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〔026〕 党や政府の宣伝道具から今も抜け出せない映画制作
【2002/12/14】

 国策映画であっても、検閲で修正を命じられることは珍しくない。共産党、政府、人民解放軍の指導を受け制作にとりかかった作品が、執拗な検閲によって現場が混乱した事例がある。

 その作品は現代史をテーマとする国策映画だとして、シナリオ検閲の段階で党中央へも上げられた。中国では歴史の解釈は党や政府が規定するだけに、シナリオがかなり変更されるのではと予測された。戻されたシナリオを見て、修正内容の多さに唖然とさせられたと、制作スタッフは言う。

 「物語の変更はさほどでもなかったが、セリフの言い回しは相当数、改められた。数の多さからみて、一字一句、慎重に検討したようだ」

 国策映画だけに監督は不満も述べず、ただちに撮影に入った。辺境の地での撮影が大部分を占めたため、現場へのスタッフの移動や機材の運搬には軍が全面的に関わった。食料は軍用機からパラシュートを使って定期的に投下された。この映画にかける党、政府、軍の意気込みは驚くほどだったと、先のスッタフは振り返る。

 現場でシナリオを変更するということもされず、撮影は半年ほどかけてスケジュール通りに終了した。ところが、完成作品の検閲で、大きな問題に直面した。検閲の監督官庁である国家広播電影電視総局(放送・映画・テレビ総局)に加えて党中央も検閲したシナリオにもかかわらず、修正命令が出されたのである。しかも、その箇所は主役のセリフの一語だった。

 作品は史実に基づいた内容であったが、修正を命じられたのは政府、党、軍の歴史的行動が「解放」であったのか「進軍」であったのかという場面だった。

 シナリオ検閲で了承されたのは解放であり、主役は解放と語っていた。ところが完成作品の検閲でそのセリフを進軍に差し替えるように命じられた。このため、指摘された場面の撮影だけを撮り直しセリフも修正命令通りに変更、再度、検閲を受けた。

 だが、またもやこの場面が問題視され、解放と語るように命令された。再度、編集作業を行い、元に戻して提出した。ところが、しばらくの間、返答が途絶えた。変更を了承するのか否か当局の決定は先送りされ、編集作業はストップを命じられた。その後、返ってきた答えは、シナリオ段階で了承された解放というセリフでというものだった。

 「1ヶ月近く待たされたことを考えると、党や政府内部で見解の相違があり、意見統一に手間取ったに違いない」

 一般に、解放とは国民党支配から共産党支配への転換を意味するという立場を中国政府はとっている。だが、この映画の物語は国民党支配地域を解放するというものではなかった。

 最終決定までに時間がかかったのは、微妙な問題に対する結果責任への追及を恐れ、決断を最高責任者にゆだねた結果ではないかと、制作に関わったスタッフは推測する。そして、こう続ける。

「映画は党や政府の宣伝の道具という従来の立場から、現在も一歩も抜け出ていない。表現の自由を達成するには、党や政府の指導からの離脱が達成できない限り可能性はない。そうでなければ、この事例に象徴されるような混乱は、将来においても何度も繰り返される」


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