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〔058〕 台湾総統選挙で有権者の台湾人意識を束ねた一曲
【2004/04/04】

 台湾総統選挙は投票直前まで、世論調査などから国民党の連戦候補が有利と予想されたことから、投票日前日の3月19日、台南市での民進党の陳水扁総統と呂秀蓮副総統への銃撃事件が、選挙の流れを変えたといわれる。

 しかし陳総統再選の背景に、陳政権下の4年間で有権者に台湾人意識が着実に広がっていた事実を無視するわけにはいなかい。

 過去の選挙戦が示すように、本省人=民進党支持、外省人=国民党支持という単純な線引きは成り立たない。仮に本省人=民進党支持、外省人=国民党支持というはっきりした投票行動が示されていれば、台湾国内で70%といわれる本省人の圧倒的な票数により、総統選挙にしろ、立法員選挙、各自治体選挙で民進党が圧勝することになる。

 ところが実際には、民進党の得票率は過去、もっとも多くても50%前後。つまり、本省人であっても国民党支持の有権者は多い。この現状に対し、今回の総統選挙で民進党陣営は本省人であっても浮動票的投票行動をとる有権者に民進党支持を強くアピールした。

 民進党対国民党・親民党連合という一対一の熾烈な戦いの中、インターネットなどで「台湾人は中国人だ」「私は中国人だ」と言う、野党連合の総統候補、連戦・国民党主席の発言がさかんに流された。その結果、自分たちは台湾人だという意識を持つ本省人は連戦発言に反発した。

 さらに民進党陣営は歌を活用してキャンペーンを展開した。「伊是的宝貝」(あなたたちは私たちの宝物)と題された歌は、民進党集会でことあるごとに歌われた。2・28事件57年周年目の2月28日に、200万人もの人々が台湾を南北に人間の鎖でつないだ集会でも、この歌が歌われ続けた。


(←写真=旗を振りながら歌を合唱する民進党集会。どの集会でも子ども連れの姿が目立った)

 作詞・作曲は陳明章。侯孝賢監督の映画「戯夢人生」「恋恋風塵」の音楽を手がけるなどして、「知名的本土音楽人」と形容される、台湾を代表するシンガー・ソング・ライターだ。

 台湾で生まれ……、父や母に育てられ……、互いに手と手をつなぎ……、心と心を通わせよう……という歌詞が、「伊是的宝貝」で綴られる。

 「牧歌的なメロディーもさることながら、台湾人意識を刺激するのは、韻を踏んだ言葉の美しさや穏やかな歌詞だ」と、歌に共感する本省人が多かった。反対に、外省人の中には「この歌を聴くと強い疎外感にさいなまれる」と、反発する人がいた。

 本省人と外省人が異なった反応を示すのは、歌が台湾語で歌われているためだ。本省人の母語となる台湾語を理解できる外省人は極端に少ない。

 外省人中心の国民党集会で、支持者が互いの意識を高揚させ連帯感を強めるための歌を歌わないわけではない。盛り上がったときには、「中華民国頌」が合唱される。

 5000年の歴史を有し……、どのような試練にも耐え……、中華民国は永遠に不滅……という歌詞は、我々は台湾人ではなく中華民国の中国人であるという意識を再確認させる。

 国民党一党独裁時代から公式行事の席でよく歌われ、国歌並みの歌だとして「中華民国頌」を嫌う若い人は少なくない。支持者が自然発生的に歌を歌う回数は、圧倒的に民進党のほうが多かった。

 歌が台湾社会を変えたとまでは言えない。だが1996年の第1回総統選挙以来、民進党陣営は着実に得票数を伸ばし、得票率では前回より1・3倍増にこぎつけた。

 「従来の派手な選挙戦をひかえ、心に訴えかける民進党の方法が思いのほか効果を上げた」と、現地記者の一人は分析する。

 中国への対抗意識を訴えかける戦術で選挙運動を展開した民進党陣営は、本省人有権者の中で確実に広がってきた台湾人意識を刺激し、確固たる支持基盤を築きつつあるといえそうだ。

 なお、「伊是的宝貝」は、台湾のこちらのホームページで聞くことが可能(ただし、中国語のフォントBig-5が必要)。


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