マグネトーのオーバーホール


平成25年1月 <マグネトーのオーバーホール>
 このところ発動機を動かす機会がありませんでした。
 既に製造から60年経ていますので、重要な部品(マグネトー)のメンテナンスを行うことにしました。
 1次、2次コイルの巻き直しが中心ですが、手作業で細い線を数万回巻いたり高周波ワニスを含浸するのは大変ですので、
 KOBAS(小林発動機模型)さんに依頼してマグネトー全体のメンテナンスをして頂きました。
 マグネトーを取り外す前に2次コイルの直流抵抗を測定してみました。
 測定だけならコイルを取り出す必要はありませんが、向学?のため分解してみました。


マグネトー 型名はMH-IAR 上部カバーを外す

コイルの上部 コイルの下にはローターが見える 1次線の半田を外してコイル取出し

60年経過したコイル外観 2次コイルの直流抵抗は約6.5kΩ ポイントとコンデンサ
 このコイルは鉄心に近い下側に1次コイルが巻かれ、その上に2次コイルが巻かれています。
 1次コイルの線径は0.8ミリ位で2次コイルは0.05ミリ位だと思います、1次と2次コイルの接続点からポイントへ行く線が
 出ています。
 1次コイルのもう一方はGNDにつながっています。
 ポイントのコンデンサーは、数年前にバイク用のポイントコンデンサーに交換しました。
 いよいよマグネトーを発動機から取り外します。
 先ずは片側の動輪を外す必要があり、動輪の軸固定ネジを外してギヤプーラーで動輪を軸から引抜きます。


ギヤプーラーを掛けて引抜く 動輪が外れたところ 更にギヤケースを外す
 一番右の大きな歯車がマグネトーの歯車で32枚歯、左端は給排気弁を制御するプッシュロッドのカムシャフトを回す歯車。
 マグネトーの下側に2本の固定ネジがあり、これを外せばギヤごとマグネトーは簡単に外れます。
 しかし、点火位置が変らないように外す前にギヤの噛合う位置にマジック等で印を付けておきます。
 これを忘れると後でえらいめにあいます。

マグネトーギヤと相手に印を付ける マグネトーが外れたところ 取り外したマグネトー、重さ約2.7kg

 ついでに普段はめったに開けないクランク室をのぞいて見ました。
 かつらエンジンは、オイルが貯留式でクランク室は密閉構造のため他の古い発動機のように動作中に見ることができません。
 ちょっと残念ですが、その代わり点滴のようにオイラーからオイルを落とし続ける面倒はありません。

クランク室の蓋を開けたところ、下にはオイル溜りがある 奥にピストン、上にカムシャフトが見える
 カムシャフトの右側には、ガバナーを制御するためにこのシャフトの回転数を検出する機構が入っています。
 次にエンジンの始動を助けるマグネトーのインパルス機構を見てみます。

インパルスを起動する側の金具とストッパー インパルスを解除する側の金具とギヤのボス ローター側に金具を取付けているリベット 矢印
 文章で説明するのは難しいのですが、この金具はローター側の金具に付いていて非対称な形状をしています。
 金具は固定されていなくて、ブラブラです。手で動輪を回して始動するときには、この金具は歯車と一緒に回転しながら
 写真のストッパーに当たったところでローターの回転は止まり、歯車の内側に入っているバネを巻き上げます。
 巻き上がったところで、ギヤのボスが解除側のレバーを押してローターは一気に回転させられます。
 その時に1次コイルに発電して、ポイントが離れる時に2次コイルに高圧(数万ボルト)が発生する仕組みです。
 このおかげで、発動機を始動する時に動輪をグルグル回さなくてもすむようになっています。
 一方、金具は始動後には遠心力でストッパーに当たらない位置に下がって、普通の回転マグとなります。
 次にマグネトーギヤの内側は自分では分解していませんが、このようになっているとのことです。

マグネトーギヤを取去った状態 マグネトーギヤの裏側

インパルス用バネ ローターと一緒に回る特殊形状な金具
 このバネは非常に強力で素手ではとてもギヤ内に押し込めないそうです。
 右のマグネトー写真で、特殊形状の金具の下にチラッと見えているインパルス起動用の金具は解除側で、ギヤの内側の
 ボスで押すとストッパーが解除されて、ローターは勢いよく金具の切れ込みの範囲を1/4回転し発電します。
 始動後のローターは歯車と一緒に360度回転して、普通の回転マグネトーとなります。
 このように重いクランクを手で回して始動し易くする機構は誰が考案したのでしょうか? つくづく感心させられます。


 現在の草刈機やチエンソー等の小型エンジンは、紐を引いて始動するリコイルスタート方式が採用されています。
 マグネトーは単純な回転マグネトーで非常に小型です、今ではインパルス機構を持ったマグネトーは製造されていないでしょうね。
 参考に草刈機(刈払い機)のマグネトー(一般的にはイグナイターと呼ぶようです)の外観です。
草刈機のカバーを外したところ フライホイールの2ヶ所に磁石が埋め込まれている マグネトーからの2本の線はキルスイッチ
 イグナイターとは、ポイント(機械的接点)を電子的なスイッチ(Tr,FET等)で構成した物とのことなのですが、周辺には
 それらしきものが見当たりませんので、1次、2次コイルを含めこの小さな部品の中に全て入っているようです。


 KOBASさんにオーバーホールを依頼してから約一週間でマグネトーが戻ってきました。

コイルが新しくなっています 2次側コイルの直流抵抗を測定 1次側コイルのGND側 矢印
 さすがに”いい仕事されています ”!! 非常にきれいな仕上がりです。
 2次側の直流抵抗は約6.5kΩ → 8.2kΩに25%位上がっています、かなり巻上げられていて期待できます。
 
ポイントのコンデンサーが小型品になっています
   スパークキラーは小型のフィルムコンデンサー(0.22μF)に交換されており、ポイント内部がすっきりしました。
 その他、必要な箇所にはグリスが塗られている等短期間で非常に丁寧な作業をして頂きました。
 早速マグネトー単品で火花を飛ばしてみたところ、以前よりもずっと強力な火花が飛びました。
 これから発動機に組み込んで試運転を行う予定です。
 以上、マグネトーのオーバーホールの報告でした。



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