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婆さんと、福井県。.... 渋谷塔一


2月26日

DEVIENNE
Flute Quartets
Barthold Kuijken(Fl)
寺神戸亮(Vn)
Sara Kuijken(Va)
Wieland Kuijken(Vc)
ACCENT/ACC 24162
前回のゾーンを酷評したのは、実はこのアルバムを同じ時期に聴いていたからです。「フラウト・トラヴェルソ」という、フルートのオリジナル楽器のまさに第一人者であるバルトルト・クイケンを聴いてしまえば、モダンフルート奏者が片手間に演奏したトラヴェルソの醜さなど、瞬時に分かってしまいます。ちなみに、全くの偶然なのですが、ゾーンとクイケンが使っている楽器は、ともに、アウグスト・グレンザーという、例のフリードリッヒ大王の楽器も作っている18世紀の職人のオリジナルをもとに、ルドルフ・トゥッツという現代の職人が作ったコピーだったのです。ゾーンの方は低音がCまで出せる6キータイプ(クイケンは1キー)という違いはありますが、同じ人が作った楽器でも、出てくる音楽は吹く人によって全く違ってしまうという、ある意味当然のことが再確認されたのでした。
クイケンといえば、「クイケン3兄弟」として、兄のジギスヴァルト(ヴァイオリン)とヴィーラント(チェロ、ガンバ)とともにセットとして語られることが多かったものです。ところが、このアルバムではヴィオラに「サラ・クイケン」、いくら料理がおいしくてもそこまでは(「皿、食いけん?」)という、聞き慣れない名前が見られます。実は、この方はジギスヴァルトの娘、オリジナル楽器の「第2世代」としてシーンを引っ張ってきた3兄弟も、ついに「跡取り」が登場するほどの年代になってしまったのですね。
フランスの作曲家フランソワ・ドゥヴィエンヌは、10歳で「ミサ曲」を作曲したという、まさに彼より3歳年上のあのモーツァルトのような「神童」ですが、ファゴットとフルートの演奏家として名をなしたこともあり、木管楽器、特にフルートのための曲は、18曲の協奏曲を始めとして、さまざまなジャンルで夥しいものを残しています。それらは、演奏家/作曲家にありがちな単なる技術の誇示には終わらない、小粋な趣味に彩られた愛すべき作品ばかりです。ここでクイケンたちが繰り広げる演奏からは、その魅力を存分に味わうことが出来ます。なにより素晴らしいのは、クイケンたちとは仲間と言っても良い寺神戸亮と、バルトルトとの絶妙のアンサンブル。トゥッティではまるで同じ楽器のようにぴったり寄り添うエモーション、そして、掛け合いで見せる小憎らしいほどの対話の妙。ある瞬間には細かい音符でハモっていたかと思うと、次の瞬間には全く別のパートでそれぞれの顔を見せているという、スリリングなまでの切り替えの早さも、たまりません。
4曲収録されている四重奏のうち、Op.16-3Op.66-1は、これが世界初録音となります。いずれも短調の曲ですが、特にOp.16-3では、ドゥヴィエンヌに良く見られる短調と長調の移り変わりに込められた深い情感に、引き込まれずにはいられません。そんな魅力を味わえるのも、バルトルトの卓越したテクニックと抜群のセンスがあってのこと、常にオリジナルのフィールドで先頭を走ってきた演奏家だからこそなし得たものなのです。

おとといのおやぢに会える、か。


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