・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




〔018〕 上映許可証は表現の自由に対する政府の姿勢を映し出す
【2003/01/02】

 「当初考えた物語で作品を完成させたかったが、それでは絶対に検閲にひっかかると思い、別の物語に書き換えた」

 昨年、張芸謀監督が脚本の検閲に関して、こともなげにこう語ったことがある。その表情に感情はみじんも浮かんでいなかった。検閲部門とどう折り合いをつけるかに、長年、腐心し続けると、シナリオ検閲の前に自己規制が本能的に働くのだろうか。

 この話を、上海の出版社の編集者に話すと、彼は最近の情勢をこう語った。
 「言論統制機関は今や、中国共産党最後の砦となるだけに、表現の自由を要求しても当局は一歩も譲らない。とりわけ、昨年は第16回中国共産党大会が開催されたため、検閲する側も受ける側もより慎重になっていた」

 たび重なる検閲をなんとかくぐり抜けた映画作品には、中国当局からのお墨付きといえる一般公開許可証が与えられる。それが左の写真の、「中華人民共和国 広播電影電視部 電影事業管理局 影片公映許可証」だ。

 中国国内の映画館で上映される際には必ず最初にこの画面が映し出されるが、日本ではほとんどの配給会社がカットするためなじみがない。だが、監督はもちろん、映画制作に関わった人たちがもっともほしがる許可証だ。

 しかし、実は中国国内ではこの許可証を得た作品が一般の観客の前で上映されるまでには、他に複数の許可証が必要とされている。

 上映を許される映画そのものは、「映画制作許可証」を得る製作所が制作したものでなければならない。その映画が晴れて検閲をパスしても、全国に配給できるのは、政府が発行する「映画発行経営許可証」を得る配給会社しか携わることが出来ない。さらに上映するにあたっては「映画上映経営許可証」をもつ映画館に限られる。

 つまり、中国政府は、映画制作開始から一般公開までのすべての過程にわたって、権限を有しているのが実態だ。これらいずれの許可証は、1996年5月に公布され、7月より実施された電影管理条例などにより制度化されたもの。

 来日した中国の経済関係者が、日本政府が持つ許認可権の多さに驚き、「日本に来て、初めて社会主義制度を知った」という笑い話があるが、映画に関する許認可制を見るかぎり、中国政府は何重もの壁をめぐらし、地下電影(地下映画)(検閲をパスしなかった映画)の排除にやっきになり、同時に徹底した言論統制を行っている。

 昨年11月の中国共産党大会において、江沢民から共産党総書記の地位を譲り受けた新指導者、胡錦涛総書記は大会で「中国の未来は絶対に明るい」と力を込めて挨拶を行ったが、彼が語る明るい未来とは誰に訪れるのだろうか。

 胡錦涛総書記の「明るい未来」を語る場面を一緒に見ていた映画人は「少なくとも、明るい未来は我々にはやってこないことだけは確かだ」とすかさず反応した。

 党大会開催に前後して、中国ではネットカフェへの規制に乗り出すとともに、民主化を唱えるグループや外国で発信される中国情報のホームページへのアクセス遮断処置をより厳しくしたと、北京から伝えてきた。表現の自由をめぐる問題に関しては、中国ではまだ夜明けにさえさしかかっていない。


◆ 君在前哨/中国現場情報 ◆





君在前哨/中国現場情報
 トップ・ページへ  返回首頁