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〔019〕 中国の急激な変貌と住民たちの嘆き
【2003/01/12】

  1、2年にして市街地の光景を一変させる再開発の素早さを、躍進する中国のダイナミズムとして賞賛する発言や記事を日本では目にするが、その急激な変貌を可能にしているのは住民の意向をまったく考慮しない中国政府の強権にほかならない。

 最近、北京で強制的な立ち退きを余儀なくされた陳さんという名の住民に話を聞いた。北京市中心部から車で1時間ほどの北西部、平屋建ての家が並ぶ住宅地に、陳さんは住んでいた。

 この地域にある時、突然、壁紙が張り出された。地区の建物をすべて取り壊し公園にする、このため1年以内に住民は立ち退くようにという内容だった。事前説明はいっさいなかった、個々の住民の意向を聞く機会もいっさい設けられなかった。

 しばらくして、関係者が家を訪ねてきて一方的に告げたのは、立ち退き料の額だけだった。陳さんは張り紙を見た時点から、ここは中国、拒否することはできず、政府の言うことを聞くしかないと覚悟したという。

 陳さんの家は、敷地面積約200平米。6年前に、25万元(1元=15円換算で、約375万円)ほどで購入した四合院風家屋。中庭のある家を気に入り、休日になるとせっせと庭の手入れをしてきた。この家の立ち退き料として提示された額は、30万元(約450万円)だった。

 仕事上、なるべく北京の中心部に住みたいと考えたが、今や住宅価格は高騰を続け30代半ばの陳さんにはすでに手が出せる金額ではなくなっていた。現在、市中心部のマンションは1平米=8000元(約12万円)〜1万元(約15万円)ほどに跳ね上がっている。

 通常、北京人が新規マンションを購入する場合、平均約100平米当たりの部屋を求める傾向にある。このため、中心部に住もうとするならば、住宅価格は100万元(1500万円)ほどになる。

 陳さんは物件を探し求めた結果、ようやく見つけたのは、北京市中心部と、日本人観光客に人気の高い万里の長城の八達嶺のほぼ中間地点になる田園地帯に建てられたマンションだった。床面積約130平米、3DKで、価格は約50万元(750万円)。立ち退き料30万元との差額20万元(300万円)を、15年のローンで穴埋めすることにした。

 数年前から、北京市民の間で噂されているのは、平屋建て住宅はほとんど取り壊され、高層マンションに変わるというものだ。

 「人民日報」には建設省幹部の話として、2020年までに、中国国内では毎年新たに5億5000万平米の住宅建設が見込まれ、住宅建設投資は年7%のペースで増加すると予測、住宅建設を中心とする不動産業は中国経済の中核産業になることが期待されるという記事が掲載されたことがある。

 朱鎔基総理も北京市を視察した際、北京市を近代的国際都市へと変貌させようと強調した。政府予測通りの勢いで都市再開発が進めば、数年以内に中国の様相は一変するだろう。

 北京の幹線道路沿い、各企業が入るビルは終業後もライトを煌々と照らしている。政府の通達だという。電気代は各企業が支払わなければならない。

 社長の1人は「政府は一方で環境問題を重視せよと言い、エネルギーの無駄遣いを戒める。ところが一方的な通達で、無人となる夜間でさえ電源を落とすなと言う。この矛盾をどう考えればいいのか」と嘆く。

 都市が急激に変貌する速度を維持できるのも、実はそこに住む人々の日常生活をまったく考慮しない政府の強権であり、住民の犠牲に上に成り立っているにほかならない。


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