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まちがい音楽用語辞典 part2

(98/12/22掲載)


ミュージック・コンクリート(仏:musique concrete
 コンクリートのような強固でがっしりした音楽、ではありません。正しくは「ミュージック・コンクレート」といって、今からちょうど50年前にフランスのピエール・シェッフェルという人が始めた、「具体音楽」とよばれるものなのです。
 いったいどんなものかといいますと、テープレコーダーで色々な音を録音して、それをつなぎあわせたり回転数を変えたりして一つの音楽作品に仕上げるというものです。この手法は当時の「現代音楽」シーンでは大流行となり、日本の作曲家もこぞって作品を作ったものでした。
 今ではミュージック・コンクレートなどという言葉自体ほぼ完璧に忘れ去られていますが、じつはこのコンセプトはダンスミュージックではおなじみの「サンプリング」と言う最新テクノロジーの中に脈々と受け継がれています。機材がディジタルになり、サンプリングやリミックスなどと名前を変えてみても、既存の音源をつなげたり加工したりという手法は50年前のミュージック・コンクレートと何ら変わるところはないのです。
 我々クラシックファンに縁があるものでは、1990年に発表された"Enigma"というプロジェクトの"Sadeness"という曲が忘れられません。ここではなんとグレゴリア聖歌がサンプリングされており、折からのグレゴリア聖歌のブームとあいまって大ヒットとなったことは、まだ記憶に新しいところです。最近ではドイツのヒップホップユニット"Sweetbox"の今年の大ヒット"Everything's gonna be alright"の中で、あのバッハの「G線上のアリア」が使われていたのが大きな話題になりましたね。


プリペイド・ピアノ(英:prepared piano
 このピアノを持っていくとお金を払わなくても食事が出来たりバスに乗れたり…するわけないですね。「プリペアド・ピアノ」のことをこう言ってた人が確かにいたのですよ。
 プリペアド・ピアノというのは、今世紀最大の音楽家ジョン・ケージが1940年に発明した楽器です。「発明」といっても、じつは普通のグランドピアノの弦の中にネジや消しゴムをはさんで音を変えるという、超ローテクな楽器なのですけどね。もっとも、これには新しい音色を創り出すという意味の他に、近代ヨーロッパ音楽の発展の象徴であるグランドピアノという楽器に対するアンチテーゼも含まれていると考えるべきでしょう。完成された楽器であるグランドピアノからおもちゃのような音を引き出したところに、ケージならではのアイロニーというか、ユーモアを感じずにはいられません。その昔、天才ピアニスト高橋悠治が、写真みたいに実際に「プリペア」しながらケージの曲を演奏するという現場に居合わせたことがありますが、「こんだけ手間をかけても曲は数秒で終わってしまうんですよね」と自嘲気味に語っていたのが妙に印象的でした。

メジャー(英:major
 昔は「メジャー」といえば巻き尺(measure)のことで、majorは確か「メージャー」と発音されていたはずです。しかし、いつのころからか、たぶんマスコミで有名な人が最初に使ったまちがった言い方がだんだん広まってそちらの方が定着してしまうというありがちなパターンで、今ではすっかり「メジャー」が「メジャー」になってしまいました。
 この言葉の意味にはだいたい二通りあって、ひとつはたった今使ったような「大多数・主流」といったような意味。たとえば「メジャーデビュー」というのは、小さなレコード会社(クラシックの場合は反対語を使って「マイナー・レーベル」と言いますが、ロック系ではなぜか気取って「インディーズ」などと言ってます。)からしかCDを出せなかったアーティストが、出世して大きなレコード会社からデビューすることです。NAXOS の次にWEA 系列のERATO からCDを出した時、佐渡裕は「メジャーデビューを果たした」という言い方をされました。ちなみに、日本のオーケストラで最初にメジャーデビューを果たしたのは、渡邉暁雄指揮の日本フィル(1962年に録音されたシベリウス全集を米コロムビアよりリリース)だったのではないでしょうか。
 もう一つは、「長調」とか「長音程」などの意味です。実は私は言葉に関してはかなり寛容な方でして、最初の意味での「メジャー」については、殆ど許しても良いだろうとさえ思っています。しかし、この意味で使う時にはいまだに「メージャー」にこだわってしまうのです。長音階を「メジャースケール」と言われても目盛りのついた長さを測る道具しか思い浮かびませんし、「金星」の最初にフルート4本で吹かれるコードは「メージャー・セブンス」以外にはありえないと思っているのですが、いけませんか?

 最初の和音の構成音は下からAs,C,Es,G。ご存知でしょうが、「メージャー・セブンス」というのはここのAs-Gのように「長七度」が含まれる和音のことです。


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