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〔065〕 「中国農民調査」国外で評価を得るも、国内では報道されず  
【2004/10/03】

 「中国は農業大国でありながら、農民がどのような状況にあるのか、多くの都市住民はまったくといっていいほど実情を知らない」

 このように記す中国の作家、陳桂棣さんと春桃さんの共著「中国農民調査」が、すぐれたルポルタージュ作品におくられるドイツのLettre Ulysses Award(中国語表記では「尤利西斯国際報告文学賞」)をこのほど受賞した。

 「中国農民調査」は安徽省の農民に取材し、彼らの実情を書きつづった一冊。県や村の役人、党幹部などによる農民虐待、不正行為、虚偽報告の実態を暴露し、2004年1月、中国国内で発売されると大きな関心を集めた。

 ところが中国共産党宣伝部が国内各メディアに、この本に関する記事を掲載しないように通知したと報じられた後、書店の店頭からも本が消えた。

 今もこの通達が撤回されていないためか、今回の受賞について国内メディアは沈黙を続けている。受賞を伝えたのは、国外から発信され、反中国、あるいは反共産党サイトと批判されることもある中国語ホームページだった。

 国内の複数の人物にこの受賞を知っているかと尋ねたが、知っていると答えたのは国外から電子メールなどで教えられたという人がほとんど。受賞のニュースを伝えるホームページへのアクセスを、日を変えて何度か試みたがつながらなかった。

 この9月、「人民日報」は、最低限の衣食を保障できる生活レベルに達しない貧困人口が、昨年比で80万人増えたと、国家扶貧開発指導チームが明らかにしたと伝えた。貧困人口とは、1人当たりの年収が637元(約8900円)を下回る人々を指すという。

 しかし、こうした報道に異を唱える人は多い。農村の実情を取材し続ける映像スタッフは、年収もさることながら、劣悪な環境の中で地方権力者から虐げられている農民がどれほどいるか。政府はこの事実が知れ渡ることを極端に恐れ、暴露されることを警戒しすざまじい圧力をかけていると、政府や党の姿勢を批判する。

 「我々の作品が検閲を通過するとは、最初から期待していない。しかしどの社にも所属していないために、ゲリラ的に作品を上映し農民の実態を知らせることができる。一番狙い撃ちされているのは、影響力の強いテレビ局のスタッフだ」

 そのテレビ局の取材スタッフは、取材で核となる場面はことごとく編集段階で削除され、上から常々こう念押しされるという。

 「取材内容は決して口外してはならない。我々は国家機密に等しい情報を扱っているという自覚を忘れないように」

 それだけに、今回の受賞ニュースは今後も報道されることはないだろう予測する。

 「本はテレビほどには影響力がないとはいえ、農民の窮状を伝えられることは政府や党にとって非常に都合が悪い。受賞を快挙ととらえるどころか、海外にまで中国の暗部を知らしめたとして、無視するのは上部機関の常套手段だ」

 インターネットで「中国農民調査」のキーワードで検索すると、中国語だがほぼ全文が読めるサイトがある。日本語では一部だが翻訳されて閲覧が可能だ。


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