顔を挙げると、彼がわたしを見ていた。
なんだい、と首をかしげると、その首をかしげたさまが綺麗だ、と子供のように喜んで頬にキスをしてくる。
この人間は、なんでもわたしを褒める理由にする。そう思ってから、わたしは可笑しくなって笑い出した。
エルフの間に育った人間だから。時間の大切さを、彼はよく知っている。だから、一緒にいる時に、言葉を惜しむようなことはしない。
人間は、素直になれぬ言葉のせいで、互いに傷つけ合うと聞いていたけれど。この人間は、そんな時間がないということを、よく知っているのだ。
だから思わず、わたしも言ってしまう。
「大好きだよ、アラゴルン!」
あなたの瞳を見た時に、わたしがどう思ったかなど、きっとあなたは知るまい。わたしは、知っていたのだよ。あなたは、王になる人なのだと。
アラゴルン、わたしというベレグの、あなたはトゥーリン。知っているかい、アラゴルン、わたしがたった百年、裂け谷に出向くことがなかったら、あなたとわたしは逢ってはいなかったのだよ。代々のドゥネダインが、たった数年ずつ、子を産むのが早いか遅いかしただけで、この冒険に、わたしと出会うのはあなたではなかったのだよ。
そうとも、わたしの旅の仲間たち。あなたたちと、わたしは本当にわずかの時間、綱渡りをするような運命の狭間に、出会って、そして捕らわれた。
たった五十年、たった百年。そんな一瞬の火花でも、それは永遠になり得るのだよ。あなたたちと出会った一瞬、それをわたしが、永遠に喜ぶなら、それは永遠になるのではないかな?
……だから、ほら。
こうして、思い出の、夢の中で。
今でもあなたは、わたしに囁く。
わたしたちのエルフ、愛しているよ、と。
いつだって、
還るのは、あなたたちの、
――出会ってしまった、最愛の者たちのもと。
……定命の子たちよりも、ずっと、現実に近いと言われるエルフの思い出。その思い出の海にたゆたうレゴラスの頬を、一筋、ゆるく涙がつたって落ちた。