聖夜

「わしらの出番じゃあ!!」

クリスマスイブの朝。
フォルトの家に、いや、ラコスパルマにマクベインの雄たけびが響き渡った。
声は難破船であるフォルトの家の裏手から聞こえた。

半分寝ぼけながら朝ご飯を食べていたフォルトは、マクベインの声にスープを吹きだした。
どすどすどすという足音と共にマクベインが居間に戻ってきた。
「・・・びっくりした。ど、どうしたんだよ、じいちゃん」
「今日はクリスマスイブなんじゃぞ!!」
「だからなんだっていうのさ」
マクベインはあきれた顔でフォルトを見据える。
「若いくせにおまえもニブいやつじゃな・・・
クリスマスイブは家族団欒、恋人たちのためにある日じゃろうが。
演奏家たるもの、公演を聴きにきてくださる方々への感謝の心を忘れてはならん。
今日は一軒一軒まわって恩返しをするんじゃ。
マクベイン一座としてはこれ以上大事な日があるか!?」
「そっか。そうだね。」
「今日中にレトラッドを一周するぞ!フォルト、早く準備するんじゃ!」
「じいちゃんはいつも急なんだからなぁ・・・」
フォルトは慌ててスープを飲み干した。


「マックさん、クリスマス公演かの?」

フォルトの家の前にはラコスパルマでとれる貝を使って染料を作る工場がある。
工場の前を通りかかったとき、シエラ婆さんの声が聞こえた。
朝の雄たけびはしっかり届いていたらしい。

「おはようさん、シエラ婆さん」
工場の中にはウーナとシエラ婆さんしかいなかった。
シエラ婆さんは大きな白いカーテンのようなものを縫っており、ウーナがその手伝いをしていた。
「ウーナ、おはよう」
「あ、フォルちゃん。おはよぅ」

マクベインはシエラ婆さんとウーナに今日の興行を説明した。
「・・・で、今日は一軒一軒まわって演奏しようと思ってな」
「さすがマックさんじゃな。」
「で、すまないがウーナを借りたいんじゃが」
「ああ、いいよ。
ウーナ、こっちはいいから行っておいで」
「でも・・・」
「大丈夫。あとは仕上げだけだから」
「じゃあ・・・行ってきます」

「フォルちゃんと一緒のクリスマス・・・」
ウーナは赤面した。
そんなウーナを見て、シエラ婆さんはウーナに小声で耳打ちした。
「ウーナ、しっかりおやりよ」
「はい」
ウーナは心の中でつぶやいた。
「今日こそ・・・」


「最初の村はクランカじゃ!」
「がんばるぞー!」
「おー!」
ルース街道沿いに歩いていくと海辺に一組のカップルがいた。
「おっ、村を出て最初のお客さんじゃぞ。
挨拶は元気よく、な。」

「こんにちは!」
元気のいい声にカップルは振り向いた。
「あら、マクベイン一座の皆さん」
「こんにちは。また巡業ですか?」
「いやいや、今日はクリスマスイブじゃからな。
日ごろお世話になっている皆さんにわしらの演奏をお届けしようとこうしてまわっている次第じゃよ。
ところでおまえさんたちには何を演奏しようかの」
「わあっ、わたしたちのためにですの?嬉しいですわ!」
「ささ、何がいいかの?」

マクベイン一座の演奏をBGMに幸せそうに微笑みあう二人を見て、
ウーナは心の中で思った。
「いいなぁ・・」

レトラッド巡業が無事に終わり、心地よい疲労感と共にラコスパルマに戻ってきたのは
夜もかなりふけてからだった。
「すっかり遅くなっちゃったね・・・」
「でも、やっぱり巡業してよかったよ」
「みんなすっごく喜んでくれたしね」
「うむ。まずまずといったところじゃな」

「わしは用事があるからちょっと遅くなるぞ。
フォルト、ウーナを頼むぞ」
「んん、オッケー
じいちゃんもあまり遅くならないようにね」

マクベインが消えた後、二人はウーナの家の前で立ち話をしていた。。
「今日は楽しかったねー」
「・・・そうだね」
ウーナは心なしかそわそわしている。
「あ、あのね、フォルちゃん・・・」
「ん?何?」
フォルトにまっすぐ見つめられてウーナは赤面してしまった。
「ううん・・・何でも・・」
ウーナの言葉にかぶさるようにフォルトが言った。
「ウ、ウーナ!顔が赤いよ!
早く家に入ってあったかくして寝てなきゃ」
「な、何でもないのぅ」
ウーナは慌ててごまかした。
「用心するに越したことはないからさ。
今日は早く家に帰ろうよ」
「・・・・・・・・・・・・・うん」
ウーナの気分は一気に落ち込んだ。
「じゃあ、ウーナ、おやすみ」
「うん・・・じゃあね・・・」
フォルトを見送るウーナ。
「・・・フォルちゃんと一緒に演奏できたからいいとしよぅ・・・」
ウーナは落ち込んだまま家に入った。
「はぁ・・・」

フォルトが心配してくれたのもあって早めに床に着いたウーナであったが、なかなか寝付けない。
ちょっと夜風にあたろうと灯台に行ってみることにした。
「お母さん、ちょっと灯台に行ってくるね・・・」
「もう遅いんだから気をつけるのよ」
「大丈夫・・・」


フォルトは居間でお茶をすすっていた。
「じいちゃん、おそいな・・・」
そのとき。
「フォルト!ウーナがまだ帰っとらんぞ!!」
雄たけびと共にと共にマクベインがどかどかどかと入ってきた。
フォルトはすすっていたお茶を吹きだした。
「ええっ!?さっきウーナの家の前で別れたのに・・・」
「とにかく捜しに行くぞ!!」
二人は家を飛び出した。
「フォルトは灯台のほうを捜せ!わしは街道のほうを見てくる!」
「わかった!」


灯台ではウーナが一人で海を見ていた。
冷えた空気は澄み渡り、蒼いほどに月が光る。
月明かりに照らされた海は夜遅い時間でも水平線まで見渡せる。
聞こえてくるのはさざなみの音だけであった。

「どうしていつもこうなのかなぁ・・・」
ウーナはつぶやいた。

そのとき、静寂を破って、だだだという足音が響いてきた。
「ウーナ!」
フォルトが灯台の階段を駆け上がってきた。

「ウーナ!!」
「フォルちゃん!?」
フォルトはウーナの姿を認め、駆け寄った。
「ここにいたんだ、よかったぁ〜・・・」
家からずっと走ってきたフォルトは息を弾ませている。

「ふう・・・みんな・・心配してるよ・・早く帰ろう」
ウーナは怪訝そうな顔をした。
「みんなって・・・?
わたし、ちゃんとお母さんに灯台に行くって言ってきたよ・・?」
「ええっ、そうだったの?」
フォルトの全身から力が抜けた。
「じいちゃん・・・また早とちりしたんだ」


その頃フォルトの家にはシエラ婆さんが来ていた。
「ウーナちゃん・・・だいじょうぶかしらね」
「マックさんがうまくやってるよ。伊達に演奏家で世界中をまわってないだろうさ」


フォルトとウーナは並んで海を見ていた。
「ところでなんで灯台なんかにきたのさ」
「ちょっと海が見たくなっちゃって・・・」
「今日は月がきれいだもんね」
フォルトとウーナはしばらく海を見詰めていた。
さざ波の音に重なって静かに手琴の音が流れてきた。
「手琴・・・?」
音のする方を向くと、大きな箱のようなものがひとつ置かれていた。

フォルトとウーナは箱に近づいた。
「なんだろう・・・まさかびっくり箱だったりして」
「まさかぁ・・・開けてみよぅ」
二人で箱を開けてみると、中からはタキシードと白いドレスが出てきた。
「これは・・・」
ウーナはそのドレスに見覚えがあった。

ウーナはいとおしそうにドレスを抱きしめた。
「フォルちゃん、着てみよぅ!」
「んん・・・そうだね」
「じゃ、わたし下で着替えてくるね」
ウーナが階段を降り、フォルトも着替え始めた。

階段を上がる音の後に衣擦れの音が続き、ウーナの声がした。
「フォルちゃん・・・」

「ウーナ・・・」
真っ白いドレスが月光に映えて光っていた。
その姿を見てフォルトは息を呑んだ。
月光かドレスかクリスマスイブの夜という魔法のせいかウーナがすごく大人びて見えた。
普段のフォルトなら絶対に口にしないような言葉が自然にフォルトの口からこぼれ出た。
「きれいだ・・・」

あいかわらず手琴は音を紡いでいる。

「・・・踊ろうか」
「フォルちゃん・・・」
フォルトの差し出す手にウーナの手が置かれた。
手琴の音が二人を包み込む。
足はステップを刻み始めた。
「もう日付が変わっちゃったけど・・・」
フォルトとウーナの瞳が重なった。

「メリークリスマス」







100番を踏んでくださったミヤッチ様のリクエスト フォルトvウーナ(マクベイン一座でも可)ということで
初めて恋愛もの(どこがじゃー)を書いてみましたが・・・こっぱずかしいものになってしまいました(死)。
僕が書けるのはこの程度なんです。ごめんなさい(滝涙)




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