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〔030〕 SARS感染者の増大で、拡大する国内の混乱や動揺 
【2003/05/05】

 中国語で、新型肺炎(重症急性呼吸器症候群・SARS)は「非典型肺炎」、略して「非典」(fei dian)と表現される。

 「中華民族面対突如其来的非典」 (中華民族は突如出現したSARSに直面している)
 「戦勝非典」 (SARSに勝利しよう)

 中国政府はSARS撲滅に向けて勇ましいスローガンを掲げるが、感染拡大にともない便乗行為や混乱、動揺なども各地に広がっている。

 「人民日報」(5月2日付)は、消毒費用徴収行為の取り締まりを報じた。記事によると、一部地域でSARS感染防止を理由に通行車両に対し消毒を強制的に行い、その費用を徴収し始めている。衛生部(省)など関係当局は、こうした悪質行為を厳しく取り締まるよう求めている。また、劣悪品を販売していた業者を公表した。

 事実、一目で粗悪品だとわかるマスクなどが販売されだしていると、北京市民の一人は訴える。彼はバクテリア濾過率98%以上とされる不織布で作られた医療用マスクを日本から入手し着用している。マスクは使い捨て用だが、数に限りがあるため連日、使用し続けている。

 このマスクに比べ、粗悪品は布を重ねて縫い合わせているだけで、素人目にも効果は期待できそうにない。この他、特効薬と銘打った薬品まがいも売られ、悪徳便乗商法が目立ちだしているという。

 一方、医師の診断を受けなければならない人々が通院できない情況が、顕著になってきている。今月出産予定の女性は病院内でのSARS感染を危惧し、受診回数を減らしている。重い胃潰瘍を患う老人は通院を止めたが、内服薬がなくなり症状が悪化しだした。

 さらに外来患者の診察を停止する病院も出始め、SARS以外の病気やケガなどで診察を必要とする人々への迅速な対応を求める声が強まっている。

 内陸部へのSARS感染が懸念されにつれ、北京人に対する過剰な警戒心が国内に広がりだした。重慶へ出張した北京のビジネスマンはホテルにチェックインする際、北京在住者というだけで露骨にいやな顔をされたと言う。上海に移動した人物は、強い北京訛りの中国語を話して商店やレストランなどで差別的な対応を受けたと憤慨する。

 感染者が北京では5月に入って以降1700人を超えたのに対し、上海ではわずか2人しかいない。なぜこれほど大きな差が生じるのか謎だされる。だが、中医(漢方医)の医師は、北京で感染者が突出する原因の一つとして、北京市の無策と北京人の衛生に対する知識不足を指摘する。

 1988年、上海では30万人にもおよぶA型肝炎患者が出た。これを教訓に、上海市政府は手洗い、うがいなどを徹底するよう市民に呼びかけた。SARS感染者が増大した4月末以降、上海市政府は上海と他地域を結ぶ幹線道路上で、市内に入る人々に対し検温を中心とする検査を実施し始めた。

 また上海市人民代表大会常務委員会は、路上で痰を吐くことを禁止する条例改正案を可決、違反者には最高200元(約3000円)の罰金を科すなど感染予防に積極的に取り組んでいる。

 これに対し、北京では長年、感染力の強い伝染病に見舞われなかったこともあり、手洗いやうがいなどが市民の間で習慣的に行われていないことが、感染拡大に大きく関係していると、医師は推測する。

 「広東省との経済的な繋がりは北京より上海のほうがはるかに緊密で、人的交流も多い。SARS感染が広東省から広がったとするならば、感染者数は北京より上海のほうが多くても不思議ではない。しかし現実には北京のほうが圧倒的に多い、これは北京人の衛生観念の欠如が原因の一つだと考えるのが合理的だ」と医師は言う。

 そして、医師はこう続ける。
 「『不随地吐痰!』(痰を吐きちらすな)といった標語を掲げるだけでは、これからも起きるであろう感染症には対応できない。北京市は公衆衛生対策をより強化し、上海市のように市民の衛生知識の向上を積極的に図っていくべきだ」


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