「ロマリア恋模様」
+NEEZ+
ロマリア城下で久しぶりの宿へと落ち着いた。
暫く野宿が続いていたからな。仲間の三人もそれぞれ喜んで羽根を伸ばしているようだった。
アリアハンを出て、最初の訪問国ロマリアは豊かな国で、これからの旅の仕度や進行ルート、情報を示唆するのにいいだろうと教えられていた。
見た事もないすごろく場なんかもあって、アリアハンとは大違いの大都会。賑やかで派手な王国。
世界中の王に挨拶して回れとは言われていたが、とりあえず面倒なので後に回した。俺は一人宿にこもり、あの『変人』からもらった「魔法の本」をパラパラとめくっている。
絶対何かある。それは確信。
思わせぶりな台詞も頭に残っているし、何より俺は魔法は使えないし、興味もない。丁度いい勉強になるかも知れないが……。
まさかそんなことのためでは無いだろう。
俺が黙々と読んでいる今、仲間たちはそれぞれ自由行動中だった。
地元民ナルセスはすぐさま挨拶周りに飛び出し、アイザックは宿の台所を借りて大根の煮物を料理中。
ジャルはもらった花束の所在に迷っていたが、この際町の人間に振舞うことに決めて意気揚々と出かけて行った。今頃外で花配り少年になっている事だろう。
魔法の本には時々メモが挟まれてあり、ますます元の持ち主が気にかかる。直接本に書き込まれていたり、挿んであったりする丁寧な文字の持ち主は……。
「一体誰の本なんだよ」
考えていて、最悪なのは『奴自身の持ち物』という結果。
あいつなら、自分で自分の本を「レア物」とか言いかねなくて、そう思うと踏みつけてドブに捨ててやりたい衝動に襲われるのだった。
……今度現れたら締め上げてやる。
俺は呪文の試し撃ちを思い立ち、郊外を目指して宿を無人に変えていた。果たして自分に魔法は使えるんだろうかと、少し疑問を感じながら。
+JALDEENO+
ロマリアは、一度だけ通り過ぎた事がありました。
二年前イシスからアリアハンへと旅立った、その時にもこの「旅の扉」にお世話になった。
あの頃はまだモンスターも弱くて、旅の扉も封印されてはいなかった。そう思うと、二年という時間の重みを痛感し、僕の横顔は影を生む。
賢者さんに頂いた大きな花束を抱えて、僕は町へと外出していました。小さな女の子や、おばあさん、お店の女の人に一本づつ挨拶して配って歩く。皆さん喜んで下さり、すごく嬉しかったです。
花を配っていると、先に町に出ていたナルセスさんにバッタリ。
「あ〜、どうしたんですか。花配ってるんですか?いいですね」
「はい。皆さん喜んでくれてますよ」
ナルセスさんは「あっ」と声を上げて、何か思いついた様子で、どこか曇っていた表情はパッと明るく変わってゆく。
「そうだ!ジャルディーノさん。少しコレ分けて下さいよ」
「いいですよ」
花束を少し分けて、近くの店でリボンを買い、「よし!」と気合を入れるターバンの商人。心なしか顔が紅潮しているのが気になりました。
「幸運を祈っててね!ジャルディーノさん!」
がしっと両手を握って僕に言い残し、ナルセスさんは走って行った。後について物影から覗くと、ナルセスさんは照れながら女の子に花束を贈ろうとしている所。
こちらが「どきっ」としてしまうような場面。……悪いと思いつつも、僕の視線はハラハラと彼を見守る。
茶髪の快活そうな女の子で、年齢は彼と同じくらい。
ロマリア出身の彼のお友達なのでしょうか。
「アニーちゃん!見てみてよ。久しぶりに会えたのが嬉しいから、花なんか買って来ちゃったよ!プレゼントフォーユーだよ」
顔を赤くして緊張気味なナルセスさん。女の子は突然のことに驚き戸惑う。ナルセスさんのアタックに、僕もドキドキしてぐっと両手を合わせて目をつぶった。
ナルセスさん頑張って下さい……!
僕は必死に神に祈りました。
ナルセスさんの成功を……。
「バーカ。お金の無駄使い!どうせ誰にでもあげてるんでしょ」
女の子はふいっと、次の瞬間にはそっぽを向いて冷たい返事。
「そンな事ないよ。アニーちゃんだけだよ。ほら〜信じてよこの目!嘘を言ってる目じゃないよ?見違えたよアニーちゃん。いや昔から可愛かったけど、ますます可愛くなっちゃって」
「うるさい!」
た、叩かれました、ナルセスさん。見ている僕が泣きそうです。
「ちゃんとやってるの?勇者の仲間って嘘でしょ。おじ様達は?一人なの」
「あー……、それはね……。とりあえずさぁ、とりあえず俺一人。ここじゃなんだから。お茶でもしようよ。俺おごるからさ。ねっねっ!」
一瞬彼が困ったのが僕には痛く、それ以上は追えなくなってしまいました。
なんだか肩に手をのせて怒られたりしていますが……。
ナルセスさんが幸せでありますように……。
両手を合わせて祈り、僕はまた花を配り始めました。
最後まで配り終わると、僕は過ぎ行く町の人々に思いを馳せていたのです。
このロマリアを通って、故郷の砂漠の国を遠くに探す僕が居た。
ロマリアの南に広がる、広大な砂漠の中央に位置するイシス。大好きな人達が僕の帰りを待ってくれているその面影を……。
「ジャルディーノさんは、好きな人とかいないッスか……?」
「わっ。……。びっくりしました。ナルセスさん。いつの間に帰って来たんですか」
「ん〜……」
何だか疲れていました。それはもう腕をだらりと垂らしてぐったりと。先ほどの覇気は全く見えなく萎んでいる。
「元気ないですね。どうしたんですか?」
「あはは。振られちゃって……。くくぅっ……っ!」
悔しそうにナルセスさんは袖で涙を拭き笑う。
そんな、振られてしまったなんて……。僕はかける言葉も見つからなくて、ただ俯いてしまうだけなのでした。
「花束ジャルディーノさんに返しますよ〜。誰かあげる人いないんですか?ゲットですよ。彼女ゲット!上手い事やって下さいよ〜」(泣)
「うわうわ。そんな人いないですよ!!」
手をバタバタさせて断りました。恥ずかしくて顔から火が出そうになる。
「またまた。顔真っ赤ですって。かわいいんだから〜」
ナルセスさんは僕の頭を軽く叩き、背中を押した。
「俺の無念を晴らしてくださいよ〜。ああ、アニーちゃん……」
「ぼ、僕だって、僕なんか、けちょんけちょんですよ。無念晴らせないですよ!僕なんてその、かっこよくないですから……本当に……!」
道端で二人で押し合っていると、ばったりそこに通りかかってしまった人がいる。何処かへ行く途中だったようなのですが、
「そうですよ!!ニーズさんならっっ!!!」
「………何が」
僕は思わず勇者の名前を読み上げていた。
きっとニーズさんなら、ナルセスさんの無念も晴らしてくれます。
何故ならやはり『かっこいいから』です。期待に満ち満ちた目で見つめる僕達を、ニーズさんは嫌そうに眉根を寄せて見返していました。
「う〜〜〜ん。ニーズさんかぁ……。確かに目つきは悪いけど、口も悪いけど、結構顔つきはいいよな。女の子の一人や二人……」
「ケンカ売ってんのか。何の話だ」
「だからぁニーズさん。これこれこーゆーワケでしてね、俺達の無念を晴らして欲しいわけですよ!」
「わかんねーよ」
「ニーズさんならかっこいいし。僕よりきっとうまく行きますよ。女の子きっと喜びますよ!振られないですよ」
「と、言うわけで、勇者さまの偉大なとこを見たいですよ。お願いします!」
強引にナルセスさんはニーズさんの手に無念の花束を握らせる。
「アイザックにしろよ。アイツの方がいいだろ」
「あ〜〜……駄目ですよ。アイザックはこーゆー軟派なことやらないし。駄目ですよ。女の子に興味ないし。駄目ッス!」
手を振ってナルセスさんは「駄目」の連発。
「だってアイザックは……バレンタインのお返しに野菜持って行くような奴ですよ!全然女心とか悟ろうともしない奴なんですよ!?」
「俺だって女なんかどうでもいいよ」
「しつこいな……」
それでも頼む僕達に、ニーズさんは面倒になってきたらしく、頭を掻いて花束を見つめ、こう吐き捨てて折れてくれた。
「こんなもん、とっとと、そこらへんの女にやればいいだろ。全く」
「おおっ!やってくれますか!さすが大将!男だね!」
「渡すだけだからな。無念なんか晴らすつもりないぞ」
「まぁ、いいですよ。見てますから、はい」
……わぁ!嬉しいです。いいですよね。ニーズさんはかっこいいですから。
僕も安心して見ていられます。
ニーズさんは街道を行き交う人々に視線を巡らせ、どうやら相手を決めたようなのでした。
+NEEZ+
面倒くさい事になった。まぁ、適当に渡せば、奴らも満足するだろう。
俺は女女した奴も嫌いだし、ガキも好きじゃないから、見た目あんまり女っぽくないヤツを選別していた。
チャラチャラ飾った女も嫌いだからな。その点そいつは合格といえた。………と言うより、異国の服が目に止まったというのが正解か。
遠くジパングの旅装束の女。黒髪を少しばかり左右にまとめ、武器に槍を背負い歩く。同じく黒髪、異国の服の男と親しげに会話し笑っているのが見えた。似ているので気がつくが、多分兄妹の旅人同士。
美人ではないし、体型も並以下。そんなもんで丁度いい。
「おい。お前。ちょっといいか」
「何用でしょう。私ですか?」
「コレやるよ」
無造作に、振り返る女に花束を投げ渡す。女は受け取り、驚いて目をパチパチさせ、花束と俺とを交互に見やった。
ナルセスがよこした花束は(俺はこんなの冗談じゃないが)白い薔薇だけ集めたやつで、しっかり布を巻き、仕上げに赤いリボン。結構綺麗なシロモノだった。
しかしクサイ。キザくさい。
「じゃあ」
俺は振り向いて後ろ手に挨拶し、そのまま何事も無かったように帰路に着く。
「まっ・・・!待って下さいませ・・・!」
がしっと掴まれたのは首の後ろ。
女に首根っこを掴まれたのは初めての経験だった。
「しっ、しばし、しばし、待って下さい。お待ち下さいませ。そんなに急いで帰らなくても良いでしょう、旅の人。良いでわないですか。わ、私は、………私が貰って良いものですか。これは・・・・白い花ですよ……?」
「白い花だけど?」
女は顔を赤くして奇妙な程に興奮状態に陥っていた。眉をしかめて、愛想もなく質問に答える。一体白い花が何だと言うんだ。
「そうですよ?白い花ですよ殿方・・・!!」
「だから何だよ。好きだったのかよ」
変な喋り方な女だ。女は頬を真っ赤にして両手を組み、うっとりとして俺に再度訊いてくる。
「よいのでしょうか?本当に貰ってよいのですか?後悔しない・・・?」
「いいよ。あげるよ」
「しかも、浪漫てぃっくなことに、薔薇ですよ!」
「だから何だっつーーのっ!(怒)もらっておけよ!」
「・・・・・・・・・!!」
女は何かに感動してうち震えた。(気がする)
「そ・・・、そうですか。そうなのですか!嬉しいです!私にも春が来たのですね」
何か様子がおかしいことに気がつく。・・・のは、遅かったのかも知れない。
「良かったね、サイカ。君は初めて会うけれど、ジパングの風習に詳しいのだね」
兄の方が人の良さげな笑顔で挨拶をしてきたが、俺は憮然と口を尖らせていた。
「いや、全く知らない」
「・・・・・・・・・・・・・」
兄の方は、黙りこくり、事態に困惑したような表情を見せる。
なにかがおかしかった。
「私達は、ジパングの旅人なのだけれど……。『白い花束』はわが国では、伴侶の申し込みにあたる。知っていて、渡したのかとてっきり・・・・・・」
ブッ。
俺は思い切り吹き出していた。
「ああ・・・。嬉しいです。運命の出会い、このような出会い、胸がときめきます・・・」
うっとりと、女は薔薇を抱えて空を仰いだ。
「貴方様は、私を何処で見初めてくれたのでしょう・・・?噂に聞く、まさか一目惚れ?そんなっ、さすがに照れますね」
恥ずかしそうに頬を押さえ、妄想にふけってクネクネする。
「そうですね、私は初対面ですから、まずは友人からで……。良いでしょうか?ああ、そうです、貴方様、名前はなんと申します?私はサイカと申します」
「………。ニーズ」
嬉しそうに話す女に、俺は口ごもり、強く言い返すこともできずに不本意にも名乗るはめになっていた。
「そうですか。良い名ですね、ニーズ殿。私の国は東方ジパング。こちらは兄上のサナリです。あとは・・・、私は魚が好きですよ。趣味は釣り。それから………」
自己紹介しなくていいから。
「あー……、悪い。返してもらうよ。取り消し」
冗談じゃないし。こんな女と伴侶とかどうとか。
なんだか妙な話になってしまったが、早いところ逃げ出したくて内心焦りを覚えていた。花束を返して貰おうと手を伸ばすけれど、女、サイカは唖然呆然として、顔色を蒼く変えてゆく。
「取り消し?取り消しとはどういう意味ですか?私を花嫁にしてくれるのではないのですか?」
「するかよ。するわけないだろ。勝手に勘違いしないでくれ」
「・・・・・・・・・・・・・」
サイカは凍りつき、俺が帰ろうとすると、むんずと腕が引き戻された。
「酷いです!このろくでなしっ!」
背中の槍刀を抜き出し、柄の部分で俺の背中をど突き飛ばす。強烈な一撃を喰らって俺は吹き飛び、石畳に落下し口の端を少し切った。流れた血を拭って女を睨み上げると、槍を両手にサイカはわなわな歯軋りしていた。
「ずっと、こんな出会いに憧れていたのに……!白い花束や恋仲も、結婚も憧れていたのですよ・・・。それなのに・・・。冗談でそんな事して欲しくはないのです……!」
怒っているのか、泣きたいのか、顔を真っ赤にして震えるジパング娘。ロマリアの道端で通行人は皆立ち止まり、責められる俺に注目や野次が集中する。
「知るかよ!俺はジパング人じゃないんだよ」
痛みに心底ムカつきながら、俺は立ち上がり噛み付いた。
「勘違いしたお前が悪いんだろ。だいたい、お前みたいな奴誰が相手にするんだよ。自意識過剰なんだよ」
「なんですと・・・・・・!!」
サッサとこんな女放って何処かへ消えてしまいたい。
サイカは唇を噛んで、下を向いた。もしかして泣くのかとドキリとしたのをひた隠す。
「もう構いませぬ!」
吐き捨てて、女はそのまま人ゴミの向こうに走り去った。
周りの視線が冷たく突き刺さり、奴の兄貴も視線で俺を責めていた。
「知らなかったのは仕方がないし、こちらの勘違いもあっただろう。サイカはあの通りなので、なかなかこういった経験が無くて、舞い上がってしまった。それは申し訳なく思う」
「・・・・・・・・・・・・」
あってたまるか。あんな女に。
「あくまで花束の事はジパングだけの習慣故、君に押し付けることはならないが・・・」
妹の走っていった方向を兄貴は見やり、そして俺を横目で見るんだ。
「最後の一言は撤回してもらいたい。わが国は礼儀を重んじる」
「・・・・・・・・・・・・・」
どうやら兄は、固い人種のようだった。
周りの野次馬も好き勝手うるさかった。わかってるよ、俺が悪い事は。
何でこんな目に会うんだ?後でナルセスの奴許さない。(八つ当たり)
「………。わかったよ」
兄貴に嫌そうに言い、しぶしぶ俺はあの女の後を追いかけた。全く持って不本意以外の何者でもなかった。
探せば町の片隅、路地裏に座り込んでいる奴の姿が見つかった。足元に無造作に置かれた花束。目もくれずに膝を抱えてサイカは顔を埋めていた。
泣いている………?
あまり気は進まなかったけれど、仕方なく俺はサイカの横に座り、慎重に言葉を選んで謝った。
「えと………。悪かった」
「まだ用がありますか。また殴られたいのならばそうします」
「いや。それは勘弁」
顔を上げて、恨めしそうにジパング娘は俺を見上げる。
「返すの忘れていました。花・・・、持って帰って下さい」
俺は置いてあった白い薔薇の花束を手に取るが……。
まだそこに居座ったままでいた。
「もう構わないです。私が馬鹿だったのです・・・」
確かに馬鹿だけどよ……。
「私が浮かれてしまいました。初めてのことで・・・。親族でもなく、よその殿方に花を渡された事はなく・・・。更に『白い花』で、驚きました。動転してしまい・・・」
それは悪いことしたけどさ。
「私にしても、憧れていたのですよ・・・。いつか私にも素敵な殿方が現れて、白い花を片手に、私を迎えに来るのですよ」
結構、普通な女なんだな・・・・と、その時感じていた。
普通よりも実は夢見がち、か・・・・?
「やっぱりやるよ。コレ」
俺は花束を渡していた。
「何故ですか。理由がないです。また取り消しするのならば、貰いたくありません」
「申し込みじゃなくて。俺はアリアハンの者なんだけど……。アリアハン式侘びとでも思ってよ」
そんなしきたりはないけど。そう自分で思いながらも押し付ける。
「アリアハン式の詫び……?」
顔を手の甲で擦って、ジパング娘は軽く笑った。素朴に、見ていてどこかほっとするような笑顔で。
「では、受け取ります。花は好きなのです」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
単純。
花を映す赤系の瞳は嬉しそうだった。赤いリボンも嬉しいようで(赤が好きらしい)、髪に結ぶと求めてもいない約束をしてくれる。
「そうですか。世界を旅しているのならば、また会えるかも知れないですね」
俺は会わなくてもいいけどね。心の中では密かに舌を出しながら。
「そうです。宜しければ、髪に結んで貰ってもよいでしょうか。そうすれば、きっとまたニーズ殿に会えると思うのですよ」
「なんだよそれ」
適当なまじないだな、と馬鹿にしたけれど、詫びてる立場上言うとおりにすることにした。サイカの髪のまとまり二つに、それぞれ結んでやる。
「こんなモンか?」
「感謝です」
サイカと共に、兄のサナリの元に戻り、俺はようやっとこの女から解放されることに素直に胸を下ろしていた。随分長い時間だったような、疲労の痕跡に苦笑をよぎない。
「サイカ、それ、やはり受け取るのか?」
「アリアハン式の詫びだと言うので。受け取りました」
「なるほど・・・」
妹の機嫌が直っているのをみて、兄貴は俺をまじまじと確認するように見つめていた。
「わかった。ありがとうニーズ。また是非会おう」
「いや、別に・・・」
妙に意味ありげに兄貴は笑い、にこにこと手を振って人波の中に消えていった。
思い出したように、すぐさま左右から俺の仲間達が顔を出す。
「見てましたよ!見てましたよ!何ですか、結婚の約束までしたってことですか!さすがニーズさんッすね!!」
してないって。
「殴られた時はどうしようかと思いましたけど・・・。女の子ごきげんでしたよね。さすがです。やっぱりかっこいいです」
かっこよかったか・・・?
「ニーズにね・・・意外な展開だったなぁ・・・」
いつの間に加わっていたのか、アイザックまで仲間になって見ていたらしい。頼むから止めてくれ。
「でも、泣かせてはいけませんね。別れ際も、もう少し気の効いたことを言ってあげないと。暫く会えないのですから」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
なぜお前までいる。緑の髪の変人め。
いつから居たんだろう。そう不思議がる俺達にお構いなく、調子よく喋る自称賢者ワグナス。コイツに聞く事があった。
「おい!この間の本!何処から持ってきたか言え!」
一人恋愛談義に萌えるのを止め、襟首掴んで激しく揺さぶる。
「ああ、アレですか・・・・。そうですね・・・・」
「いくら払います?」
「メラ」
奴に火の玉をぶつけてやった。うまい具合にこんがり焦げた。
「あはは。魔法使えるようになったんですね。お役に立てて光栄です」
「おかげで今魔法に目覚めたよ。丁度試し撃ちしたかったんだ」
「そうですか。あの本はですね〜」
自分にホイミしながら奴は困ったように言う。
「言ってしまうと、泣く人がいるんですよね。だから今は言えません」
「泣く奴がいる・・・・・・?」
またどうでもいい嘘をほざきやがって。
「だからすみませんが、今は言えません。時期にきっとわかりますよ。魔法の勉強してて下さい」
奴は軽く俺の手から逃れにっこり笑う。
「それでは皆さんまた」
いいよ。もう来なくて。
なんか、聞き出すのは絶対に無理なような、根拠の無い確信を覚えてしまった。必死に聞こうとすればする程、実は奴を楽しませるだけのような気がしたんだ。
「はー・・・・、いいなぁニーズさん。・・・彼女できて」
「できてないって」
ぼやくナルセスはいい加減に鬱陶しくてて、俺の怒りゲージが満タンに溜まりつつある。
「明日、王様のところに行こうぜ。ニーズ」
宿に帰りながら、アイザックだけがまともな会話を提供してくれるようだ。お前はそういう奴だ。俺はアイザックと二人、後の二人は無視して帰った。
翌日。
ロマリアの王に初めて会う。
アリアハンの王からの書状を持っての謁見。なんだか妙にロマリア王は親しく接してくるが、その頼みには心底閉口することになるのだった。
「・・・・本気ですか」
「おお。もちろんだとも。のう、少しの間、この国の王をやってみないか。なに、少しの間で良いのじゃ。そうじゃな、一週間ぐらいどうじゃ」
「お断りします」
「まぁそう言わずに、なっ」
「お断りします」
「頑固じゃのう・・・・そう言わずに。なっ」
「お断りします」
「お断りします」(エンドレス)
その間。うちの仲間達はどう思っていたのだろうか。少し詮索してみよう。
ジャルディーノの場合。
ニーズさんが王様に・・・・・・?いいな。すごい。かっこいいだろうな・・・。
こんなところか。
ナルセスの場合。
王様?!うわっうらやましー!!!何でもやりたい放題じゃん!かわいい娘たちに世話してもらったりなんかして!?うおおおーっ!俺もなりてーっ!!!
絶対こうだな。
アイザックの場合。コイツが問題だった。
ニーズが王様って・・・。その間俺達何してるんだよ。はっ、まてよ。俺達も何かやらせてくれたりしないか?ニーズが王様なら俺は親衛隊とか!?
王様専属の騎士とか!!???・・・・・と、思ったかどうかは定かではないが・・・。
「王様。その間は私たちはどう過ごしていれば良いでしょうか」
アイザックが進言する。
「俺達も何かさせてくれますかっ!?」
ナルセスも嬉しそうに・・・・。
「おおっ。そうじゃのう。仲間達も好きなことをすればよい」
「やったあああ!!!!」
ガッツポーズする二人。待てよ、俺は受けたつもりはないぞ。
「俺は嫌だからな」
「やりましょうよ〜。俺なにやろうかな。大臣がいいかな。えらそうな大臣!」
「安心しろ!王様のお前は親衛隊長の俺が命をかけて守るから!」
「守らなくていいって」
「えっと、僕は・・・・」
一人戸惑うジャル。ジャルを見てナルセスが手を叩いた。
「ジャルディーノさんはお姫様っすよ!!!
お姫様!!お姫様で決まり!!!」
俺は前のめりに倒れた。・・・・・・嫌だ。嫌だこんなパーティ。
俺の意見も尊重されないまま、みんな自分勝手に動き始め、俺は一人玉座に残されていた。金の冠を被らされ、マントを着て。
ぼんやりうな垂れていると、奴らが騒がしく戻ってくる。
少し大きな鎧に立派な剣を手にしたアイザック。非常に誇らしそうだ。仕方ないか、好きだからな、こーゆーの。
ナルセスはいたって普通の大臣風で。多分生まれて初めての豪華衣装だな。
・・・・・・・・。そしてジャルが・・・・・。
「お前化粧までしてるのか」
「え、した方がいいって・・・。あの、お城の人たちが・・・」
赤毛のカツラまでして、声聞かなければ騙せそうだった。変わった声の女で通じるかも知れない。白メインのドレスで慣れないでふらふら歩いている。
「お前男としての自覚あるのか」
「はい。お、男ですよ」(汗)
なんだか知らないが、ナルだけでなく、「かわいい」と王や城の召使達に大人気だった。ジャル姫様と呼ばれている。
何してるんだろう。俺達・・・・・・・。
+ANEE+
「ふう・・・・」
あらかた仕事を終えて、私は汗を拭って一休みしていた。
カザーブは田舎だから、あんまり仕事もないのよね。ただの荷物運びの手伝い、プラス護衛なのだけど。明日辺りカザーブに帰れそうかな。
顔を洗い、乱れた髪を直し、私は挨拶をして宿に帰ろうとした。
「アニーちゃん、ちょっと聞いてくれよ。ロマリアで急遽お祭りがあるらしいよ」
一緒にカザーブから来た武器屋のおじさんが言う。
「お祭り?なんの」
「アリアハンから来た勇者オルテガの息子が、まぁ、勇者だな。暫くロマリアの王になるんだそうだ」
「はぁあ?勇者が王様にー?」
「仲間達と一緒にパレードするらしいよ。ナルちゃんもいるんじゃないのかな」
「・・・・・・・・。いいわよいなくて。あんな奴」
「またまた。あんなに仲良かったのに」
「仲良くありません!」
おじさんはすぐからかうんだから。私は怒って宿に帰る。
・・・・帰りたかったんだけど・・・。
町に人が多くて、もう騒ぎになっていた。
例のパレードってヤツ?みんなお祭り好きねぇ・・・。
勇者オルテガは私でも知ってる有名人だもの。その息子なら仕方ないのかな。本当にナルセスったら勇者の仲間なのかしら?
気になって、私は人ごみの中から幼馴染の姿を探すことにした。
まず、勇者が見れた。王冠をして赤いマントで。若い黒髪の男。
・・・・なんだかえらい仏頂面ね。
オルテガはもっと人のいい感じだったと思うけど・・・息子は違うのかしら。騒ぐ町の人たちにもなんだかあんまり愛想がない。いいのかなこんな勇者で。
その横に若い黒髪の騎士。満足そうに王様の後に付いている。恭しく町の人たちに敬礼して行く姿は、なかなか鼻が高そうだった。
その後に、変な格好のナルセスが見えた。全く似合わない衣装で、思わず吹き出して笑ってしまう。いつものターバンを外して銀がかった髪が見えている。厚そうな豪華マントを羽織って、歓声に愛想良く手を振っていた。
一際歓声が大きくなり、赤毛の可愛いお姫様が民衆の前におずおずと現れる。
勇者とはうって代わって笑顔が眩しく、はにかんだ風も非常に可愛い。ロマリアには姫が不在だからとんでもない人気を博し、割れるばかりの歓声に驚いている。
・・・・なんでナルセスが手を引いてるのよ。
思わず私は両手を握り締めていた。
やたらと二人は親密そうで、胸がムカムカと不協和音を訴える。人ごみの中、姫様は歩きにくそうで、彼女はうっかり転びそうになった。そこをいかにも当然のように、ナルセスが助けて抱きとめる。
私は完全にぶち切れていた。私に気がついたナルセスが傍にやって来るのに、完全に怒りの眼差しで牙をむく。
「あ、アニーちゃん!見に来てくれたの」
「見に来てないわよ!!」
「な、なんか怒ってる・・・・・・???」
私の剣幕に圧倒され、びくびくしてナルセスは後じさる。
「ま、まだ怒ってるの?ごめんってば。今度ちゃんと話すよ」
「別にいいわよ!!楽しそうね!馬鹿っ!」
吐き捨てて、私は背を向けた。すっかり頬が膨らんで、顔が赤くなっていたのも自分では分からない。
「ちょ、ちょっ、待ってよ。アニーちゃんってば!」
「何よ追いかけてこないでよ。アンタパレード中でしょ。お姫様守ってなさいよ」
「ん?うん。そうだ、かわいいだろジャル姫様。あれも俺の仲間でさ」
「ホント、すっごくかわいいわね!!じゃあ!」
我ながら、かわいくない言い方をしてナルセスをつっぱねて走り去った。パレードに集まった人込みに紛れて、ナルセスも追いかけて来れはしない。どうでもいいわ。
思い出すだけでもムカムカする。
何がかわいいよ。
誰にでも言うくせに。だから昔から嫌いなのよ。信じられないのよ。町の騒ぎをよそに、私は一人宿屋でふて寝する。
そして、深夜に事件は起こるのだった。
昼間、ふて寝していた私はたまたま夜起きていて、少し窓から夜空を見ていた。
そこへ走る影。
影。影。影。
「うわっ!・・・・カンダタ!?」
覆面マントの大男が過ぎ去り、私は口を押さえて呻く。裸にパンツと言えば彼しかいない。この辺一帯に名を馳せる盗賊の頭。
頭を下げてこっそり見ていると、何やら黄金に光る物を握りしめ、北の方へと疾走してゆく。・・・・どうしよう。追いかける?
でも私一人じゃ到底勝てるわけがない。でも、どこへ行ったか位は・・・・・・。
私は部屋から外へ飛び出していた。
「畜生!見失った!何処へ行った!」
見覚えのある少年が一人、私とはち会う。
「カンダタを追ってるの?北よ。アイツ等は北西の塔が根城なの」
「わかった。すぐに追いかける」
夜の闇に彼の持つ灯り。近くに行けば、やっぱり、昼間見た勇者の仲間の戦士に間違いない。城に戻ろうとする彼の背中を見やり・・・・・・。
ナルセスも一緒に追うのかも知れない、そう思った時には、「私も行くわ!」衝動的にすでに自分は叫んでしまっていた。