Dear・・・



「おい、大丈夫か?」

エル・フィルディンの港町バロアと山奥の神殿を結ぶ道。
倒れていたあたしを揺り起こす手を感じた。
「う・・・ん」

「よかった。死んではいないみたいだな」
声のするほうに顔を向ける。
徐々にはっきりしてきたあたしの視界に入ったのは・・・

わっ、いい男♪
栗色の長い髪に紫色の輝く瞳。
思わず顔が紅くなった。
もともと色白だからかなり真っ赤になっていたに違いない。
でもそのカッコにちょっと引いた。
こんなところに場違いな燕尾服。花嫁に逃げられた花婿だわ、これじゃ。
何でこんなカッコしてるんだろ。ヘンな人。

そんなあたしに気づかないように言葉を続ける。
「こんなところで寝てると踏み潰されるぞ」
好きで寝てたんじゃないわよ。
体を起こそうとする・・・けど。
「!!!!!」
声にならない叫び。
一瞬にして力尽きた。

それに気づいたのか
「動けないのか?」
見りゃわかるでしょ?
体中が痛くて動きたくても動けないんだから。

あたしの身体をまじまじと見る。
その視線が呆れている。
つられてあたしも自分の身体を見回す。
ひどいものだった。
打撲。おまけに擦り傷だらけ。

「いったいどうすりゃこんな怪我になるんだ?」
そんなこと、あたしが聞きたいわよ。
まだくらくらする頭で必至に記憶を手繰る。
えっと・・・何かが飛んできたのよね。
それに当たって気絶しちゃったんだ。

横にあたしを気絶させたものが落ちていた。
・・・ナイフ。それも何本も。

「当たり所が悪かったら死んでいたよな」
・・・そんな怖いこと、さらっと言わないでよ・・・

「悪かったな、俺の代わりに」
不意に体が軽くなった。
えっ?えっ?えっ?
彼があたしを肩にのっけた。
きゃああああぁぁぁぁ〜〜〜〜

「まだ動くのはムリだろ?
それにちょっと追われてる身なんでな、ぐずぐずしてはいらんねえんだ。
ついでに手当てしてやるからさ、酒場に行こうぜ」
ちょっとまってよ!追われてるって何!?
怪我の手当てになんで酒場なわけ?
じゃあ、あんたのせいであたしは怪我したの!?

文句言いたいのは山々だったけど、
抵抗する体力も気力もないあたしはそのままおとなしくしていた。




ざわざわざわざわ・・・
がやがやがやがや・・・

バロアの町の酒場。
人がたくさんいて騒がしい。
お酒といろんな料理と潮の香りが入り混じったにおい。
でも決して臭いわけじゃなく、酒場に入るのがはじめてのあたしでもなんだか心地よい。

彼がウェイトレスのひとりに声をかける。
「お〜い!」
「あら、いらっしゃい」
元気な声が返ってきた。
「ちょっと来てくれ」

あたしたちに向かって歩いてきたのは
背がすらっと高くて、海の近くで働いてるのに色が白くてきれいな人。
でもあたしほどじゃないけどね。

「あら、かわいい娘を連れてるわね」
「拾ったんだよ」
拾ったって・・・ひとをモノ扱いして失礼なやつ!

「こいつ、ちょっと怪我してるからさ、手当てしてやってくれないか?」
「おっけーー」

ウェイトレスはあたしが痛まないように丁寧に手当てしてくれた。
塗り薬を傷に塗って、ガーゼを当ててぺたんとテープで止める。
特にひどい怪我をしている腕は包帯でぐるぐる巻き。

「さあ、これで大丈夫よ」

5分もすると痛みが消えた。
すごい効き目。
「よく効くだろ、これ。ここにしかないんだぜ」
あ・・・だからここに来たんだ。
彼も腕や顔に細かい傷を負っていた。
彼は自分で薬を塗っていた。
燕尾服を着ていたからわからなかったけど、鍛えこまれた逞しい腕をしている。
そういえばさっき、あたしの周りにはたくさんのナイフが落ちていた。
あたしをかばって受けた傷だったの?

「ほら、動かしてみな」
彼に促され、あたしは腕を回してみる。
完全には治ってないけど、痛みはすっかりひいた。
「まだ治ってないトコすまないが、ちょっと頼み事がある。
この手紙を届けて欲しい」
と、彼は一片の紙切れを取り出した。

「この町を出てずっと山のほうに進んでいくと小さな村がある。
そこの神殿に俺の親友がいる。
ローブを羽織って大きな杖を持ってるからすぐにわかるはずだ」
あたしは手紙を落とさないように身に付けた。
「おまえなら目立たないだろうから大丈夫だろう」
そりゃ、こんなトコでそんなカッコしてたら目立つわよ、まったく。

「気をつけていってこいよ!!」
彼の声にうなずく。

あたしは全力で彼に言われた方向に向かった。
それを影から見ていた奴らがいたのにあたしは気がつかなかった。

「おい、あいつが持ってるのは・・・」
「間違いない。あの男が持ってたヤツだ」
「仲間の所にでも持っていくつもりか?」
「今のうちに奪い取ってしまわないと」
「ああ」

がさがさという音に振り向くと、薄汚いカッコをしたヤツらがあたしを追って走ってきた。
盗賊。ただの盗賊じゃなさそうだ。
この手紙を狙っている。

あたしはスピードを上げた。
奴らも速度を上げて追ってくる。
「待て!」
「そいつをよこせ!」

あたしは混乱していた。
これはただの手紙じゃない。
それも非常にやばい。
・・・ちょっと待ってよ!
そんな危ないものを運ばされてたってこと!?
あたしは何も関係ないんだから!

あたしは逃げる。
奴らが追う。

「痛っ・・」
さっきの傷が痛んだ。
薬草の効き目が切れたのか、あたしが無茶しすぎているのか。

あたしは逃げる速度が遅くなっていった。
奴らのひとりが石を拾った。
やばい!
そいつの手から石が離れた
あたしは思わず目をつぶった。

耳元で大きな音がした。
バシッ!

5秒後。

身体のどこかに当たったような様子はなかった。
あたしはおそるおそる目を開ける

あたしの周りに細かい砂が散らばっていた。

背後で声がした。
「すみませんね、殺気を感じたのでつい」

大きな杖を手に青いローブを纏った、これまたいい男♪
なんでこういい男が続くのかしら。

「何が「つい」だ、てめえ」
「こいつも仲間に違いねえ!」
「やっちまえ!」
男たちが魔法使いに飛び掛る。

「やれやれ」
魔法使いは杖を掲げた。
杖の先から光が弾けた。
ゴオオオオオオッ!
おおきな竜巻が発生し、やつらは突風に吹っ飛ばされた。

一瞬の出来事にあたしはしばし茫然としていた。

魔法使いがあたしに近寄る。 「あなたは・・・」
そう言いかけて、魔法使いの青い瞳があたしの腕に止まる。
「おや?怪我をしてるじゃないですか」

「女の子がこんな怪我をしてちゃダメですよ」
あたしの腕に手をそっとかざした。

暖かく、柔らかな光があたしの腕を包み込んだ。
「はい、もういいですよ」
怪我は完全に治っていた。
すごい、この人。 竜巻を起こしたり、一瞬で怪我を治したり、只者じゃないわ。

魔法使いはあたしの持ってた手紙に気がついた。
「もしかしてそれは私宛ですか?」
そういえばあの人がいってたのは大きな杖を持った魔法使いふうな人。
この人だ。あたしは確信した。
この人はあいつらを追っ払ってくれた。悪い人じゃない。

あたしは彼に手紙を差し出した。
「かわいいメッセンジャーですね」
と、あたしに微笑みかける彼。
そのやわらかい微笑みにくらくらっときた。

用は済んだので、あたしはもと来た道を引き返す。
「ご苦労様でした」
振り向くと、魔法使いがあたしに向かって手を振っていた。

あたしは気がつかなかったが、魔法使いはこう呟いていた。
「彼にあんな友人がいたとは・・・」




バロアの町に戻ったあたしは燕尾服の彼の所に急いだ。
ただいま・・・っと酒場にはいると。
あたしの目はただでさえ丸いのに、さらに丸くなった。

彼は女の子に声をかけまくっている。
平たく言えばナンパしまくってるのね。
ひとが危険な目にあってたのにのんきにナンパなんて!まったくなんてやつなの!
あたしは酒場を飛び出した。


あたしは町を出たトコにある林の木の枝に座っていた。

「おーい!」
あたしを探してる声がした。
彼にはタブンあたしを見つけることはできないだろう。
でも返事なんかしてやんない。
「どこにいるんだーーー!」

その声を聞きつけ、盗賊たちが現れた。
仲間を呼んできたのか、10人以上いるだろう。
大勢に囲まれたときは壁などを背にするのがセオリー。
でも、ここは街道のど真ん中。
林といっても木がまばらに生えているだけで、とても背中は守れない。

でも、彼はそんな事を気にする様子はなかった。
よほど強いのか。単なる自信過剰なのか。
「またおまえたちか。いいかげんあきらめろよ」
「そうはいくか!古文書のありかを描いた地図!さっさとこちらに渡せ!」
「おまえらがもってても何の役にも立たないぜ」
「えらいお方がこれを欲しがっているんだ。心配すんな」

彼が強いとしても、この人数だ。
盗賊たちはじりじりと近づいていく。
彼の顔に緊張が走っているのがわかる。
・・・あたしのせい・・・
あたしを追ってきたために、彼が窮地に立たされている。
何とかしなきゃ。


あたしは盗賊に一番近い木に飛び移った。

呼吸を整えると、あたしは木から飛び降り、目を攻撃した。
命中!
「ぐわあっ!」
男は顔を押えこんだ。
「何しやがる!!!」
男は刀を振り下ろした。
あたしは紙一重でそれを交わす。

ガラガラガラ!
やつらとあたしたちの間に雷が落ちた。

「お待たせしました」
あれは、さっきの魔法使い・・・?

彼は苦笑していた。
「おまえ・・・いつもいいときに出てくるよな」
「そうですか?」

「そんなことよりこの場を何とかしましょう」
「そうだな」

2人は背中合わせに立つ。
「いきましょうか」
「よし」

魔法使いが黄金の光を放った。
と同時に自称・外交官が飛び出し、腕にものを言わせて盗賊たちをねじ伏せていく。
魔法使いは魔法を駆使してやつらを気絶させていった。

あたしは離れたところでその様子を見ていた。
そっか。
この人たちにはあたしは必要ないんだ。
あたしは足手まといになるだけ。



「ふう」
「これで全部ですね」

燕尾服が魔法使いに話し掛ける。
「ラップ・・・おまえ、タイミング計ってるだろ、絶対」
「そんな器用なことできるわけありませんよ」
「いや、おまえならやりかねん」
「そんなことよりトーマス、大体そのカッコはなんです。燕尾服なんて」
「う、うるせー。
古文書を悪用されたくないから静かに探せって言ったのは誰だよ。
だから外交官風に変装してみたんだ」
「そんな外交官がありますか。それじゃ花嫁に逃げられた花婿ですよ」
あたしと同じことを思ってる。吹きだしそうになった。

「しかし、見つけてなんにするんだ?そんなもん」
「この古文書にはこの世界が創られた秘密が隠されているんですよ」
「ほぉ〜、そりゃすげえ」
「知らなかったんですか?」
「俺が知ってるわけないだろ?」
「さっきの男たちのまえでは知ってそうなそぶりでしたがね」
「カマかけてみたんだ」
と、なにかに気づいたような顔をする。
「ん?てことは見てたのか?」
「あ」
しまったというように、魔法使いは口を押えた。
「やっぱり計ってやがったな」
「まあまあ・・・でもあの娘の活躍があったから勝てたでしょう?」

行こう。
そのとき。
「おーい」
あたしを呼ぶ声がした。

「そこにいるんだろ、降りて来いよ」
わかってたんだ・・・ここにいること。

「俺と一緒に来ないか」

でも・・・ いっしょにいて邪魔になるくらいなら行きたくない。
あたしはまだためらっていた。

「おまえの居場所はここだろ」
そう言って彼は自分の肩を指差す。


あたしは翼を広げ、彼の肩に舞い降りた。








これを書いていたときに、さらまんだーさんが僕のイメージなイラストを描いておられました。
なんという偶然!ということですので、さらまんだーさんのイラストが元ネタです。
しかしそのイラスト拝見したときから何ヶ月経ってるんでしょう(滝汗)。


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