平家のエチュード....渋谷塔一

(00/6/22-00/7/9)


7月6日

YELLOW SUBMARINE
SONGTRACK
The Beatles
APPLE/521481 2
2日連続の集中豪雨で私の家も被害にあってしまい、家の中はめちゃめちゃ。資料のCDもどこかへ行ってしまったので、ロック好きの弟が置いていったこんなアイテムでご勘弁を。
「イエロー・サブマリン」というのは、ご存知ビートルズのヒット曲ですね。リンゴ・スターのとぼけたヴォーカルが、なかなかいい味を出しています。(シーナ・イーストンとの隠し子が椎名林檎というのは有名な話。)もともとは1966年にリリースされた「リヴォルヴァー」というアルバムの中の曲なのですが、この曲からアイディアを得て、「黄色い潜水艦」が悪者を退治するという分かりやすいストーリーのアニメ映画が製作されました。もっとも、この映画自体には、ビートルズのメンバーは何の関与もしていなくて、ただ単に曲を提供しただけなのですけどね。
で、この映画にはビートルズの曲が15曲ほど挿入されていたのですが、サントラ盤が1969年に発表されたときには、そのうちの6曲しか収録されていませんでした。もともと、この映画のために新たに書き下ろされた曲というのは、実際は4曲しかなく、あとはすべてそれまでに出ていた他のアルバムからの曲だったのですから、ある意味、良心的といえなくも無い措置ではありますがね。もちろん、6曲ではLP片面分しかありませんから、B面にはプロデューサーのジョージ・マーティンが書いた「劇伴」が入っていました。
オリジナルから30年経って今回リリースされたのは、15曲を全部収録したもの。さらに、「最新のデジタルテクノロジーでリミックスが施されている」というのがウリだとも。
まあ、「最新のテクノロジー」がどの程度のものかはある程度分かっていたつもりでしたが、実際に聴いてみたら予想だにしなかった仕上がりで、完璧に度肝を抜かれてしまいましたよ。思わずオリジナルアルバムを取り出して聴き比べる日々。
何よりすごいのが、きちんとした音像の定位。オリジナルではステレオとはいっても右チャンネルはヴォーカルとギターだけ、左チャンネルはドラムスだけというはっきりした割り振りだったものが、きちんとヴォーカルが真中に定位しています。"Nowhere Man"のコーラスでは、なんと3人の声がばらばらに広がって聴こえてくるのですから、すごいものです。楽器の音も、見違えるほど音圧が上がっていて、ごく最近録音されたものと比較しても何の遜色も感じられません。"With A Little Help From My Friends"でのポールのベースの音色の素晴らしさときたら!

6月28日

BACH-ORFF
St.Luke Passion
Douglas Bostock/Munich SO
CLASSICO/CLASSCD 278
(輸入盤)
キングレコード
/KKCC-4304(国内盤 7月26日発売予定)
たまにはメジャーな物を書かなくちゃ(「いかなく茶」では烏賊が泣いてましたが、「かかなく茶」では嬶が泣いてるとか。)と、新譜をあさっていたら、バッハが出てました。これはいいと思ってよく見たら、現在では間違いなく偽作とされている「ルカ受難曲」。しかもオルフ版。どうあがいてもマイナーからは抜け出せません。
原曲はcpoどで聴くことはできますが、今回のCDは、あのカール・オルフが1932年にこの曲を再構築して、新たにオーケストレーションを施したもの。正確に言うと、オルフのスコアは戦争で焼けてしまったので、オルフのアイディアをもとに、ボヘミア生まれの若手作曲家ヤン・イラーシェクが1995年に復元したものの初録音とか。
原曲は開始の合唱からして、なんか緊張感のないだらだらしたもので、あのバッハ特有の厳しい表情はどこにもありません。偽者だと一目で見破ったオルフは、編曲には格好の素材だと考えたのではないでしょうか。これが「マタイ」とかだったら、いかにオルフが世間知らずでも、ここまではやらなかったのでしょうけどね。
まず、構成としては、原曲を3分の2程度に刈り込んでいます。独唱者によるアリアはすべてカット。コラールとレシタティーヴォも少しカットして、ねらいはひたすら「劇的な進行」。叙情的なものは極力廃するというコンセプトなのでしょうか。そして、トロンボーンまで入ったフル編成の上に、おびただしい数の打楽器が入るというオーケストレーション。至る所でティンパニやチューブラー・ベルが鳴り響くさまは、まさにオルフ独自の世界です。
もちろんそういう響きにはそれに見合った表情が付くもの。大体レシタティーボ・セッコというのはいわばセリフですから、あまり感情の起伏は大きくはないもの。それを逆手にとって、オーケストレーションの手練手管を目いっぱい駆使して非現実的な音楽を作り上げました。ここからは、この曲を最初に作った人物への畏敬の念など、これっぽっちも感じることはできません。しかし、「カルミナ・ブラーナ」の作曲者の感性からは、ヨーロッパ音楽が持つ表現の多様性の、とてつもない裾野の広さを読み取れるはずです。ちなみに、裾野が広すぎるうらやましい人なら、軽めなブラなどで十分。オイル入りは必要ありません。

おとといのおやぢに会える、か。


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