<錬金術入門>授業書ノート 

第1部

 質問は、生徒がこれから学ぼうとすることについて、どの程度知っているかを教師が事前に知っておくという意味があります。答が出なくても、特に教えたりせずに先に進んでください。

 よく使われる金属は、鉄、アルミニウム、銅ですが、この授業書では、鉄と銅を主に取り上げました。それは、鉄と銅は酸にとかすと溶液に色がつくので、とけたことがはっきりわかることと、色の違いで区別できるからです。アルミニウムは、溶液が無色であり簡単に分析できないので取り上げませんでした。

 [質問2]では、熱してとかすという意見が出ますが、何か液体にとかすという意味であることを知らせてください。

[問題1]

用意するもの
 金属溶解液・・・100mlのビーカーに30mlくらい
  水の用意を忘れないように!
 鉄くぎ  ・・・長さ2cmくらいのもの

 ステンレスのくぎもありますが、クロムが含まれているために、金属溶解液にとかすと黒みを帯びた緑色になるので、安い鉄くぎを使ってください。(長さが、2.2cmのくぎの重さは約 0.35g でした。)

 ここで使う液体は、授業書の11ページにある「金属溶解液」です。
同じ体積の、水・濃塩酸・過酸化水素をまぜます。水→濃塩酸→過酸化水素の順によくかきまぜながら入れて下さい。私は200mlのビーカーで150ml作り、第2部の問題2までの5つの実験で使っています。

 実験の直前に作って下さい。

 市販の過酸化水素は35%の水溶液で、消毒に使うオキシドール(3%過酸化水素)の約12倍の濃さです。皮膚につくと白くなって痛みますので取り扱いに注意して下さい。

 過酸化水素は、分解して酸素と水になります。室温が高いと過酸化水素の分解が早くなり、分解に伴う反応熱で「金属溶解液」の温度が上がり、さらに分解が加速されます。水に含まれる不純物が過酸化水素の分解を早めることもありますので、できるだけ冷たいきれいな水を使ってください。分解が激しくなったら水で冷やして下さい。
 過酸化水素と塩酸をまぜると、次の反応で塩素も発生します。

  H2O2 + 2HCl → 2H2O + Cl2

 塩素の発生は温度が低ければわずかですが、温度が高くなるとどんどん増えます。塩素の臭いがしてきたら、水を加えて反応を静めることと、換気を忘れないでください。塩素ガスをすうと、のどが痛くなったりせき込んだりします。特に、喘息の子どもには気をつけてください。

 2cmほどの鉄くぎの場合、100mlのビーカーに「金属溶解液」を、30mlほど入れてとかします。液が多いと 鉄くぎがとけるときに出る泡があふれ出ることがあります。また、まわりに泡が飛び散るので紙を敷いてください。

 鉄がとけるときにも熱が発生し、温度が上がります。反応が激しくなった時すぐに水を入れられるように、必ずそばに水を用意してから実験を始めて下さい。

 使用後の「金属溶解液」は、水で十分薄めてから水を流しながら捨ててください。

  Kさんから「残った金属溶解液をペットボトルに入れて冷蔵庫で保管したら、破裂した!」との報告
 残りをちょっと保管するときも、ビーカーなどのガラスの容器に入れてラップをかけてください。
   H2O2が分解しO2が発生します(ペットボトル破裂の原因)
   金属のものは勿論溶けますが、プラスチックでも溶けるものがあります。

[問題2]

用意するもの
 金属溶解液・・・100mlのビーカーに30mlくらい
 白い木綿の布
 ガラス棒 

 白い木綿の布を使ってください。色のついた布は、過酸化水素の脱色作用を受けることがあるので、白い布としました。布は、金属のようにとけないことを知らせる問題なので、布の色が変わることに注意がそれてしまうのをさけたいのです。

 布の場合、5分くらいでは変化を認められませんが、酸の濃度を高くして高温で長い時間おけば加水分解を受けて水に溶けるようになります。

 「金属溶解液」で髪を脱色した中学生がいました。この話を聞いたとき、まず「困った」と思いましたが、すかさず実験してしまう若者に感心もしました。

[問題3]

 ストローも5分くらいでは変化しません。プラスチックの代表としてストローを使っていますが、全てのプラスチックが全く溶けないわけではありませんので、残った「金属溶解液」をプラスチックの容器に入れておくのはさけたほうがよいでしょう。

おはなし 金属をとかすもの(酸)

用意するもの
 マグネシウム
 酢(す)、レモン、クエン酸、ビタミンC剤

 お話しの中の実験は、材料を用意するのを忘れやすいものですが、実物を見せると見せないとでは話の印象がずいぶん変わります。お話は、ただ読むだけでなく実物や写真とか図などをできるだけ用意して見せてあげて下さい。

 塩酸にとけない金属は、銅・水銀・銀・白金・金などです。これらの金属も、塩酸に過酸化水素を加えると自由電子を取られて+イオンになります。
 ただし、水銀・銀・鉛のイオンは塩素イオン(Cl-)と結合し水に溶けにくい化合物になるので、金属の表面が変化するだけです。

王水

 私たちが王水を作るときには、塩酸と硝酸を3:1の割合で混ぜます。錬金術師が書いた古い本には、王水を作る材料として、みょうばん・食塩・硝石がでてきます。
 どんな目的で、「王水」に金をとかしたのでしょうか?石や砂の中から集めた金には、銀や鉛などが含まれているものがあります。また、金貨や王冠などの金製品を作る職人が、こっそり銀や鉛をまぜて金の1部を自分のものにしてしまうこともありました。
 金は「王水」にとけますが、銀や鉛は白い粉になって底に残ります。金に銀や鉛が混ざっていると、「王水」にとかしたときに、白い粉が底に沈みます。この白い沈殿の量で、銀や鉛がどれだけ金に混ぜられているかを確かめました。

 鉄くぎのような硬い金属が酸にとける実験にみんな驚きますが、レモンのしぼり汁や酢にマグネシウムをとかす実験も、食物としてふだん口にしているものが金属をとかすので驚かれます。
 くえん酸は白い粉です。粉末ジュースやスポーツドリンクに入っています。みかんなどのかんきつ類にたくさん含まれています。
 レモンなどに入っているビタミンCは、アスコルビン酸という名前の酸です。ビタミンC剤がすっぱいのは酸だからです。

おはなし 錬金術

強い酸: 強い酸の代表は、硫酸、塩酸、硝酸です。

硫酸(H2SO4)

 硫酸は、昔「礬油(ばんゆ)」と呼ばれていました。から作られる油というのです。私たちには硫酸が油とは考えられませんが、昔は油のようにドロッとした液体はみんな油といいました。硫酸そのものはドロッとした液体です。礬というのは、みょうばん(明礬)などの薬品のことで、礬を焼くと、白い煙が出てきます。その煙を集めて水に溶かしたものが「礬油」です。
 みょうばん(明礬、KAl(SO4)2):火山の噴気口などにできるものです。自然界にある石や土は、水に溶けにくい物ばかりです。水に溶けやすいものは雨で溶かされるので、地表には水に溶けない石や土だけが残りました。水に溶ける物質が自然界にあるのは珍しいのですが、みょうばんはその珍しい物質の1つでした。昔から染め物や皮をなめすのに使われました。水によく溶け、大きくて形のきれいな結晶になるので、結晶作りによく使われる薬品です。

礬(ばん):昔の薬品の名前には、明礬の他に「礬」の字の付く薬品があります。坦礬、緑   礬、こう礬などです。これらの薬品からも「礬油(硫酸)」が作られました。 坦礬、緑礬、こう礬というのは、硫酸銅(CuSO4)、硫酸鉄(FeSO4)、硫酸亜鉛(ZnSO4)です。

硝酸(HNO3

 昔は、濃硫酸と硝石(硝酸カリウム、KNO3)を熱して硝酸を作りました。硝酸は金以外の金属をみんな溶かすので、昔は「強い水」と呼ばれていました。王水では白い沈殿になってしまう銀や鉛も溶かします。

塩酸(HCl)

 濃硫酸に食塩(NaCl)を入れると鼻をツンと刺激する気体が出てきます。この気体を水に溶かすと塩酸が出来ます。

金属を酸に溶かすと

 鉄を塩酸に溶かすと、塩化鉄が出来ます。マグネシウムを塩酸に溶かすと塩化マグネシウムになります。鉄を酢酸にとかすと、酢酸鉄、乳酸では乳酸鉄です。金属を酸に溶かすとその酸と金属の化合物ー塩ができます。中学校では、酸と塩基の反応で塩が出来ると教えますが、金属も酸と反応して塩になるので、昔は塩基といってました。

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