2. 金属をとかした溶液

「金属溶解液」

 塩酸と過酸化水素と水を、同じ体積とってまぜた溶液を「金属溶解液」と呼ぶことにします。「王水」にはかないませんが、身のまわりにある金属なら、たいていすぐにとかします。

 「金属溶解液」が皮膚につくとどうなるのでしょうか。塩酸は、塩化水素という気体を水にとかしたものです。皮膚に付いた液体をそのままにしておくと、塩化水素も水分と一緒に蒸発してしまいます。過酸化水素を薄めたものは、「オキシドール」といって、傷口の消毒に使われているものです。「金属溶解液」に含まれている過酸化水素は、「オキシドール」の4倍ほどの濃さです。

 「金属溶解液」が皮膚についても、すぐにはなんともないのが普通です。でも、しばらくすると、ヒリヒリと痛くなります。手についた時には、水ですぐに洗って下さい。とくに、目は薬品に弱いので、目には入れないように注意しましょう。万が一、入ったときは、水ですぐに洗って下さい。硫酸の場合は、水分が蒸発しても後に残ります。それで、薄い硫酸でも皮膚や衣服についた時そのままにしておくと、傷ついたり穴があいたりします。

 この「金属溶解液」の値段は100Dでいくらくらいだと思いますか?塩酸も過酸化水素水も普通品を使うと、100円以下でできます。

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 注意:

*金属溶解液では、過酸化水素の分解が起きています。そのために、時間がたつと働きが弱くなりますから使う直前に作ってください。気温が高いときは、どんどん分解がすすみ、反応熱で液温が上がりさらに分解がすすみます。そんなときは、冷たい水などで冷やしてください。

*塩素ガスも発生します。温度が高くなると塩素の発生量が多くなりますから吸い込まないよう注意してください。換気にも気を配ってください。

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[問題1]    

 鉄くぎを「金属溶解液」にとかすと、黄〜赤茶色になりました。銅線も「金属溶解液」にとけます。銅線をとかした溶液は、どんな色になると思いますか。

      

 予 想

  ア. 鉄くぎをとかした溶液と同じ色

  イ. 鉄くぎをとかした溶液とはちがう色

  ウ. その他 

 皆の考えや感じを出しあってから実験しましょう。

実験結果

    

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[問題2]

 古い50円や昔の10銭貨は、「ニッケル」という金属で作られています。「ニッケル」も「金属溶解液」にとけます。ニッケルをとかした溶液は、どんな色になると思いますか。ニッケル板を使って実験することにします。

 予 想

  ア. 鉄くぎをとかした溶液と同じ色

  イ. 銅線をとかした溶液と同じ色

  ウ. その他の色

 皆の考えを出しあってから実験しましょう。

実験結果

    

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ニッケル

 今から、300年ほど昔、ドイツで、「クッパー・ニッケル」と呼ばれた鉱石がありました。「クッパー」は銅、「ニッケル」は山に住む妖精という意味のドイツ語です。「クッパー・ニッケル」は銅を含む鉱石と同じように見えるのに、この鉱石から銅を取り出すことができませんでした。

 ドイツの鉱山師たちは、「ニッケル(山の妖精)がいたずらをして、銅を取り出せないようにしたのだろう」と考えたので、この鉱石を「クッパー・ニッケル」と呼んだのです。

 しかし、スウェーデンのクロンステット(1722 〜1765)という化学者は、「クッパー・ニッケルから銅を取り出せないのは、ニッケル(山の妖精)のいたずらのためではなくて、銅の鉱石とクッパー・ニッケルは似ているが別のものだからではないか」と考えました。鉄を含む鉱石から鉄を取り出すときには、銅を取り出すときよりも高い温度が必要です。鉄を取り出すときのような高い温度で、「クッパー・ニッケル」を焼いたところ、金属が溶け出てきました。

 それは鉄によく似た金属でした。磁石を近づけるとすいつきます。でも、この金属を酸にとかすと、薄い緑色の溶液になりました。鉄とは違う金属だったのです。「クッパー・ニッケル」には、それまで誰も知らなかった新しい金

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属が含まれていたのです。

 クロンステッドが、この新しい金属を取り出した時に知られていた金属は、10種類ほどでした。その中には、酸にとかした時に緑色になるものはありませんでした。「クッパー・ニッケル」からとけ出た金属は、それまで知られていない新しい金属でした。クロンステッドは、この新しい金属に「ニッケル」をいう名前を付けて、1754年に発表しました。

 ニッケルが発見されてから、新しい金属が次々と発見されました。現在では、80種類ほどの金属が純粋な金属として取り出されています。

 先生に純粋な金属のいくつかを見せてもらいましょう。また、そのうちのいくつかを「金属溶解液」でとかしてみましょう。

                

 

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[作業1]

 鉄・銅・ニッケルとその他の金属を「金属溶解液」でとかしてみましょう。金属がとけたら、溶液の色を下の図に記入して、試験管の液に色をぬっておきましょう。(はげしい反応がおさまって、透明になったときの溶液の色を見て下さい。)

 注意!

 ビーカーに水を用意することを忘れないで下さい。

反応が激しくなって、泡が立ちのぼってきて試験管の口からあふれ出るときがあります。泡が立ちのぼってきたら、ビーカーの水を少し試験管に入れて下さい。水で「金属溶解液」が薄められ、液の温度がさがります。そうすると反応は静かになります。 

   

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[問題3]

 銅をとかしたら黄緑〜緑色になりました。亜鉛をとかした液は無色でした。では、この二つの溶液をまぜ合わせたら、どんな色になると思いますか。

                        

 予 想

  ア. 二つがまざっただけの色

  イ. 全く別の色になる

  ウ. その他

 皆の感じや考えを出しあってから実験しましょう。

実験結果

    

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[問題4]

 銅をとかしたら黄緑(緑)色に、鉄をとかしたら黄色(赤茶色)になりました。では、この二つの溶液をまぜ合わせたら、どんな色になると思いますか。

 予 想

  ア. 二つがまざっただけの色

  イ. 全く別の色になる

  ウ. その他

 

実験結果

    

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 いろいろな金属を「金属溶解液」にとかすと、もとの金属の色とは似ても似つかない色や、無色透明な溶液になりました。ところが、金属をとかした透明な溶液を二種類以上まぜ合わせても、まぜた溶液の色は、普通の色水をまぜ合わせた時と同じように、もとの溶液の色がまじりあった色になるだけです。金属をとかした酸が同じであれば、種類の違う金属をとかした溶液をまぜあわせた時に、にごったり全く別の色になったりすることはありません。

 

[問題5]

 50円、100円、500円硬貨の材料は、「白銅」というものです。「白銅」にも銅が含まれているのでしょうか。(今使われているお金を実験などに使うのは、法律で禁止されていますから、昔の白銅貨を使って実験します。)白銅貨を「金属溶解液」でとかすと、溶液はどんな色になると思いますか。

 予 想

  ア. 銅をとかした溶液と同じような色

  イ. 銅をとかした溶液とは、ちがう色

  ウ. その他(     )

 皆の考えを出しあってから実験しましょう。

実験結果

    

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[問題6]

 5円硬貨の材料は、「黄銅」というもpのです。「黄銅」にも銅が含まれているのでしょうか。「黄銅」の針金などを使って実験することにします。「黄銅」の針金を「金属溶解液」でとかすと、溶液はどんな色になるとおもいますか。

 予 想

  ア. 銅や白銅をとかした溶液と同じような色

  イ. 銅や白銅をとかした溶液とちがう色

  ウ. その他

みんなの考えを出しあってから実験しましょう。

実験結果

    

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溶液の色とイオン

 「白銅」は、銅とニッケル、「黄銅」は、銅と亜鉛をまぜあわせたものです。「白銅」や「黄銅」のように、二つ以上の金属をまぜあわせたものを、「合金」といいます。「白銅」も「黄銅」も名前がしめすように、銅を含む「合金」なのです。

 「白銅」「黄銅」は、銅の色(新しい10円玉のような色)とは全くちがう色をしていますが、「金属溶解液」にとかすと、銅をとかした溶液とよく似た色の溶液になりました。「白銅」のなかで、銅とニッケルの原子はかたく結びついているので互いに影響しあいます。その結果、色や硬さなどが、銅ともニッケルともちがう「合金」になります。ところが、「金属溶解液」は銅やニッケルの原子を互いに結びつけるもの(自由電子)を取り除くので、銅やニッケルの原子は一つ一つバラバラにされて、水の中に拡がるのです。

 このように、溶液の中でバラバラになっている原子を、「イオン」といいます。銅をとかすと、溶液が黄緑色になるのは、「銅イオン」ができるからです。ニッケルをとかすと、溶液が緑色になるのは、「ニッケルイオン」ができるからです。「白銅」をとかすと、「銅イオン」と「ニッケルイオン」ができるので、黄緑色の溶液になるのです。

 溶液中の「銅イオン」や「ニッケルイオン」は、バラバラにされて水の分子のあいだに拡がっているので、他の

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「イオン」の影響を受けません。だから、溶液の色は、その中にある「イオン」の色をまぜた色になります。

 鉄くぎをとかした溶液の色は、「鉄イオン」の色です。亜鉛やマグネシウムをとかした溶液は無色でした(作業1)。「亜鉛イオン」や「マグネシウムイオン」は無色なのです。「鉄イオン」や「銅イオン」の他に有色の「イオン」になる金属はコバルト(赤)、クロム(藍)など数種類で、その他の金属は無色の「イオン」になります。

      

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お金の材料と合金

 現在、日本で使われている硬貨に含まれる金属は、次のようなものです。

   

 10円は、銅貨といわれますが、銅の他に、亜鉛とスズが少しずつ入っています。100円、1000円銀貨も、銀の他に銅などが入っています。金貨にも銅が入っているそうです。金、銀、銅は、やわらかい金属なので、他の金属をまぜて硬貨に適した硬さにしています。

 外国の硬貨には、中が鉄で外側に銅をかぶせたものがあります。銅貨だとばかり思っていると、磁石に強くすいつくので、驚かされます。これは、「サンドイッチ」といって、鉄と銅をはり合わせたものです。

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