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〔071〕 敗戦国は「聯合国」常任理事国入りの資格なしという強硬論も浮上
【2005/04/13】

 中国各地に拡大しつつある反日行動は、デモ以外にもさまざまな活動で広がりつつある。

 個々人の間では、活動持続を呼びかける電子メールが飛び交っている。その一つには、「junk」「色鬼」など、英語と中国語で日本を口汚くののしる言葉が多数綴られ、「とても愉快だ」という嘲笑とともに、より多くの人に電子メールを転送するよう呼びかける。

(メールに添付されたコラージュ写真。日本を揶揄する言葉が羅列される)

 こうした動きに関して、「数年前から予兆はあった」と述べる中国のマスコミ関係者は少なくない。その一人、北京の記者は、こう解説する。

 「デモ隊が叫んだ靖国神社参拝、歴史教科書、魚釣島、そして国連安全保障理事会の常任理事国入り問題は、すべてが政府や党の方針に反するどころか、愛国という大義名分をよりどころとして、上から潰されることのない中日間の懸案事項ばかり」

 だからこそ、抗議デモを公然と行え、警備当局は投石などの暴力行為さえやめさせることがなかったとみる。

 「ただし、どれをとっても外交問題。一般の中国人の日常生活に直接影響を与える内政問題ではない。それだけに、確固たる信念を持った組織が扇動したとしか考えられない」

 この記者がとりわけ注目するのは、日本がめざす国連安保理の常任理事国入りが浮上してからの急速な動きだと言う。代表的な掲示板の一つ「人民網」の「強国社区」には、こんな書き込みがあふれていた。

※「反対倭国“入常”」(日本の常任理事国入り反対)
※「日本才是“無頼国家”」(日本はならずもの国家だ)
※「如果日本“常任”了、中国就応該退出聯合国」(日本が常任理事国になれば、中国は国連から脱退すべきだ)
※「日本是中国人民永遠敵人、是世界和平最大的威脅」(日本は中国人民の永遠の敵であり、世界平和の最大脅威)

 常任理事国入り容認の書き込みに対しては、「典型的な漢奸のたわごと」と怒声が浴びせられるが、感情的な声は常に発せられてきた常套句で、この種の書き込みに閉口する中国人は多い。

 「一方的に罵倒するだけの罵詈雑言に、日本人は敏感に反応する必要はない。多くの中国人はこんな書き込みに共感しないし支持もしていない」と、先の中国人記者は言う。

 しかし今回、常任理事国入り反対の署名活動からデモへと急激に動き出した事態には着目すべきだとして、「問題の根がもっと奥深い所にある」と指摘する。

 小泉首相が毎年行ってきた靖国神社参拝に象徴されるように、日本は中国人の思いをことごとく踏みにじり、問題解決に取り組むどころか、故意に中国人を挑発している、あるいは見くびっているのではという不信感が年々、強まっていた。

 「日本が中日間の問題に前向きに取り組もうとしない中、常任理事国入りの動きを明確化したことで、国連に対し日本は中国とはまったく異なる認識を持っていると、愛国を標榜する組織などが気づき始めたことも怒りの原因の一つといえる」

 反対運動に動く組織の意識を集約すれば、日本には常任理事国入りの資格がないことは明白な事実だという点につきると、記者は断言する。

 「United Nations は日本人にとっては国連であるかもしれないが、中国人にとっては『聯合国』なのだから」

 国連本部の中国語表記ホームページ を見れば一目瞭然だが、国連の公用語の一つとなる中国語では国連は「聯合国」と表記される。

 「日本は第2次世界大戦を起こした主要国家の一つであり」、一方「大戦終了以前から、日本やドイツなどファシズム国家に反対する『聯合国』は、世界平和のための新機構設立へと動き出した」「この時点で、日本は降伏さえしていなかった」と、掲示板で明記されている。

 これは、日本、ドイツ、イタリアの枢軸国に対し、アメリカ、イギリスなどを中心とする反枢軸国陣営が United Nations として結束。1943年には中国やソ連を交えた代表が、戦争終了後に平和維持のための国際機関設立に向けて動き出したとする、国連成立についての見解だ。

 それだけに、日本人が教え込まれてきた、世界平和の発展のために独立国が集まり誕生したという国連に対する認識は、中国人には通用しない。

 過去の歴史を反省しない日本が国際社会において指導的役割を果たすことに反対という声は、中国に限らずアジア諸国からたびたび発せられてきた。その上、今年は戦後60年の節目にあたり、中国人民抗日戦争勝利60周年など、中国国内では先の戦争を振り返る言葉が目につくだけに、国連を第2次世界大戦と関連してとらえる傾向が強い。

 「中には、日本の無条件降伏にこだわり、敗戦国である日本には戦勝国の集まりである『聯合国』の常任理事国となる資格をそもそも有していないとする原則論を展開し、民族主義を鼓舞する組織もある」

 中国では反侵略闘争において民族主義が自国民を奮い立たせ団結力を発揮したことから、民族主義の高揚に対し肯定的な意見が少なくない。掲示板にも、「中華民族は偉大だ」という書き込みがしばしば見られる。

 このため、民族主義をよりどころに活動する組織は自らのホームページで情報発信し、若い世代に向けて影響力を強めようとしている。

 反日デモ参加への呼びかけには「反対日本成為安理会常任理事国、譴責日本拒不反省侵略歴史、号召抵制日貨」など、デモの目的を具体的に明記し、抗議の意思表示として赤い上着の着用を求めるなど、計画はかなり用意周到に行われている。

 さらに日本製品の不買運動を呼びかけるため、中国に進出した自動車、電器、カメラ、薬品、化粧品、食品、小売りなど、広範囲にわたる日本企業のリストが出回っている。また、日本企業のフリーダイヤル一覧も公表し、「狂打小日本企業」という過激な表現で、抗議の電話をかけ続き業務に支障をきたそうと煽る。

 サイトでは、香港や韓国、海外の中国系の人々の抗議行動を頻繁に伝え、韓国やロシアと日本との間での領土問題に関する情報も流すなど、インターネットを効率的な道具として活用する。

 それだけに、日本語を流暢に話す別の記者は、今後も抗議活動は続くと見る。

 「靖国神社参拝、歴史教科書、領土、そして常任理事国入りなどの問題が浮上しても、解決への糸口はまったく見いだせないでいる。問題をやっかいなものにした当の本人である小泉首相が『冷静に』と述べるだけでは、日本側には解決の意志があると、中国側が受け取るわけはない」

 抗議活動が活発化する背景には、経済成長による自信獲得で市民意識が急速に芽生え、政府や党に従うだけではなく、自分たちで声を上げ持続的な行動に移そうとしたと見ることもできる。インターネットや電子メールなどを、その手段として獲得したことも大きな力になっている。

 今後、夏に向けて抗日戦争をテーマにしたテレビ番組の放映や映画の多数公開がひかえている。北京の映像関係者は「編集作業はほとんど終了した」したと言う。各地の抗日戦争記念館などは特別イベントを開催し、抗日戦争勝利60周年を記念する大会も北京で大規模に予定されるなど、愛国心高揚へ向けての準備は整いつつある。

 「今回の騒動は始まりにすぎず、新たな摩擦が生じればいつでも抗議行動が再燃する可能性は否定できない」と、先の中国人記者はみる。


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