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〔059〕 先住民への差別撤廃を目指す台湾の新たなうごめき
【2004/04/15】

 総統選挙が終了しても、国民党と親民党の野党連合による票の再集計や選挙のやり直しを求める抗議行動が続く台湾だが、有権者の中にはこの騒動に対し虚脱感を訴える人が少なくない。

   IT企業で働く男性は「総統選挙で先鋭化した民進党対国民党・親民党連合、あるいは本省人と外省人の対立という台湾が抱える根深い問題が、選挙が終わっても持ち越されてしまった」として、政局の混乱に嫌気を感じるという。

 過去、2度の総統選挙でも、本省人と外省人の対立が際だっていた。両者は出身地や母語、習慣などの違いに加え、独立か中国との統一かといった政治姿勢の違いにより、激しくぶつかりあった。

 こうしたことから台湾の国論が二分されたように日本では伝えられるが、両者の対立を一刻も早く解消すべきだと主張する団体も存在する。「族群平等行動連盟」だ。

 100名を超す人々が連盟設立に名を連ねた。メンバーには、日本でも翻訳出版された小説『古都』の著者・朱天心を始めとする作家、詩人や学者が多数を占め、今年1月に結成された。

 発起人代表は、映画監督の侯孝賢。同監督は、台湾で語ることさえタブーとされてきた国民党による本省人大量虐殺となった二・二八事件を主題とする映画「悲情城市」の製作などでも知られる。

 「族群平等行動連盟」がとりわけ注目できるのは、本省人と外省人の対立解消とともに、アミ族やタイヤル族など台湾に古くから住む先住民への差別撤廃も訴えている点だ。先住民は太平洋の島々から渡ってきた人々で、台湾では「原住民」と呼ばれる。

(写真=「先住民に仕事の機会を与えて」と、住民に呼びかける行政院(内閣)「原住民族委員会」による看板。「先住民の努力が見えるはず、先住民の誠実さが感受できるはず」といった言葉が連ねられている)

 先住民は本省人が台湾に住み着くまでは多数派だったが、17世紀を境に少数派へと転落する。現在、台湾総人口の2%、約37万人とされる。就学、就職、結婚など、さまざまな差別を受け続け、政治家までもが差別や無理解を台湾社会に振りまいてきたと、「族群平等行動連盟」は指摘する。

 このため総統選挙期間中にはテレビCMも活用して、性別、宗教、父母の出生地、文化などの違いによる差別を撤廃し、基本的人権の保障を要求。また総統選挙後に、「族群和解委員会」を政府が設立し、民主的な社会を実現するよう訴えた。

 選挙中、民進党と国民党・親民党連合は互いの候補者の家族までを巻き込んだネガティブ・キャンペーンを展開したが、それとは対照的な「族群平等行動連盟」の落ち着いたテレビCMは印象的だった。

 台湾政府の「原住民族委員会」は、駅や繁華街で写真のような看板を掲げ先住民への理解や就職先を求めるなどして対策に乗り出しているが、大きな効果を上げていないのが実情だ。

 1992年、政府は戸籍法を改正し、本籍地を書く欄を削除した。省籍意識、つまり本省人か外省人かという対立の根をなくそうとの狙いからだった。さらに、李登輝が総統在任時に、出生地の違いを乗り越え「新台湾人」として生きようと呼びかけたのは1998年。だが、いっこうに両者の対立が解消される気配はない。

 それどころか「族群平等行動連盟」が訴える先住民への差別撤廃意識は、本省人と外省人がぶつかり合った激しい選挙戦で吹っ飛んだと、台湾の学者は指摘する。「族群平等行動連盟」に参加を表明した人物に対し、民進党や国民党所属の政治家の中には、省籍を指摘してあからさまに批判さえする人物もいた。

 「族群平等行動連盟」の動きが、時代に即した台湾の新たな潮流になることを期待する声はまだ少数だが、支持を表明する人たちはねばり強く訴えていくと強い決意を表明している。


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