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〔043〕 目指す将来はエリート - 自由主義社会への危機感
【2003/09/18】

 中国では9月から新学期がスタートした。上海の外資系企業に勤務する劉さんは、一人息子を私立学校に入学させ、「これではしばらくは一安心だ」と胸をなでおろした。2年間、家庭教師を付けて勉強させた成果だという。

 圧倒的多数の子どもたちは公立小学校に入るが、劉さんの息子が入学したのは「貴族学校」と呼ばれる私立の小学校。将来、エリートへの道が開けると喧伝する富裕層の子どもたちが通う特別の学校だ。

 中国では教師の経験不足、学校設備の老朽化など、教育現場の改善を訴える親が多い。だが、政府は迅速な対応をとろうとしない。この現実を逆手にとって、貴族学校では実績でランク付けされた指導力の高い教師や英語を教える外国人教師を雇い入れ、パソコンといった最新教育機器を導入するなどして、入学希望者の増加を図っている。

 それだけに学費は年間10万元(約150万円)を超えるが、月収2万元(約30万円)ほどの劉さんにとっては「払えない額ではない」として、早くから貴族学校への入学を目指していた。

 すでに現在の中国では賃金格差が急激に拡大し、外資系企業、金融業、不動産業などの賃金レベルが特に飛び抜けているように、業種別あるいは企業別での偏りがみられる。貴族学校の生徒たちの親は、外資系に勤めるビジネスマンのほか、私営企業の経営者、高級官僚などが大半だ。

 「中国の紙幣に描かれてきたのは工場労働者や農民、あるいは少数民族だった。だが、かつて共産党から中国の主人公ともてはやされた階層を親に持つ子どもたちは貴族学校には一人もいない」

 貴族学校が誕生したのは1990年代に入ってから。上海や広州、北京など著しい経済発展を遂げる沿海地区に集中する。劉さんが息子を貴族学校に入学させようと決断した理由も、著しい経済発展が中国にもたらした現実からだという。

 「社会制度や価値観が一変しつつある中国でこれから生き抜くためには、子どものうちから高い教育を受けなければ将来の希望さえ持てない。学歴による極端に厳しい現実が中国にはすでに存在する」

 最近、伝えられた「人民日報」の記事を示しながら、劉さんはこう説明する。記事によると、失業率の割合は学歴と大きな関わりがあり、大学卒業者の失業率はわずか3%ほどに対し、中卒や高卒では40%に迫ろうという著しい偏りが調査結果に表れた。

 共産党は私立学校の存在をすでに公認している。しかし歴史や政治といった党の正当性に影響を与える科目の教育内容にまで自由化を認めてはいない。だが、劉さんはこういう。

 「今後、私立学校が急増していくことは間違いない。私営企業が次々と設立され経済政策で党からの制約が解き放たれたように、教育がらみでも今後、党離れが急速に進む。いずれ中国はなし崩し的に自由主義社会に突入するだろう。その波に乗れるかどうかは教育によって大きさ左右される」

 エリートを目指さなければ社会的弱者になりかねないという危機感が、現代中国人に急速に広がっている。


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