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〔048〕 はびこる労働者の無力感 低下する私営企業経営者のモラル 
【2003/10/25】

 経済発展が伝えられる一方で、中国で急激に広がりをみせているのが労働争議だ。市場経済へ移行する中で、多くの国有企業が大量の労働者を解雇。その結果、失業手当などが約束されながら支払われなかったり、この種の基金を官僚が横領するという事件が多発していることに起因する。

 さらに、近い将来、新たな労働争議となり得る火種も頻発している。この10年ほどの間に起業された私営企業で起こりつつある問題だ。従業員の解雇、給料の遅配や未払い、下請けや社外スッタフに対する契約の一方的破棄や変更などが日常的に行われていると訴える労働者が多い。

 上海で不動産開発、飲食、出版、輸出入業務などを手広く行い、日本でも活動する現地企業の社員だった一人は、「私営企業とはいえ、経営者は腐敗した国有企業の経営モラルをそのまま持ち込んでいる」と憤慨する。この企業の社長は、国有企業の幹部社員だった。

 さらに、解雇、給料の遅配や未払いなど従業員の生活に直結する問題が私営企業で日常的に起こる問題点として元社員は、「株式会社とは名ばかりで、実態は個人商店にすぎない」と指摘する。

 先の企業経営者は実権を一手に握り、従業員約100人のうち、妻や親族、友人など20人ほどを自分の腹心として重要ポストに就任させ、特殊な利益集団を形成。企業がファミリー化し、社長以下、幹部社員はやりたい放題だ。

 「このため、社員などからの不満も一切かえりみられず、政府同様に企業も専制王朝のように腐敗している」

 しかし私営企業での問題が労働問題として表面化しないのは、問題提起や解決へ向けて社員が団結できない点にある。中国にも労働組合はある。例えば、労組の全国組織となる中華全国総工会。しかしこれは官製で、政府の指導下にある。自主労組の結成は中国では認められていない。

 しかも、過去、労働者の権利を主張して立ち上がった国有企業の労働者が武装警察に弾圧され、死傷者が多数出ている事実に恐怖心がはびこっている。起訴された者もいる。弁護士が労働者の弁護に立ち脅迫されてもいる。インターネットで事実を暴露し、逮捕・投獄された者もいる。結社や表現の自由などの基本的人権が奪われていることをよく知っているためだ。

 中国政府は、経済の高成長を維持する過程で格差や貧困を解消することを基本戦略に掲げているが、現実には厳しい労働条件や搾取がはびこり、多くの労働者には新興の富裕層との絶望的な開きに不満がつのっている。


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