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〔067〕 中国で日本の出版物が増加するもう一つの理由  
【2004/11/15】

 中国人の間で、注目を集める日本の作家といえば、村上春樹、渡辺純一、鈴木光司さんたちの名前があげられる。とりわけ人気が高いのは村上と渡辺の両氏。

 年々上昇する日本人作家への注目度から、他の作家の作品も多数、出版されるようになった。日本で大ベストセラーを記録した「世界の中心で愛を叫ぶ」(片山恭一著)も、この春に翻訳出版された。しかし上記の3氏以外の作品となると、何とか黒字にできる程度にとどまると、中国人編集者はいう。

 翻訳出版を担当する編集者は、「村上さんと渡辺さんの作品であれば、どれも部数が計算できる。しかも100万部を越える勢いがあり、他の作家の作品では到達できない販売実績を残してきている」と説明する。

 島田雅彦さんなどの作品に関わってきた翻訳者は、村上作品に人気が集中する理由として、「彼が描く世界は物質的なものに憧れを持つ現代中国の若者の心に受け入れられやすく、求めたいものが次から次へと作品に表れ、それが魅力になっているのでは」と、推測する。

 雑誌でも日本の出版社と提携する動きが加速化している。8年前に北京で出版された女性向けファッション誌が最初とされ、10誌に達しようとするまで日中間での提携が広がっている。

 こうした状態から、中国では日本の出版物への注目度が高いと日本では伝えられるが、日本の出版物が多数、刊行される背景には別の要因があると指摘する編集者がいる。

 「中国で出版される日本の作品は政治性や思想性がなく、中国政府にとっては都合のよい無毒の内容ばかり。雑誌にしてもファッション誌を中心とする趣味の分野に限定される。この種の出版物が増えても直接的な影響力はほとんどないと、政府はふんでいる。出版社も検閲で出版差し止め処置を受けることがないと判断しやすい。これが、日本の出版物が中国で多数、出版されていると実質的な理由だ」

 憲法で出版の自由が保障されているが、検閲は依然として厳しい。このため、出版物の検閲は出版社の自己規制から始まるという編集者が多い。

 通常、編集長が出版物の内容を、これまでの経験や事例に基づいて検閲し、問題となる思われる箇所の削除あるいは書き直しなどを編集者に命じて直させる。

 編集長が判断に迷った場合には、出版社の監督官庁にあたる地方政府の新聞出版局に検閲を依頼する。ここで問題なしと判断されれば出版許可が出され、書店に出回ることことになる。

 しかし、これですべてが終わるわけではない。市場に出回ってからでさえ、国務院直属の国家新聞出版署や党中央の中央宣伝部から出版禁止命令が通告されることも珍しくない。出版禁止となれば、編集長や新聞出版局の担当者は始末書を提出し、自己批判を迫られる。

 この結果、上部機関からの指摘を受け自分の経歴に汚点が生じることを恐れ、可能な限り問題を起こさないよう消極的な姿勢で編集にのぞむ編集者が多く、同じ顔ぶれの作家の作品、あるいは趣味の雑誌が多数出版されることになる。

 「日本人で出版された中国ルポなど、中国人にとっても有益な書籍は少なくない。小説でも中上健次など優れた作家の作品を出版したいと考える翻訳者は少なくない。ところが、党や政府にとって良い子であろうとする編集者が多く、新しい企画にはほとんど関心を示さない」

 日本での留学経験により日本語を理解し、日本社会を体験してきた帰国者が増え、翻訳出版の機会が拡大する下地は着実に増えつつある。しかし検閲がネックとなり、有益な書籍や雑誌が中国で発表できないのが大きな問題だと、先の翻訳者は指摘する。


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