アニーちゃんに会いに行くから。必ず」
「・・・そうしてね」
ちょっとだけしんみり俯いて、腕の中で少しだけ私は素直になっていた。
「おかえり。ナルセス。ずっと待ってたの。・・・大好きだよ」
+NEEZ+
やっぱり、人間は睡眠が必要だ。
睡眠が不足すると精神がおかしくなってくるんだ。だから俺は見張りをサボり、熟睡していた。
「俺の分もご苦労だったな。ジャル」
一応労っておくことにする。
「あ、はい。起きなかったので、よほど疲れてるんだと思って、代わりに僕起きてました」
・・・・いい奴だ。
「ジャルディーノさん!聞いてくださいよ!ってゆーか、皆聞いて!」
俺達の前に顔を輝かせて、歓声上げてナルセスが走り込んで来る。
「はい。どうしたんですか。ナルセスさん」
「実はさ、俺とアニーちゃんが晴れて・・・」
「きゃーーーっっ!」
同じく走って来て奴を殴り飛ばすアニー。
「・・・・・なんなんだ」
「はぁっ、はぁっ、気にしないでいいからっ!ねっ!」
「何で止めるんだよアニーちゃん・・・」
「こんなとこで言わなくてもいいでしょー!って言うか私のいない所にしてよ!せめて!」
ぶっ飛ばされたナルセスのもとで、何やら二人でもめている。なんとなく状況は読めたので、気にせずに俺は帰り道へと歩み始めた。
「もう行くぞー!仲いいのはわかったからさー」
「わかる〜〜〜??」
アイザックの言葉にナルセスはごきげんで、しかし浮かれるとそこを彼女に鉄槌打たれるのであった。殴られてばっかりだなぁ、アイツ。
ロマリア城へ戻り「金の冠」を返却すると、玉座に座っていた王はほっと胸を撫で下ろした。……まぁ、そうだろうな。
こちらの不手際を突付いて来たら、俺は国王自らギャンブルで遊んでいた事を指摘してやろうと思っていた。しかしそれも気苦労に終わる。
「すまんな。面倒を起こさせてしまって」
「いいえ。しかしこれ以上は、さすがに遊んでもいられません。自分たちは旅立たせて頂きます」
体よく「王様代行」を断る。
さすがに王もまた、そこを頼みはしなかったのだけれど・・・。
「残念じゃのう・・・。ジャル姫だけでも置いていかんか」
がく。
「・・・・僕ですか」
どうぞお好きに。と本心は言いたいが。
「先日は我一人、個人的に遊んでしまったからのう。姫とも町を歩いてみたいのじゃ。あと一日、付き合ってはくれぬか」
ジャルの奴が(答えを求めて)俺を見るので、うんざりと許可してやった。
「では。一日だけ。私たちは宿にいますから」
「おお。そうかそうか」
・・・・すっかり愛されてるらしい。
その日、ロマリア王は思う存分ジャル(姫)を連れまわし、(やはり町でも大人気)その間俺たちは宿にておいおい時間を過ごす。
ナルセスは彼女とデート。
俺とアイザックは鍛錬。買出し、これからの相談。情報収集。
夜にはナルもジャルも帰ってきて、ジャルは土産までしっかり抱えて帰って来た。
「王様とすごろく場へ行ったんです。僕はすぐ落っこちちゃったんですけど、王様がすごくてですね。おみやげ貰ってしまいました」
「なになに?おわっ、すごいコレ、鋼の剣だよ」
「でかした。ジャル」
アイザックは満足そうに肩を叩く。
「あと、モンスター闘技場で王様いっぱい当たってですね、旅の資金までくれたんですよ!こんなにいっぱい」
「明日も行ってきていいぞ!」
満面笑顔でまた、アイザックはジャルの肩を叩いた。・・・・こらこら。
しかし、旅の資金に困ったらここにジャルを差し出すか。いいスポンサーだ。
「で、これからの事なんだけどな」
ロマリアの町で買った世界地図を宿の床に広げ、俺は相談を始める。おいおい仲間たちは地図を覗き込み、まずはジャルディーノが地図の左下付近を指差し伝えた。
「ここ、この辺りがネクロゴンドなんですけど・・・ここにバラモスがいるそうです」
魔王バラモス、言わずと知れたこの世界を牛耳る魔王。
この魔物を倒すために、アリアハンから勇者オルテガは旅立った。
「ここかー?ずいぶん険しい山みたいだけど。どうやって行くんだ」
最もな疑問は黒髪の戦士から上がり、真面目な僧侶は申し訳なさそうに事実を口にする。
「バラモスが来て、ネクロゴンドはますます地形が厳しくなり、とても人は近づけないそうです。近くの町もみな廃墟になったと言います」
暫くの沈黙。
「でも・・・、きっと行く手段はあると思います。それを探しましょう。それにバラモスのことも何も知らないですし・・・」
「そうだな。世界を回っていくしかないかな」
「・・・僕、ノアニールに行きたいんです」
また唐突に、僧侶ジャルディーノはカザーブ西、廃村の名前を出し、俺達の会話を止めた。
「・・・・なんでまた」
一人ナルセスは難色を現して、露骨にたじろぐ。
ノアニールはエルフ族によって呪われている村。地元民であるナルセスには、最も身近な恐怖と言ってもいい。
「アニーちゃんから聞いたけど・・・呪われてますよ?石になるらしいですよ?エルフ以外入れないとかなんとか。まさか、呪いを解くとか・・・・・・?」
「そうなんですか。いえ、ただ、僕はシャトレーさんの言っていた事が気になっていて・・・。エルフはとてもつまらない種族なんだそうです。そんなことないと思うんですけど。だから気になるというか。行ってみたいんです」
「どうする」
アイザックが俺に決断を求めてくる。
「そうだな・・・。当てがあるわけでもないし、エルフが何か知ってるかも知れないからな。行くだけ行ってみるか」
噂のエルフの森へ、呪われた村へ、俺たちは向おうとしていた。
後書き さてさて。どうだったかなぁ・・・ラブコメわ・・・ 話的にカンダタさんはあんまり関係ないのでカットしてしまったけど・・・。(戦闘シーンのない小説だ) アニーちゃんは好きな女の子なので、書いててとっても楽しかったですvv 商人x武って言うより幼馴染萌え、かな。ここは恋人会話を書きたいCPですね。 *後日、バハラタ編でカンダタ辺りを補足しました。 |