「ドビュッシーのオーケストラ作品」では、ドビュッシーの作品はピアノ譜だけで十分に色彩感が表現されていると申し上げましたが、このことは、逆に考えれば編曲者にとってはおおいに誘惑をそそられるということになるのですそのために、元来はピアノ曲だった「月の光」とか「亜麻色の髪の乙女」などは、今では編曲物の方が良く聴かれるようになっていますよね。そのさきがけがとなったのが、ドビュッシーの死後、ラヴェル、カプレといった、彼と親交のあった人達によってなされた次の4曲のオーケストラ編曲です。
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これを皮切りに、オーケストラに限らずさまざまの楽器による編曲が試みられることになります。
そんな中で、ユニークさで一世を風靡したのが冨田勲が1974年にアメリカで発表したモーグ・シンセサイザーによるアルバム、"Snowflakes are dancing"(CD1)です。折しもプログレッシブ・ロックの全盛期とあって、このアルバムはクラシック・ファンだけではなく、今までドビュッシーなんか聴いたこともなかったようなロック・ミュージシャンにも幅広く聴かれ、彼らに大きな影響を与えることになります。
元「はっぴいえんど」の細野晴臣も、その一人です。彼はここに収録されている「アラベスク」にインスパイアされて「コズミック・サーフィン」という曲を書きました。この曲は後にYMOのファースト・アルバム(CD2)にも収められてテクノ・ポップの代表曲となります。ピアノの原曲からではまず思い浮かばない、シンセ編曲ならではの変身といえるでしょう。
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CD1 | CD2 |
面白いのは、原曲のヘミオレのリズム(譜例1)が、耳で聴いた通りの8ビート(譜例2)になってしまって、ドビュッシーが込めたリズムの綾が、いともノーテンキにぶち壊されてしまっているということ。
〔譜例1〕Première Arabesque
〔譜例2〕Cosmic Surfin'
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ジャンルが変われば大切にしたいものも変わって当たり前なので、「音楽にジャンルは無い」などという楽天的な主張は慎みたいものです。大変古い話になってしまいましたが、当の細野晴臣は今でも森高千里と仲良くやっていますし、「はっぴいえんど」の同僚松本隆はKinKi Kidsの「硝子の少年」、大滝詠一は「ラブ・ジェネレーション」のテーマ曲「幸せな結末」と、ともに大ヒットをとばして健在ぶりを示していますね。おじさんのパワーも、まだまだすてたものではないのです。