不発弾



ある日の昼下がり。
プラネトスII世号の甲板では、ミッシェルがパンをかじりながら本に熱中していた。
後ろからトーマスが覗き込む。
「ラップ、何やってんだ?」
「魔法の勉強ですよ。」
ミッシェルが古代文字で書かれた本から顔を上げる。

「エル・フィルディン魔法もなかなか興味深いものがありますしね」
「ふーん・・そんなもんかな」
「土地に住んでいる人には何でもないものでも
外から来たものにとってはおもしろいものってあるでしょう?」
「確かにそれはそうだな」
「ほぅ・・・これなんかおもしろそうですね」
トーマスはいやな予感がしたが、お義理で聞いてみる。

「どんな魔法だ?」
「人をコウモリの姿に変換する魔法ですよ。
あ、トーマス、ちょっと実験台になってくれませんか?」
「やなこったぜ」
「じゃああの丘でも目標にしますか・・・」
そう言ってミッシェルははるかかなたに見える丘を指差した。

「ちょっと待て!あれをコウモリに換えるのか!?」
「いけませんか?」
「いけませんかって、おまえ・・・決まってるだろうが!」
トーマスは呆れを通り越して体中に脱力感を覚えた。
「まったく常識はずれなんだからな・・・」
「あなたにいわれたくはないですがね・・・」

「じゃあこっちのほうを・・」
「どれどれ?」
「これなんですがね」
と、ミッシェルは本を指差す。
しかし、古代文字で書かれている本が、トーマスに読めるはずもなかった。

「なんて書いてあるんだよ」
「読めないんですか?船長のくせして不勉強ですよ」
「船を動かすのに古代文字は必要ないじゃないか」
「これからガガーブを越えてもう1つの世界まで行こうというのに
それではあとあと困りますよ。
私が付きっきりというわけにはいかないんですから」
「ぐぅっ・・・」
反論できない自分が歯がゆい。
絶対に読めるようになってやる・・・と、トーマスは心に誓った。

「で?どんな魔法なんだ?」
「火の玉が目的の場所にまで飛んでいって、
目標に到達したら大きな火柱が4本噴き出し、
火柱が周辺の物質をからみとって圧縮、消滅させてしまう魔法です」

「とんでもない魔法だな・・・」

「しかし・・・届くのか?あんなとこまで」
「届かないからいいんですよ。
そのまま海に落ちるので、被害はなくてすみますしね」
「そのほうがいいぜ」

ミッシェルは呪文を詠唱し、手に気を集中させる。

そのとき、ルカが甲板にあがってきた。
「ミッシェルさん、ちょっと来てくれませんか?」
「あっ、バカ!話しかけるな!」
ミッシェルが振り返る。
「呼びましたか?」
中途半端に詠唱された魔法は行き場を失い、
ミッシェルの手の上でごおおぉぉと渦巻いている。
「うわあああ!!」

「ラップ!早くそいつを何とかしろ!!」
「え?ああ、そうですね」
ミッシェルは平然と言ってのけ、ひょいっと手を返す。
それが魔力の球を投げるようなしぐさになる。
その方向がたまたまトーマスの方だったからたまらない。

「ぎゃあああああ!!!」

空は快晴。
今日もプラネトスII世号にトーマスの悲鳴がこだまする。
なべて世はこともなし・・・






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