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〔012〕 「鬼子来了」に突き付けた当局の強権的姿勢 (2/2)

  国家広播電影電視総局(放送・映画・テレビ総局。以下、広電局)が、映画「鬼子来了」(「鬼が来た」)に対し激怒した最大の理由は、脚本と完成作品との間に著しい内容の違いを生じさせたことであった。

 脚本のページ数あるいは完成作品の具体的な場面を指摘し、広電局はこの映画に対する批判を展開した。その数、計20項目にのぼる。主だった批判は以下の通りだ。

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 脚本段階では、中国の農民は日本兵に対し毅然とした態度でのぞむ姿が描かれていた。しかし完成作品では日本兵に恐怖心をいだき、へりくだったセリフさえ言うように変更された。これは、敵と味方の区別さえつかないほど農民は無知であるという、誤った農民像を表している。

 農民が日本兵に食事を提供する場面が脚本にあったが、広電局はこの場面を削除するよう命じた。しかし、削除するどころか、農民が日本兵のために食材を集める場面を執拗に組み入れ、しかも喜びいさんで料理作りをする場面さえ加えた。これは当時、農民たちの生活がいかに困窮したものであったか、また日本兵に憎悪を持っていたかという史実と大きくなくいちがいを示すものである。

 国民党の将校が農民たちの前で演説する場面を、完成作品では脚本よりも増やし、先の戦争時において国民党こそが唯一の政権政党であるという主旨の発言を将校にさせている。国民党を批判しないどころか、中国現代史を著しく歪曲するものにほかならない。
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 広電局は、(1)「脚本を勝手に変更し、撮影を敢行した」、(2)「脚本を修正するよう命じた箇所を変更しなかった」として「鬼子来了」を厳しく批判する。しかし、根本的な疑問は、そもそも映画は誰のものであるかという点だ。「鬼子来了」の企画、脚本、制作などすべてにおいて、中国政府あるいは広電局はまったく関わりがない。

 脚本修正命令の無視、撮影の強行、カンヌ映画祭への出品、外国での上映などを理由に、広電局は監督、制作会社、制作費出資企業などへ活動停止などの厳しい処分をくだした。

 中国の映画関係者は、「広電局の強硬姿勢から浮かび上がるのは、中国映画は国家の所有物だとする時代錯誤もはなはだしい認識でしかない」と批判する。

 映画関係者は公式の場では政府や広電局に対する批判をひかえたり、間接的な発言にとどめているのが現状だ。スタッフの発言からもわかるように、映画人の間では検閲に対する反発はうずまいている。しかし、検閲廃止への有効な手だてがいっさいないのが現状だ。

 最近は、ソニー・ピクチャーズや角川書店など大手企業が日本での中国映画の配給に乗りだし、公開直前にはテレビや雑誌で監督や俳優のインタビューや記事が流さる。しかし、その背後でうごめく映画誕生までの軋轢やいきさつにはいっさい触れられず、芸能ニュースや芸能記事の段階から抜け出す気配がない。

 こうした傾向に、日本に住む中国映画人は苦々しさと同時に薄っぺらな内容に愕然とし、いつしかこう言うのが口癖になった。

「日本では表現の自由が保障されているのだから、なぜ監督や俳優に本質的な質問を突き付けないのか。取材意図を話し誠意を持って質問をぶつければ、中国国外に出ているのだから彼らは彼らの言葉で応えてくれる」

 中国映画に対する真意を聞き出すには絶好の環境にある日本にもかかわらず、中国映画をハリウッド映画と同レベルでとらえられようとするところに、彼は日本の限界をみとっている。


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