雷獣の主張 


    
  「どうして私なのですか?」
抜き取られたネクタイに、視線をやりもせずに死神は問うた。
「キミの周りには、可愛らしい女性がたくさんいるでしょう。もっと気楽でキミらしいおつきあいができるでしょう。
 なのにどうして私なのですか」
メスを握る死神の手を、メスごと握り閉めて雷獣は答えた。
「理由なんてないです。
 赤屍さんしかいないって、思ったんです」
子供っぽい表情。なのに触れる手は死神の黒髪を、王者の傲慢さで乱し引き寄せる。
「ねぇ」
雷獣は低い声で囁いた。
「そんなことに理由なんて、本当にいると思ってる?
 一目見て、捕まえたいと思っちゃったら――他なんてもう見れないんだよ、それは――」


黒衣の裾を、蝶留めつけるかのようにしっかりと踏みつけ。
雷獣は死神の腰を抱き寄せ、逃げを打つ腕を決然と押さえつけた。


「――あんたの言う、殺意ってのだって同じじゃないですか」


そう言って、
雷獣はひどくかなしげに、そして乱暴に死神の笑いを唇でふさいだ。