「黄血塩」という薬品があります。薄い黄色のきれいな結晶です。これを水にとかすと、うすい黄緑色の溶液になります。「黄血塩」の結晶と溶液を、先生に見せてもらいましょう。
「黄血塩」は、金属をとかした溶液と、特別な反応をするので、昔から利用されている薬品です。(「黄血塩」は濃い塩酸を含む溶液ではうまく反応しませんので、金属をとかした溶液はみずで2倍くらいに薄めてから「黄血塩」とまぜることにします。)
銅線をとかした溶液の色は、黄緑色です。この溶液に、「黄血塩」の溶液を数滴入れます。すると溶液は、こげ手茶色ににごります。先生にやって見せてもらいましょう。
それでは、ニッケルをとかした溶液に、「黄血塩」の溶液を数滴入れるとどうなると思いますか。
予 想
ア. こげ茶色ににごる。
イ. 別のいろになる。
ウ. その他( )
予想をたてたら実験しましょう。
実験結果
「白銅」をとかした溶液の色は、銅をとかした溶液の色と同じような黄緑色でした。「白銅」をとかした溶液に、「黄血塩」の溶液を数滴入れるとどうなると思いますか。
予 想
ア. こげ茶色ににごる。
イ. 別の色になる。
ウ. 変化しない。
エ. その他( )
皆の考えを出しあってから実験しましょう。
実験結果
「黄銅」をとかした溶液も、銅や「白銅」をとかした溶液の色と同じような黄緑色になりました。「黄銅」をとかした溶液に、「黄血塩」の溶液を数滴入れるとどうなると思いますか。
予 想
ア. こげ茶色ににごる。
イ. 別の色になる。
ウ. 変化しない。
エ. その他( )
予想をたてたら実験しましょう。
実験結果
鉄くぎをとかした溶液は、黄色になりました。この溶液に、「黄血塩」の溶液を数滴入れるとどうなると思いますか。
予 想
ア. こげ茶色ににごる。
イ. 別の色になる。
ウ. 変化しない。
エ. その他( )
予想をたてたら実験しましょう。
実験結果
鉄くぎをとかした溶液と「黄血塩」をまぜると、とても濃い青色になりました。鉄くぎをとかした溶液を大量の水で薄めても、「黄血塩」を加えたときに青色になるでしょうか。長さ2cmくらいの鉄くぎを「金属溶解液」でとかします。水槽に、水をいっぱい入れて、それに鉄くぎをとかした溶液を入れてよくかきまぜます。その中に、「黄血塩」の溶液を加えます。水槽の水は青くなると思いますか。
予 想
ア. 青くならない。
イ. かすかに青くなる。
ウ. はっきり青くなる。
エ. その他( )
実験結果
銅をとかした溶液に「黄血塩」を加えると、茶色ににごり、鉄をとかした溶液に「黄血塩」を加えると、青色になりました。化学者は、他のものに「黄血塩」を加えても、同じような反応をしないことを確かめています。だから、溶液の中に銅か鉄が溶けている時には、「黄血塩」で調べることができます。化学者は、ニッケルと特別に反応する薬品も見つけました。
じゃがいもなどに含まれているでんぷんを調べるときには、ヨウ素溶液を使います。ヨウ素溶液はわずかでもでんぷんがあると紫色になります。
鉄とニッケルがよく似ているように、たいていの金属はよく似ています。金属のままでは、その中にどんな種類の原子が含まれているのかわからないことが多いです。でも、金属を「金属溶解液」などに入れると、金属を原子どうしを結びつけていた「自由電子」を取られて「イオン」に変わり、イオンはバラバラに離れて水の分子の間に散らばります。水の中にあるバラバラのイオンは、そのイオンと特別に反応する薬品と結びつきます。
溶液にするとその中に含まれているものを、簡単に調べられるようになります。
鉄くぎをとかした溶液を水槽いっぱいの水で薄めても、「黄血塩」を加えると青くなりました。もっと大量の水で薄めても青くなるでしょうか。1g の鉄をとかした溶液
に、水を加えていって500Pになった時でも、「黄血塩」を入れると青くなりました。
3Bくらいの鉄くぎの重さが、約1Kです。家庭用の浴槽には、400Pほどの水が入ります。3Bほどの鉄くぎをとかして、水のいっぱい入った浴槽に入れてかきまぜたら、ただの水と同じようになります。鉄がとけているかどうか見ただけではわからなくなります。こんな時でも、「黄血塩」を入れると青い色になるので、鉄がとけていることがわかります。
銅の場合は、200Pの水に1Kの銅をとかした溶液でも、「黄血塩」を加えるとかすかに茶色になります。
みなさんは、ppmとかppbといおう言葉を聞いたことはありませんか?1ppmの溶液というのは、1000P(100,0000K)の水に1Kのものがとけている溶液をいいます。
1ppbの溶液というのは、1ppmの溶液をさらに、1000倍薄くした溶液です。
「化学分析」に利用できる新しい薬品や機械の発明によって、たいへんわずかしか含まれていないものでも分析できるようになりました。その結果。ppmとかppbなどの新しい溶液の濃さを表わす言葉が使われるようになったのです。
ppm・・・parts per million(100万分の1)
ppb・・・parts per billion(10億分の1)
金属でできているものを集めて、「金属溶解液」でとかしてみましょう。また、「金属溶解液」を使ってその中銅か鉄が含まれていないか調べてみましょう。
(呈色反応皿があると便利ですが、ないときは試験管を使ってください。)
実験方法
@呈色反応皿のくぼみに、「金属溶解液」を3滴づついれる。
A金属をその中につけて静かに動かす。
B溶液に色がついたら金属を取り出す。(金属は水でよく洗って紙でふいておく。)
C溶液の色を下の表に記入する。
D次に、「黄血塩」を1滴加えて、溶液の変化をみる。
E「黄血塩」による変化を下の表に記入する。
注意:「金属溶解液」に一度つけた金属は、とてもさびやすくなるので、大切なものは使わな いで下さい。
とかしたもの |
「金属溶解液」にとかしたときの色 |
「黄血塩」を入れたときのようす |
[問題4]の実験で出来た青い溶液は、しばらくおいておくと底に濃い青色の沈でんがたまります。この沈でんは、プルシアンブルーといい、水にとけにくいので絵の具の青に使われているものです。この物質の発見についておもしろい話があるので紹介します。
1704年のことでした。ドイツのベルリン市で染料を製造していたディースバッハは、赤い染料を作るために、昆虫から「コチニール」という物質をとって、それに薬品を加えていました。たまたまある薬品がたりなくなったので、同じ部屋で仕事をしているディッペルに借りました。その薬品を加えると、赤い染料のできあがりです。
さて、その薬品をまぜたディースバッハは、腰がぬけるほどびっくりしました。「コチニール」はまっ青な沈でんになったからです。すぐにディッペルに見せました。ディッペルもとても驚きました。二人でどうして青い沈でんが出来たのか考えました。そのうちに、ディッペルは、「そういえば、さっき貸した薬品は、前に牛の血液からとった油とまぜたことがある」と思いだしました。底で二人は、きれいな薬品に、牛の血液からとったあぶらをまぜて、「コチニール」にまぜてみました。こんどもまた、青い沈でんができました。
その当時、青い顔料(絵の具やペンキの色の材料)は「青金石」という鉱石から作られるものしかありませんで
した。 この顔料はウルトラマリンといって、たいへん高価なものでした。ディースバッハのつくった新しい顔料は評判になり、ベルリンブルーとかプルシアンブルーと呼ばれるようになりました。(ベルリン市のある地方をプロシアといっていました。)ディースバッハとディッペルは、偶然できたこの青い沈でんの作り方を秘密にして、自分たちだけで大もうけしました。
しかし、秘密にしていたプルシアンブルーの作り方もいつの間にかもれて、20年後の1724年には、イギリスの学会誌に発表されてしまいました。その論文を読めば、誰でもプルシアンブルーを作れるようになったわけです。
ほうれん草は、鉄をたくさん含む食品だといわれています。ほうれん草に含まれる鉄も、とかして溶液にしたら、鉄くぎをとかした溶液と同じように、「黄血塩」で青くなると思いますか。
予 想
ア. 青くなる。
イ. 別の色になる。
ウ. 変化しない。
エ. その他( )
みんなの考えを出しあってから実験しましょう。
実験結果
ほうれん草の鉄は、土から吸収したものです。土には鉄が含まれていますが、この鉄をとかしたら、「黄血塩」を加えたときに青くなると思いますか。
ビーカーに畑の土をスプーンで1ぱいほど入れて、「金属溶解液」を土がかぶるくらい入れます。弱火でしばらく暖めて泡があまり出なくなったら、ろ過して「黄血塩」を入れます。
予 想
ア. 青くならない。
イ. かすかに青くなる。
ウ. はっきり青くなる。
エ. その他
予想をたてたら実験しましょう。
実験結果
ほうれん草や土の他にも、鉄を含むものがないか「黄血塩」で調べてみましょう。
黄鉄鉱や砂鉄などはどうでしょうか。
最近、鉄(Fe、アイアン)入りの牛乳や健康飲料が売られています。手に入ったら調べてみましょう。
鉄くぎの鉄と、ほうれん草の鉄が同じ鉄だと思えない人がいるのではないでしょうか。健康飲料に鉄が入っているといわれても、金属の鉄とは別のもののような感じがするようです。
植物や動物に含まれている鉄は、金属の鉄そのままではなくて、鉄くぎが「金属溶解液」でとかされて鉄イオンになったときと同じ状態です。同じ状態ですが植物や動物の中では、他の分子と結合しています。
血液には、赤血球という赤い色をした細胞があり、この赤血球には鉄がたくさん含まれています。赤血球は、血液が肺で取り入れた酸素を、身体中に運ぶ大切な働きをしています。酸素を運んでいるのは、赤血球の中にあるヘモグロビンという蛋白質で鉄が結合した分子です。この分子はが赤い色をしているので、血液は赤いのです。
今から500年ほど昔、スイスにパラケルススというお医者さんがいました。
パラケルススのお父さんは、鉱山学校の先生をしていました。鉱山学校では、鉱石から金属を取り出す実習をしていました。パラケルススは子どものころから、木や炭をどんどん燃やして高い温度にした炉の中に石を入れると、ピカピカ光る金属になるのがとても不思議でした。大きくなって、イタリアの大学の医学部に入りました。卒業後、お医者さんになっていろいろな病人を診察しました。そして、パラケルススは大学で学んだことだけでは、いろいろな病気を治せないことに気付きました。
パラケルススは、新しい薬や治療法を探して、あちらこちら旅をしてまわりました。旅先では評判の高いお医者さんや、薬屋さんに会って良い治療法や良く効く薬を教わりました。パラケルススは、お医者さんや薬屋さんだけでなく、床屋さんやおふろ屋さん、産婆さんの所もたずねました。錬金術師の所にも行きました。お医者さんにかかれない貧しい人達は、病気になると床屋さんや産婆さんに治療をしてもらったり、錬金術師などから薬を買っていたのです。
パラケルススは、子どもの頃の経験から、物質を変化させて新しい物質をつくる仕事に特に興味を持っていました。いつも、もっと良く効く薬を作れないものかと考えま
した。パラケルススは、錬金術師は、物質について豊かな知識や実験技術を持っているのだから、良い薬を作れるに違いないと考えました。いくらやっても成功しない「銅や鉛を金に変える」研究をするよりも、病気に効く薬を作るほうが、ずっと人々の役にたつと考えました。パラケルススは旅をしながら、多くの人から学ぶと同時に、自分の考えをひろめました。
パラケルススが作ったといわれている薬に、「アルカヘスト」という薬があります。「アルカヘスト」は全てのものをとかす働きがあり、全ての病気に効くというのです。 パラケルススの死後も、「これがパラケルススの発明したアルカヘストだ」といって病人に高い値段で売りつける人がいました。それを聞いたクンケル(1630〜1702)という人は、すぐに「そんな薬はデタラメだ」と断言しました。そしてクンケルは「アルカヘストが全てのものをとかす働きがあるというのならば、アルカヘストを持っているという人は、どんな容器に入れているのか?」と反論しました。「アルカヘストはどんなものでもとかすのだから、どんな容器でもアルカヘストにとかされてしまって、アルカヘストを保存できないはずだ」というわけです。
「全てものをとかす薬」を発明したというのはデタラメだったわけですが、パラケルススは、金属や岩石をよくとかす薬は手に入れて使っていました。硫酸とか硝酸などの強い酸です。パラケルススはこれらの酸を使っていろいろな
金属や岩石をとかしました。そして、その溶液をいろいろとまぜ合わせてみました。あれこれ試してみる中から、新しい薬が生まれました。パラケルススは金属や岩石から作られた新しい薬を病気の治療に使いました。今から考え流と、それらの薬の中には、有毒な物質も含まれていました。でも、パラケルススは、病気や薬のことをよく知っていたので、危険な薬品を上手に使って多くの病人を治しました。
パラケルススの死後も、彼の考えに賛成の錬金術師たちは、「銅や鉛を金に変える」研究はやめて、新しい薬つくりの研究をしました。ドイツのグラウバー(1603〜1670)という人は、塩酸、硫酸、硝酸の作り方を改良しました。グラウバーは、まじりものが少なくて、濃い酸を製造して多くの人に売りました。強い酸が簡単に手にはいるようになって、酸にとけるものの研究が進みました。