総統選挙投票日前日の19日、夕方。アメリカ、ヨーロッパ、アジア各国などに定住する台湾人や、「台商」と呼ばれる駐在員が多数、投票のために帰国し、民進党の陳水扁総統と呂秀蓮副総統支持者は台北市・中山サッカー場で開催された集会に出席。 しかし、同日午後、台南市で起きた陳総統と呂副総統に対する銃撃事件のため、午後6時から8時まで予定されていた大会はわずか30分ほどで中止された。 野党統一候補の連戦国民党主席と宋楚瑜親民党主席の支援集会は、蒋介石中華民国元総統を偲んで建てられた中正紀念堂で開催予定だったが、こちらも陳総統と呂秀蓮副総統への銃撃事件を理由に集会を中止した。 しかし会場では、陳総統と呂秀蓮副総統への銃撃事件は「劣勢を挽回するための自作自演ではないか」という噂がささやかれていた。 投票日前日まで、世論調査ではわずかに連戦国民党主席と宋楚瑜親民党主席の統一候補が上回っていた。 20日の投票日当日。午前8時からの投票開始とともに多くの有権者が投票所に並んだ。当日は総統選挙とともに、中国のミサイル配備に対する軍事力強化などを問う住民投票も行われた。 ところが、国民党が住民投票ボイコットを呼びかけたため、投票所内では連戦支持者の大半が住民投票用紙の受け取りを拒否し棄権。 住民投票法の規定では、有権者の半数以上が投票し有効票のうち半数以上の同意が必要とされるため、台湾初の住民投票は有権者数の半数に達せず成立しなかった。 午後4時に投票が締め切られ、直後から開票が始まった。民進党支持者は台北市中心部の党選挙対策本部前に集まり、党のシンボルカラーである緑の旗を振りながら、街頭に設けられた大型スクリーンに映し出される開票結果に見入った。 開票当初から終始、陳水扁候補が連戦候補を上回り、100万票に達した直後からは常に5万票差を保ち続け、開票結果が進むたびに勝利を確信する歓声が何度もわき上がった。 午後9時過ぎ、数千人規模にふくれあがった民進党支持者の前で、陳水扁候補の当選確実が伝えられると、花火が打ち上げられ、爆竹が鳴り響いた。 この集会で支持者がさかんに話題にしていたのは「台湾独立」ではなく、国民党一党支配のもとで続いた政治家や官僚を中心とする政治腐敗や金権政治を意味する「黒金」政治が、民進党政権の継続により一掃されることへの期待感だった。 中央選挙管理員会の当選決定を受け、午後10時過ぎ、民進党支持者の前に表れた陳水扁総統の演説を現地テレビ局が報道。陳総統は、「皆が力を合わせ新しい台湾を作ろう」と呼びかけた。先に登場した呂副総統は車椅子に乗って壇上に上がり、松葉杖をついて立ち上がり挨拶をした。 対立候補の野党連合の連戦・国民党主席との差は約3万票の小差だった。テレビで当選確実が伝えられた後、当選を喜ぶ支持者が車を連ねて市中心部を走り回る光景も見られた。 一方、落選した連戦国民党主席は、副総統候補の宋楚瑜親民党主席とともに選挙対策本部で挨拶し、連国民党主席はすぐさま、「銃撃事件の真相が明らかにされず、選挙結果に影響が出た不公平な選挙であり、選挙は無効だ」と主張した。 前日には、銃撃事件で台南市から台北市へ戻った陳水扁総統と呂秀蓮副総統の見舞いに訪れた時と違って、連戦と宋楚瑜の両氏は終始、厳しい表情のままだった。 連戦と宋楚瑜の両氏による選挙結果の無効などを求める主張が報道された直後から、国民党支持者を中心とする抗議行動が各地で起きつつあることを現地テレビ各局が報道。当初は、台湾中部の台中市や南部の高雄市で警察との小競り合いが伝えられた。 この報道を見た市民の中には、「抗議行動の先頭で暴れているのは檳榔(ビンロー)をかみながらの人物が多い。国民党に雇われた連中が騒動を煽るために暴れているのだろう」と言う人もいた。しかしその後、抗議行動に参加する人数が増加。この事態に対し、民進党陣営の動きはほとんど報道されなかった。 ◆ 君在前哨/中国現場情報 ◆ | ▲ このページの最初へ