―終章― もう何処へも行かないから、ずっと側にいるから

01

 「今月の26日で17歳になるはずだ。背が高くて優しい感じの人畜無害の少年・・・・見た目はね。でも意外と用心深くて、慎重でよく周りを見ている。普段は絶対に自分から関わる奴じゃない。これの怖さをよく知っているから、うまく逃げている。」
板倉は3人に言った。

 「臆病なだけじゃないの?チキンは馬鹿より始末に負えないわ。もし役に立たない奴だったら・・・今度は全治3ヶ月じゃ止めてやらない。」
ジャンヌが最初に口を開いた。
 「大丈夫だよ。覚悟決めたら変わるから。2年前にちょっとあってね。その時判ったんだ、力があることもね。」
板倉は返答した。

 「でも、自分から関わる子じゃないんでしょう?本当に大丈夫なのかしら。」
ディアンヌが心配そうに板倉に尋ねる。
 「彼には “めちゃくちゃ可愛い女の子の護衛” と言うつもり。だから絶対来る。」
 「・・・それだけで絶対来るのか?」
 「ぼくの母校は中高一貫、6年間全寮制の男子校だからね。」
 「なるほど!そりゃ絶対来るな。 “女の子いるよ” だけでも来るんじゃないか?」

 「兄さん!ふざけないで!」
彼女は兄を叱責すると、「19人目が一番最悪なんてことにならないでしょうね。」と、先程よりもっと心配そうに板倉に尋ね返した。
 「大丈夫だよ。それに特技が1つあるんだ。」
 「特技?」
 「ああ。めちゃくちゃ辛抱強くて我慢強いというね。半端じゃないんだな、これが!」
 「・・・・・この仕事の場合、それは一番大切かもしれないわ。」
ディアンヌはため息をつきつつ言った。

アランは肩をすくめた。
 「今年はまだ17歳の誕生日だからな。よし!帰国したらボスにはそう伝えておく。さてと、他に何か言っとく事はないか?」
板倉は考えながら言った。
 「現在の状況 ―ぼくがメインでガードをしている事― それと、臨時が見つかったので9月から年内は何とかなる事、この2点の他に・・・そうだ!一番大切な事を忘れてたよ。早急に後任をお願いします。どうしてもだめだったら・・・アランで我慢しますから!と、こんなところかな?」
 「俺はだめだ!自分で言うのもなんだが3日で押し倒すぜ!」
アランは自信ありげに言った。
 「兄さん!何てことを!」
 「大丈夫よ、ディアンヌ。そんなことをする前にあたしがちゃんと!止めてあげるから。ね!ア・ラ・ン。」

 「とりあえず、最悪の場合の人員は確保できたわけだね。」
ジャンヌの言葉を受けて板倉は言った。

 「全治3ヶ月だと!」
オスカルは唸った。
 「ええ、この時期ガードの怪我は少々手痛いものがあります。あと4ヶ月ほどで誕生日ですから。」
占い師は言った。
 「代わりの手配は?」
 「臨時が見つかったという報告が入っていますので、当分は何とか。」
 「・・・大丈夫なのか?」
オスカルは尋ねた。
 「板倉の推薦です。それに、私も今日会ったところです。」
占い師は“大丈夫です”と言う代わりに微笑んで見せた。

 「それでは何も問題はないのだな?」
 「いえ、復帰に関してですが・・・・」
 「3ヶ月後では間に合わないと?」
 「いえ、怪我は大丈夫です。しかしもう側に置く訳には。」
 「怪我はジャンヌか!」
 「ええ、またです。しかし半年もったので・・・歴代4位ですか。」
 「それが何だと言うのだ!」
オスカルは語気を荒げた。

 「外見は見る者すべてを惑わすような美しさ、中身は純粋で無垢、そして賢い。どれか一つでも欠けていれば、このような事態にならなかったのですが。」
 「ほう?ブスか、あばずれか、馬鹿ならばよかったと?」
 「怒らないでください。これ以上望みもしない者にいい寄られるのは、悪夢でしかないということです。」
オスカルは怒りを押さえて聞いた。
 「・・・・当ては?」
 「香港に1人、あとインドに・・どちらも腕はよいのですが・・・少々人格的に問題が・・・」
 「他は!」
 「最悪アランをつけますが・・・・私個人としては、臨時にがんばってもらいたいですね。」
 「ほう?珍しい。えらく気に入っているではないか。では、どのくらい変わった奴なのだ?クレマン。」
皮肉混じりにオスカルは聞いた言葉に占い師はにっこりと笑って嬉しそうに話し出した。

 「すごいですよ!悪霊にも妖にも変化せず200年です。それに彼は24年間の実績もありますし。」
 「クレマン、何を言っているのだ?その男は・・・・」
 「6日後の2時・・・確か屋敷におられるのでしたね?その時紹介しましょう。ああ!そうでした。大切な事を忘れていました。私としたことが!お喜びください、とうとう手に入れることが出来ますよ!」
 「手に入れることが出来る?何を?」
 「もう一方の肖像画です。」
 「見つかったのか!」
 「はい、良き事は一度に訪れるものですね。」
占い師は楽しそうに笑って言った。