大迷惑





「ギャン!」
「えっ?」

ミッシェルの足元から犬を踏み潰したような声が聞こえた。
足元を見ると、本当に犬を踏み潰していた。
正確には犬のしっぽの上にミッシェルの足がのっていた。

「おっとっと」

ミッシェルはテレポートであちこち飛び回って情報を収集していた。
ピンゼルには闇の太陽を題材にしたオペラがあると聞き及び、
その調査に来たのだが、うっかり犬のしっぽの上に出現してしまった。
「これはどうもすみません」
しゅっ!
ミッシェルは一瞬にしてその場から消えた。

「ばうばうっ!」
ジャンがなかなかこないのでフォルトが捜しにくると、
ジャンが空に向かって吠えていた。

「どうしたのさ,ジャン。
雨でも降るの?」
フォルトは空を見上げたが、とりわけ澄み切った青空で、
何もあるはずはなかった。
「こんなに晴れてるんだから雨なんか降るわけがないよ。
ほら、早くこないと置いてくよ」
犬の表情に怪訝な顔というものがあるのかどうかはわからないが、
あるとすればまさにそんな表情をしていたに違いない。



挿絵:さらまんだー様



数週間後。
ミッシェルはレオーネにゆかりがあるというカントスにテレポートした。
「ギャン!」
ミッシェルにはこの足応えに覚えがあった。
足元をみるとピンゼルで踏みつけたジャンの背中があった。
「おや,またあなたでしたか・・・
失礼しました。」
「きゅう〜」
背中を踏まれてもろに腹に来たジャンは、地面にのびたままになっていた。

「あ、こんなとこにいたのね」
今度はウーナがジャンを発見した。
「ジャン、そんなトコで寝てると置いてくよぅ」
すこしは心配してくれてもいいのに・・と思うジャンであった。



そのまた数週間後。
アリアという少女の手がかりを捜してミッシェルはカヴァロにテレポートしてきた。
「ギャン!」
ミッシェルはまさかと思いながら足元を見た。

そこはジャンの頭の上であった。
もはや苦笑を通り越して苦い顔になったミッシェル。
「3どめともなると、もはや他人とは思えませんね」
心なしかジャンの顔に、諦めにも似た表情が浮かんでいるようにも見える。

「・・・あなたのご主人たちはどうしたのですか?」
「きゅうぅ〜ん・・・」
ジャンはマシューズベーカリーのほうに顔を向けた。
「なるほど。犬はパン屋には入れませんね」

「じゃ、ご主人が帰ってくるまですこしわたしと遊びましょうか?」
「ばうっ!!!」
ジャンはよほど退屈していたらしく、
喜んでミッシェルにじゃれてきた。

「ほーれほれほれ・・・」
「ばうばうばう・・」
人目につかないマシューズベーカリーの裏。
ミッシェルがロッドをふりまわすとジャンの身体が空中で回転する。
このなかなか過激な遊びにジャンは目を回しかけている。
ミッシェルがジャンであそんでいると
マクベインがパン屋から出てきた。

「おっと・・・」
ミッシェルはいきなりテレポートでこの場から消えた。
回転の頂点でミッシェルがテレポートしてしまったため、
ジャンはそのままの体勢で背中から落ちてしまった。
「ぎゃん!!」

落ちたところにマクベインがやってくる。
「・・・おまえ、いったいなにやっとるんだ」

マクベインはその場に人のいた気配を感じ取り、ジャンにたずねた。
「はて,いま誰かいたような気がするんじゃが・・・
ジャン、おまえ、だれといたんじゃ?」
「ばうばうっ!」
「ばうばうじゃわからんだろうが。
ほれ、ゆってみい」
いたわりのかけらも感じられないマクベインであった。

マクベインの声を聞きつけてフォルトが顔を出す。
「じいちゃん、ジャン相手に何バカなこと言ってんだよ。
はやく国際劇場にいこうよ」
「バカとはなんじゃ、バカとは」
「もぅ、カヴァロに来てまでケンカしないでよぅ・・・」



数日後、共鳴石を追ってシュルフにやってきたマクベイン一座は
アリアの瞑想が終わるまで村人に話をきくことにした。

「きゅん?」
風の中に何かを嗅ぎ取ったジャンは走り出した。
「あ、ジャン、待ってよ!」

ガガーブに向かって走るジャンを追いかけるフォルトとウーナ。
「ばうばうばう」
「これこれ」
ジャンの鳴き声に混じってもうひとつ声が聞こえてきた。
「あ・・・」
「誰かいる・・・?」

ガガーブのふちにジャンの姿を認めたフォルトとウーナは足を止めた。
どう見てもジャンがミッシェルに飛びかかっているとしか思えないその風景にフォルトとウーナは絶句した。

「ジャン・・・何をやってるんだろう」
「じゃれてるというのも無理があると思うのぅ」
「ジャンの知り合い・・・といってもわしらの知らん人間がジャンを知ってるはずはないんじゃが」

ミッシェルは3人に気付くと居住まいを正した。
「始めまして。
私の名はミッシェル・ド・ラップ・ヘブン・・・」

自己紹介するミッシェルの足元には
白い動物由来の毛がたくさんついていた。






元ネタはさらまんだー様のイラストです。





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