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〔031〕 海外からの複数のメディアで事実を確認する中国市民
【2003/05/11】

 「 中国政府の情報操作と事実隠しでとまどう北京市民」の中で、「衛星放送で香港や台湾、日本からのニュースを見ていた市民」と伝えたが、中国の一般市民は衛星放送を見えないのではないかという疑問が寄せられた。

 確かに、中国では衛星放送は見えないことになっている。厳密にいえば、海外から発信される衛星放送を個人が受信することは禁止されている。しかし、受信している人は確実にいる。

 1993年10月、中国政府は国務院令として「衛星電視広播地面接收設施管理規定」(衛星テレビ放送地上受信装置管理規定)を公布、海外からの衛星放送受信を規制するとともに番組を管理するようになった。その理由として、社会主義精神の建設を促進するためと、第1条で明記する。

 89年の天安門事件、その後のソ連や東欧の社会主義政権の崩壊は、西側から発信される情報が影響しているとみた中国政府が、危機感を募らせたためだとされる。

 条例公布により、パラボナアンテナやチューナーなど受信装置の設置や使用は政府機関を除き、外国企業や外国人が入居あるいは宿泊するマンションやホテルの管理部門が当局に受信許可申請を出し、許可証発行をもって受信できるという許可制になった。

 一般市民が見ることができる海外の番組は、検閲をパスし有線テレビ局で放送される番組に限定され、ニュース番組などは大きな制限を受けている。ところが、実態は把握されていないが、一般市民も海外からの衛星放送を見ている。

 無許可で衛星放送を受信している家庭の場合、夫は党や政府の職員ではなく私営企業の経営者。3年ほど前に、直径60センチほどのパラボナアンテナとチューナーを6000元程度(約9万円)で購入した。

 受信がばれた場合、一度目は受信禁止勧告、二度目で受信装置の没収と噂されているが、これまでに一度も咎められたことはない。

 アンテナはベランダに設置している。自宅は郊外の高級マンション。人の出入りは24時間、守衛が厳しくチェックし、入居者の許可がなければ訪問者は立ち入れない。このため摘発されないのではと、受信者は推測する。マンションの住人はパラボナアンテナの設置を知っているが、密告する者はいないという。

 時々、友人がやって来て、ニュースやドラマなど、普段は見られない外国の番組を一緒に見る。今回のSARS感染については、政府発表と海外のニュース番組で報じられる内容とのあまりの違いに疑問を持ち、過去の事例から海外の報道を信頼し、SARS感染を警戒するようになった。友人たちにもそれを伝えた。

 この話を聞いて、思い出すのは96年当時の台湾での出来事だ。初の台湾総統選挙直前に、台湾への圧力を強める狙いから、中国政府は台湾海峡の北端部分を訓練海域としてミサイル発射訓練を行った。だが、中国政府による台湾の一般市民への影響力は、滑稽な結果に終わった。

 当時、台北市だけでも全世帯のほぼ半数がケーブルテレビに加入し、チャンネル数にして60を超えていた。このためアメリカ、イギリス、日本、香港、シンガポール、さらに中国本土のニュース番組からも情報を得て、ミサイル発射がこけ脅かしの訓練にすきないと判断し、大半の市民は危機感を募らせてはいなかった。

 当時、私は台北にいたが、台北市民に動揺した様子はまったく感じられなかった。それどころか、演習後にはミサイルが着水した海域を見学する観光船が出航したり、海域を見ようとする人たちで周辺の道路が渋滞するほどだった。

 「ごく普通の市民が複数のニュース・メディアから情報を得て、情況を判断できるという台湾の現状を、中国政府は理解できないのではないか」と当時、台湾の友人は語っていた。

 都市部の電気店で受信装置の販売を見かけることはまずない。だが、違法でありながら、パラボナアンテナの販売や設置を行うというチラシが、郵便受けに投げ込まれている。

 受信装置の購入がインターネットでできるというホームページも存在する。そのホームページは、「このサイトは研究機関やホテル、メディアなど衛星受信設備設置条件を満たす部門を対象としてサービスを行っている」とあえて明言している。善意の第三者を装って装置を販売しているのではと推測できる一言だ。

 5月9日付けの「人民日報」では、北京市衛生局副局長の発言として「SARS発生に下降の兆し」と報道している。だが、インターネットが普及した現在、外国からの情報流入を規制することはもはや困難であり、今回、SARSの事実隠しや情報操作が判明しただけに、「人民日報」のこの報道をどれほどの市民が信用するだろうか。

 数からすれば今はまだごく一部だが、SARS報道に対する不信感がきっかけとなり、衛星放送の密かな受信が近い将来なし崩し的に増加するのではと話す北京市民もいる。


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