リトル・ライアー



「ミッシェルさんなんてだいっきらい!」
「えっ・・」

ミッシェルは,異界のレオーネの小屋に来ていた。
闇の太陽の一件以来、ミッシェルとレオーネは
異界の月の様子やガガーブ世界の動向について、頻繁に情報交換を行うようになっていた。
幸い、銀髪の少女もミッシェルのことを気に入っていたので
ミッシェルは気兼ねなく異界にくることができた。
しかし・・・

「私・・・なにか気に触るようなことをしたんでしょうか・・」
おろおろと心配そうに聞くミッシェルに、レオーネがため息をひとつついて答える。

「いや・・・なぜかしらんが今日は朝から機嫌が悪くてな・・・今朝からこうなんじゃよ。
わしにもきらいきらいと連発しとってな・・・」
「わたしがお土産に持ってきたぬいぐるみが気に入らなかったんでしょうか・・・」
「まさかそんなはずは・・・あの子はミッシェル殿のおみやげは大事に飾っておるからな」

ミッシェルが持ってきたぬいぐるみは、
フォルトとウーナが連れていた老犬ジャンに似ていた。
彼女がジャンを気に入っていたようなので、よく似たものを探してお土産にしたのだが・・・

ミッシェルにきらいきらいと連発する銀髪の少女。
ただ,悲しそうな表情でいっているのがひっかかった。
「しかし、なんであんな泣きそうなかおをしとるのかな」
「泣きたいくらいきらいということなのでしょう・・・」
ミッシェルはさびしそうに微笑んだ。

「では・・・私はそろそろおいとまさせていただきます.」
「もう帰ってしまわれるのか?
いつものように泊まっていって向こうの世界の話を聞かせてほしいのじゃが」

ミッシェルは銀髪の少女を見つめる。
少女はミッシェルの持ってきたぬいぐるみで遊んでいた。

「あの子に嫌われてしまったら・・・もうここにはいられません」
「すまんのぅ、ミッシェル殿。後であの子にはよく言って聞かせるから」
「いえ,その必要は・・・気づかずに相手を怒らせてしまうことはよくあることですし・・・
理由が分からず帰るのは心残りですが」
「気まぐれでそんなことを言う子じゃないんじゃがなぁ・・・」
「それでは・・・」

ミッシェルは戸口に向かう。

「ミッシェルさん・・・帰っちゃうの?」
意外な声に驚いたミッシェルが振り向くと、
すぐ足元に銀髪の少女がいた。

ミッシェルはしゃがんで少女と目線を合わせる。
そして、諦観の目で少女の目を真っ直ぐに見詰めた。
「あなたに嫌われてしまったのに、ここにいる理由もありませんしね」
「・・・帰っちゃいや!」

そう言うと、銀髪の少女はミッシェルの首に飛びついてきた。
「えっ?」
飛びついてきた反動でしりもちをついてしまった。
少女を受け止めたまま、ミッシェルはわけがわからないといった目をしている。

「あの・・・私のことが嫌いなんじゃなかったんですか?」
少女は頭を大きく振って否定する。

「うそ!そんなのうそ!ほんとは大好きなの!」

「ならどうしてそんなうそをついたりしたんじゃ?」
「今日はうそをつく日だっておじいちゃんが言ってたから・・・」
「うそをつく日?」

ミッシェルは銀髪の少女の肩越しにカレンダーを見る。
すっかり忘れていたが、今日は4月1日。エイプリルフールであった。

「そういえばだいぶ前にそんな事を言ったこともあったかな・・・」
「レオーネさん・・・」
ミッシェルは苦笑した。

「だからあんな泣きそうな顔をしてきらいといっておったんじゃな」

ミッシェルは心底ほっとした。
彼女に嫌われることがこんなにも心苦しいものかと初めて知った思いがした。

「いくらうそをついてもいい日でも,言いたくないうそは言わなくてもいいんですよ?」
「ほんとに?」
「はい」
少女の顔がぱあっと明るくなった。

「じゃ・・・今日も泊まってってくれる?」
「もちろんですよ」






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