この文のタイトルは「副産物」ですが、実はこの2台のピアノのためのヴァージョンはオーケストラ版に先立って作られたものなのです。ただ、1918年のオケ版初演の大成功によって、ピアノ版の方は出版もされずに忘れ去られてしまいました。この版がホルストの娘でやはり音楽家となったイモージェン・ホルストによって校訂され、ノヴェロ社から出版されたのは1979年のことなのです。
現在最低4枚はリリースされているこのピアノ版「惑星」のCDのうち入手できたものをご紹介しましょう。
CD1 | ![]() |
David Nettle Richard Markham SAGA CLASSICS EC 3340-2 1984年11月録音 |
CD2 | ![]() |
Len Vorster Robert Chamberlain NAXOS 8.554369 1997年7月録音 |
CD3 | ![]() |
Richard Rodney Bennett Susan Bradshaw DELOS/FACET 8002 1978年録音 |
CD4 | ![]() |
Anthony Goldstone Caroline Clemmow ALBANY TROY 198 1996年録音 |
CD4' | ![]() |
Anthony Goldstone Caroline Clemmow OLYMPIA OCD 683 1996年録音 |
CD5 | ![]() |
Fiona York John York BLACK BOX BBM1041 2000年3月録音 |
CD1は、この版の初めての録音。とても精密な素晴らしい演奏で、これを聴くと、ホルストが「惑星」にこめた複雑な仕掛けが、手に取るようにはっきり伝わってきます。同時に、この曲をオーケストラで演奏することへの無力感も、ひしひしと味わわされてしまいます。大人数で演奏する限り、どんなに性能の良いプロのオーケストラでも、ここで2台のピアノによって再現されているのと同じだけの正確なリズムと明瞭なフレーズを音にするのは物理的に不可能だと思えてしまうのです。いわんや、練習に全員が顔を揃えることが決してないアマチュアのオーケストラに於いておや。
というわけで、まちがってもこのCDを聴いて演奏の参考にしようなどとはせず、ひたすら楽しく鑑賞することをおすすめします。アナログ最末期の、完成された素晴らしい音が聴けますよ。高音から低音までムラのない輝かしい音色、間接音をたっぷり取り込んだ豊かな音場感、リアリティのあるダイナミック・レンジ。これほど卓越した録音でなければ、ひとりのオケマンがこれだけ落ち込むことはなかったのかもしれません。
さて、もう1枚のCD2は最新のディジタル録音。国内版は9月1日に発売になるので、すぐ手に入ります。ただ、もしこのCDを最初に聴いていたら、先程のようなショックを受けることはなかっただろうということだけは申し上げておきましょう。その程度の凡庸な演奏です。まあ1,000円ちょっとで買えるんですから、話のタネにはなりますが。
(2000年3月15日追記)
このページを読んでくださった国分寺市の寺沢さんという方のご協力で、3枚目のCDを入手することが出来ました。ジャケットには"World Premiere"と書いてありますが、肝心の正確な録音データがないものですから、CD1より以前の録音かどうかは不明です。
(3月23日追記)
さらに、東京都の吉田さんという方のご協力で、もう1枚入手できました(CD4)。このCDの売りは「デジタルによる世界初録音」。いろいろ思いつくものです。CD1ほどの精度はありませんが、夫婦デュオの息のあった演奏が聞けます。
(3月28日追記)
同じく吉田さんからの情報で、CD4と全く同じ音源のものが別のレーベルから新譜として発売されたことが分かりました(CD4')。
(2001年5月25日追記)
CD5が新譜でリリースされましたが、これは2台ピアノではなく、4手版です。詳細はこちらをご覧下さい。
(2010年10月15日追記)
一宮市の長谷川さんという方からの情報で、CD3の正確な録音年代が分かりました。やはり世界初録音だったのですね。