マルトはマロンの積年のライバルであった。
話すと長くなるので割愛するが、二人は何十年もあらゆる事で意地の張り合い続けてきたのであった。
ここ3年ほど会う機会もなかったのだが、偶然パリの街角で・・・二人は再会した。
マルトはその時、孫夫婦と一緒であった。
彼女は自慢げに二人をマロンに紹介した。
彼女の孫、エルマンに会うのは12・3年ぶりだったが、頼りなさげなところは子供の頃と変わらずだった。
これはマロンの辛口評価であるので、実際の所はごく普通の青年といったところである。
そしてエルマンの妻のアンヌマリーにも同様の辛口評価が下された。
はずなのだが・・・・・

「亜麻色の髪にばら色の頬、そしてはしばみ色の瞳の愛らしさといったらそりゃもう!」
マロンは興奮気味に続けた。
「あたしゃ王妃様にお会いした事はないけど・・・・きっと王妃様だって色褪せるくらいだよ!かわいい子なんだよ。笑顔がよくってね。それに!性格がいいんだよ!性格が!あんないい子はいやしないよ。エルマンはどうやって口説いたんだろうね。あの子に甲斐性があったという事かね。どこぞの誰かとは違ってね!」
マロンはそう言って自分の孫を睨みつけた。
アンドレはやれやれという様子で肩をすくめた。
このままいくと、話がどちらの方向に進むかは火を見るより明らかだ。
行き着くところはまたひ孫の話だ。お前の甲斐性がないから嫁が来ないとか・・・そんなのおれの勝手だろうがまったくもう!
「そりゃすごいな!おれも是非見たかったよ、王妃様とどちらが上か?」
アンドレはすっとぼけて言った。
それを聞いてマロンは嬉しそうに笑った。
「そうかい!そんなに会いたいかい。それじゃあ会わせてあげるよ。3ヶ月前ひ孫が生まれたそうなんだよ。お祝いの一つも持ってかないといけないからね。」
アンドレは墓穴を掘ったのを悟った。
い、いかん!埋葬される前に何とかしないととんでもない事になる!
「あ、あの・・・おばあちゃん、今はオスカルがとても忙しいから休みをもらうのはちょっと難しいかもしれないな。いや、絶対に無理だな、うん。」
「何言ってるんだい!大きなお仕事が片付いて明後日から暫くはお屋敷から出仕できるって言ってたばかりだろう?来週の水曜日だよ!曜日は替えられないからね。」
「でも水曜日は確か・・・遠乗りに出かけるとオスカルに言われてたから無理だと思う。」
「そうかい・・・水曜日はだめかい。」
「ああ、残念だが・・・・金曜日の午後だったらなんとかなったかもしれないけどな。」
「じゃあ、水曜日の午後で決まりだね。」
マロンは孫を見てニヤッと笑った。
「だから水曜日はダメだって・・・」
「アンドレ!あたしを騙そうなんて10年早いよ!オスカル様には確認済みさ。ちゃんとお許しも貰っといたよ!」
アンドレは肩を落とした。
おれはすでに埋葬済みだったか・・・・
「つまり・・・おれは、おばあちゃんと一緒に行って10何年ぶりにあのマルトばあさんに会って、ボロクソに言われて帰ってくればいいんだな。」
「そういうことさ。あたしゃマルトにお前達を連れて行くと約束したんだからね。」
「お前達?おれの他に誰か一緒に?」
アンドレは怪訝そうに尋ねた。
「嫁さん。」
「誰の?」
「お前の。」
祖母はすまして答えた。
アンドレは一瞬あっけに取られたが・・・・すぐにその真意を悟った。
「おばあちゃん、つまりおれはどうでもよくって必要なのは・・・・・・・」
「どこへ出しても恥ずかしくない娘を連れておいで!あたしゃマルトに言ってやったんだよ!あたしの孫娘はあんたの所より数倍器量良しだってね!」