『絆』  封印テーマのF: FEMALE (女)          
本当におまけシナリオ              
場所   :前世のあちこち                
登場キャラ:巫女瑠璃と太一             
担当   :大橋薫        2003/07

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太一の章

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これはずっとずっと昔のお話
忘れてしまった僕とあの子の子守唄

◆◆前世での尾上島

僕はここにいた。

尾上島・・・・・
本土の人は拝み島と読んで畏れている神のいる島。
月神に仕える巫女たちの住む島。

赤黒く澱んだ因習の島。

この尾上島の月影神社の
巫女たちの寝所から遠く離れた下の屋(しものや)に

ただ居ただけ。

島長(しまおさ)は僕を見るたびに嫌悪と拒絶と軽蔑を込めて同じ言葉を繰り返す。
「この穢れた子供が・・・・!」

島の人も僕には冷たい。
たまに石を投げる子供もいる。


どうして?

分からない。
どうしてぼくがこんなに嫌われているのか・・・

噂では僕のお母さんは巫女だったらしい。
神の花嫁・・・月の花嫁として仕えるはずだった尾上島で一番美しい娘。

じゃあお母さんはどこへ行ってしまったのだろう?

島長は吐き捨てるように、お母さんは僕を捨てて本土へ逃げたのだと言う。
島に伝わる大切な二対の勾玉を盗んで・・・・・・・・

だから僕も罰を受けるのだと。

お母さん・・・・・・

僕を置いてどこへ?

どうして?

島長は捨てられた僕を仕方なく引き取ったと言う。
感謝・・・・・・するにはあまりにも僕の扱いはひどかった。

気付いたら巫女の世話をするために生きて・・・・

いや、生かされていた。

そして用事を言いつけるのに不便だと言うだけの理由で
太一と名づけられた。

ただ毎日せわしなくこき使われるだけの日々。
別に疑問もなく、息をし、働き、食べて、眠るだけの生活。

まだ幼かった僕。
小さかった僕。
いつも悲しかった僕。
空しい疑問にも誰も答えてはくれない。

全て諦めていた、そんな子供。

何も求めない。
何も望まない。
何も考えない。

そうだ・・・・・・

彼女に会うまでは。

◆◆幼い瑠璃との出会い

島長がある日小さな女の子を連れてきた。
とても・・・・・その・・・・・・・

汚い子供。

僕よりも幼い。
女の子なのにひどい身なりだ。

「太一、これからはお前がこの子の世話をしろ」
島長は吐き捨てるように言って村へ帰っていった。

僕が?この子の世話?
じゃあこの子も巫女になるの?

たまにいるんだ。
尾上島に巫女の素質があるからと孤児が送られる事が。

おそらく捨てられた子供だろう。
とにかく臭いし汚い。まともな暮らしとは程遠い環境にいたんだろう。

髪は絡んでボサボサ。服というよりボロ布。
そして特に爪。
自分で噛み切って短くしているらしい。
しかも真っ黒だ。

なんだか僕はちょっとだけ嬉しくなった。
だって僕よりもひどい境遇の子供なんてはじめてだ。

優越感・・・・・・・

この島でこんな気持ちを味わえるなんて。
思わず僕の心は踊った。

そうか、
そうだったのか。
島の子供達はいつも僕をこんな感情で見ていたんだ。
見下ろしながら・・・・・・自分の優位と足下の安全を確認しながら・・・・・・

「汚いなぁ、とにかく水浴びでもしろよ」
僕は面倒臭そうに言い捨てた。

こんな言い方したの生まれてはじめてだ。
ちょっと島の人たちの真似をしただけなんだけど。

僕は少しだけドキドキして彼女の反応を待った。

女の子は動かない。
僕の顔を見ようともしない。
ちょっとがっかりして僕はもっと語気を荒げてみた。

「おい!聞いてんのか?臭いんだよ」

僕の大きな声にびくっとしておどおどと僕を見上げる。

綺麗な目だ。

でもなんだか生気が感じられない。
ずっと目が泳いでいる。落ち着きがない。

まるで野生の小動物のようだ。
すっかり怯えている。

ちょっと可哀相になって僕は少し優しい口調で話し掛けた。

「あのさ・・・・だから身体洗った方がいいよ。
川まで連れて行ってあげる。さぁおいで」

「・・・・・・・・・・・」
差し出された手を不思議そうに見つめている。

僕ははっとした。

この子は言葉が分からない・・・?
人間扱いすらされなかったのか?

獣のように僕の手の匂いを嗅いでいる女の子。

・・・・・痛い。


僕は苦しくなった胸を押さえて彼女を見つめていた。。
なんだろう?この感情は?

こんなに小さくて細い女の子なのに・・・・・
僕はなんてことを考えていた?

自己嫌悪。

「ごめんよ・・・・・・・僕・・・・・・・」

でも謝ったって彼女にはきっと分からない。
自分が侮辱された事も、
人扱いされなかったことも、
これからのあまり幸せではない人生も・・・・・・

やっとの思いで僕は話し掛けた。

「大丈夫だよ・・・・・僕は何もしない。ひどいことなんてしないよ」

「傷つけたりしない。守ってあげる。僕がお前を守ってあげる
約束するよ。絶対。だからもう大丈夫だよ・・・・・」

そう言いながらいつの間にか僕は泣いていた。
他人のことで泣くなんて初めてのことだった。

こんな言葉など彼女には理解できないと分かっていても、
僕は必死にできるだけ優しく彼女に語り続けた。
まるで自分に言い聞かせるように。
思い付く限り沢山。

そう、僕自身が誰かに一番言ってもらいたかった言葉を・・・・・

「困った事があったら僕に相談してね」

「大丈夫、僕がついてる」

「守ってあげる」

「大切にしてあげる」

「いつも一緒だよ」

「僕の事を家族だと思っていいよ」

「ぞうだ、僕は君の兄さんになろう。大切にするよ。
守ってあげるからね・・・・ええと、君の名前は・・・・・・・どうしよう・・・」

何気にきょろきょろと見回すと彼女の足元に花が咲いていた。
とても綺麗な蒼い花・・・・・その色僕は大好きだ。

「瑠璃・・・・・」

ふと彼女と目が合った。
その奥にかすかな光が見えたような気がした。

◆◆時が経って成長した二人。

あれから十数年の月日が経った。

僕は細いなりにも、
村の男達と変わらないくらいに大きくなっていた。

もちろん力だって負けるものか。
神社での力仕事は全て僕の担当なのだから、
自然と身体は鍛えられていた。

尾上島の太一・・・・・・
立場は何も変わらない。

でも顔馴染はたくさん出来た。
中には親切な人もいる。


(紅葉)
最上級の巫女、月の花嫁の紅葉さま。
とても美しい女性・・・・・・

「太一、こちらにいらっしゃい・・・・・・」

僕にとって姉のような存在だ。
普段は優しいのにたまに怖い目をするときがあるけれど。
噂では花嫁の交代の時期が近付いているらしい。
華やかだった紅葉さま・・・・・・
ひどい目にあわなければいいけれど・・・・・・

(ゆり)
島長の娘、ゆりさま。
とても病弱で優しい女性だ。

僕なんかにも挨拶をしてくれる。
一度、お見舞いとして花を届けたらとても喜んでくださった。

「とても綺麗ね・・・・・・ありがとう・・・・・・」

僕なんかにお礼を言ってくれた!
優しく微笑んでもくれた。
巫女とは立場がまるで違うお嬢様。
いつかは本土へ嫁いでいくのだろう・・・・・・
幸せになってもらいたい・・・・・・

(千歳)
大人しい見習い巫女の女の子。

「・・・・・・・・・・・・」

いつも誰かの後ろで唇を噛み締めてる。
たまに僕を見ている?
目があうとすぐに逃げてしまうけど。

何かを思い悩んでいるのなら、
僕に相談してくれればいいのに。
でもきっと僕には何もできないことなんだろうけど・・・・・・
彼女はきっと分かっているんだ。
この島の巫女の運命のことを・・・・・・

(香子)
しっかり者の見習い巫女。

「おい太一!こっちも手伝ってよ」

歯に衣着せない話し方が好きだ。
いつも明るく笑い飛ばしているいる。
この先の暗い運命までも吹き飛ばすようだ。
男だったら親友になれただろうに。

でもたまに・・・・死にそうな顔をしてる時がある。
僕は何も力になってやれないのか・・・

(青柳)
本土からやってきた流れ者の絵師。

「よう・・・・・・こっち来て飲まないか?一緒に」

とても綺麗な顔をした男。
島の奴らのように僕を見下さない。

無口で・・・何か秘密を持っているらしい。
噂では何か問題を起こして本土から逃げてきたとか?

僕のことを時々妙な目で見ていると思うのは自意識過剰だろうか?
そのへんの女よりも美しい男。
その目の奥に何か邪悪な光を宿した男。
何を考えているのか分からないけど絵の才能はあるんだろう。
島長のお気に入りだ。

(若旦那)
島長の息子、いさり様。

「太一、いつも頑張っているな」

妹のゆりさまをとても大事になさっている。
優しいお方だ。巫女達にも気を遣ってくださる。
早くいさり様が島長になってくださればいいのに。
そうすれば少しはこの島も・・・・・・

そして・・・・・・・

「にいさま!」

親しげに僕に笑いかける髪の長い見習い巫女。
こぼれそうな微笑でいつも僕を迎える瑠璃。
その笑顔は思わず眩暈を覚えそうなほど綺麗だ。

島長の僕を見る目が変わったのは、瑠璃のおかげかもしれない。
あのみすぼらしい子供がこんなにも美しく成長するとは、
誰も考えなかったんだろう。

そして瑠璃は賢かった。


すぐに言葉を覚え、礼儀を学び、心優しい女性になった。

当然彼女にちょっかいを出したがる輩も大勢いた。
だが男達のいやらしい視線からはいつも僕が守っていた。
決してあいつらに触らせるものか。

愛しい瑠璃。
可愛い瑠璃。
僕の宝物。

それでも「儀式」は近付いていた。

だって瑠璃は尾上島の巫女だから・・・・・・・・・・・・・・・・・・

身を捧げ、奉らんや

導かれし月の光を・・・・・・・・・

瑠璃には不思議な力が備わっていた。

例えば瑠璃は、決して巫女ヶ池にだけは近寄らない。
恐ろしい声が聞こえると言う。

「恨めしい・・・憎らしい・・・悔しい・・・・悲しい・・・・・」

「全ての巫女に禍(まが)を負わせむ・・・・・・」

瑠璃にしか聞こえない呪いの言葉。
人ならざる声を聞く能力。
たまに嵐を予知することもあった。
瑠璃の噂は島中に広がっていた。

次の月の花嫁は瑠璃だと・・・・・・・・

そう、それは次の「儀式」ではっきり判ることだった。

月の神との婚礼の儀式。

巫女達だけの神聖な祭祀なので、
もちろん男の僕は見たこともない。

よく分からないけれど・・・・・・
この儀式を受けたものだけが正式な巫女になれるのだという。

そしてその巫女の運命も決まるのだ。

月の花嫁になって輝くのか、
月のはしために堕ちて散るのか・・・・・・・・・・・・
月の婢(はしため)
それこそがこの尾上島の恐ろしい巫女達の悲しい運命。
呪わしい汚い欲望に満ちた神の儀式。

瑠璃・・・・・・・・・・・・
僕だけの妹・・・・・・・・・・・・

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