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闇の森の王スランドゥイルの、その精悍にして秀麗な眉目、頬に揺れる細かな編み髪は、左にふた房、右にひと房。 いくさ場へと向かうその朝、災禍と呪縛への備えのために、言祝ぎ歌を歌いながら、手ずから髪を編み、また、王子に編ませる、その時にさえ、王は、決して、編み髪の数を変えはしない。 あるひとつのいくさの日まで、王の両の耳に、ふた房ずつの編み髪が下がっていたというのに。 今は、その白金の滝、左にふた房、右にふた房。 知る者は口を揃えて進言する。 『編み髪が欠けては呪も欠けまする。 王の御身の上に、悪しき禍が降りかかるとも限りませぬ』 夜光杯を手に笑う王は、ひらり、と手を振るだけで答えようとしない。 ただ、その傍らに、控える王子がいつも少しだけ、困ったように眉を寄せるのだった。 知る者は少ない。 五軍の戦の乱刃の中。 王は、飛来した矢から王子をかばい、編み髪を、黒き鏃に穢され引き千切られた。 そして、王がそれがゆえに、決して、喪った編み髪を編み直さぬのだと、知る者は更に少ない。 身代わりに壊れた護符を、修繕してはならぬように。 王子の命と引き換えに喪われた編み髪なら、編み直すなどは許されぬと。 己を護る編み髪の呪力が、損なわれる替わりに、王子の命が助かったのなら。 己の呪力を取り戻せば、ヴァラアルは二度と、王子を護り参らせ給わぬであろうと。 ゆえに王は、己を護る編み髪は欠けたままに措く。 誰に何を説明するでもなく、100年を経ても、1000年を経ても変わらずに、飄々と息子をからかいつつも。 闇の森の王スランドゥイルの、その精悍にして秀麗な眉目、頬に揺れる細かな編み髪は、左にふた房、右にひと房。 そのゆえは、いと愛でられしかの若君だけが、知っている。 |