〔046〕 低賃金でも希望者が絶えない撮影所は現代中国の縮図
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【2003/10/12】
毎日、夜も明けきらない時刻から、第3環状線に面した北京映画撮影所の正門入り口に人がたむろし始める。映画の仕事を求めてやって来た人たちで、撮影所職員から彼らは「群衆演員」とか「場工」と呼ばれている。
「群衆演員」はエキストラの仕事を得ようとする俳優志願者、「場工」は撮影機材などを運んだりする助手を意味する。年齢や経歴は実にさまざまなだが、共通するのはほとんどが北京以外の地方出身者で占められていることだ。
「群衆演員」希望者の多くは、将来のスターを目指す若い男女だ。通行人や群衆役がせいぜいだが、ごくたまに短い台詞のある脇役に指名されることもある。1日のギャラは50元(約750円)程度、運が良ければ100元(約1500円)くらいになるときもある。
エキストラ希望者を魅了するのは、大きな夢をつかむことができる可能性があると思われていることだ。
「わずかなチャンスをものにして階段を駆け上がり、スターになろうという夢にとりつかれた人たちが多い。3年以上、毎日のように撮影所前にやってくる者もいる」
だが、そんな夢を実現したという話は聞いたことがないと、撮影所職員はいう。
「中国のトップクラスの俳優は高い競争率をくぐり抜けて映画大学や演劇大学に入り、演技力をみっちり身に付けてきた人たちだ。まだ中国では、日本のようにシェイクスピアを読んだこともなければ、名前すら知らないという素人が外見優先で選ばれスターになれる状況にはない」
一方、「場工」として働こうとするのは男たちがほとんどで、都市部の需要を把握しないまま地方から上京し、北京市民から外地人あるいは民工と呼ばれる。北京には金を稼ぐチャンスがいっぱいあり、なんの苦労もなく大金が手に入ると考えやって来たものの、学歴も技術もないために仕事にあぶれている人たちが多い。
通常、彼らがありつける仕事といえば建設労働者、工場労働者、掃除夫といった、いわゆる3K業種。都市部の人間がもっとも嫌がる仕事だ。それだけに、1日、30元(約450円)ほどの賃金を得られる撮影機材運びの仕事は、彼らにとっては割の良い仕事だと思われている。
実は、この程度の金額は撮影所職員にとって1日の携帯電話料金程度にすぎないのだが、希望者は仕事の数よりはるかに多い。
撮影所内には、「彼らはどんな仕事にでもありつこうとするが、その一方でどんな悪事も平気でやる」という声もある。だが、「群衆演員」や「場工」は映画を裏側から支える仕事であり、誰かがやらなければならない。
それだけに映画制作において彼らに対する警戒心とともに頼らざるを得ないという相反する思いがあり、「撮影所内の日常は現代中国の縮図」という撮影スッタフもいる。
撮影所正門には24時間、警備員が立ち、部外者は自由に撮影所内に入れない。人手が必要となれば、その都度、スタッフが正門前に来て、仕事の内容に見合った人物に声をかけ採用していく。そのため、正門前の広場には毎日、声がかかるのを待ち続ける人の姿が絶えない。
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君在前哨/中国現場情報
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