1.金属を溶かすもの

[質問1]

 鉄や銅でできているものには、どんなものがあるでしょうか。みんなで知っているものを、出しあいましょう。

 鉄でできているもの

   

 銅でできているもの 

    

 

[質問2]

 鉄や銅は、じょうぶで硬く、熱にも強い物質です。水にも溶けません。この鉄や銅でできているものをとかして、食塩水や砂糖水のような水溶液にできないでしょうか。みんなの考えを出しあいましょう。

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[問題1]

 このビーカーに入っている液体は、鉄や銅をとかす働きのあるものです。長さ2cmほどの鉄くぎを、この液体の中に入れることにします。

 鉄くぎが全部とけてしまうのに、どのくらいの時間がかかると思いますか。

                          

 予 想

  ア. すぐとける。(せいぜい5分くらい)

  イ. そのうちにとける。(1時間くらい)

  ウ. 忘れたころにはとける。(1日以上かかる)

 予想をたてたら実験しましょう。

 実験結果

    

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[問題2]

 白い布を、鉄くぎをとかすのに使った液体にひたすと、布はどうなると思いますか。液体につけてから5分後にどうなっているかをしらべることにします。

                            

 予 想

  ア. とけてしまう。

  イ. 変化しない。

  ウ. そのほか。(     )

 みんなの考えや感じを出しあってから実験しましょう。

 実験結果

    

[問題3]

 プラスチックのストローを、鉄くぎをとかすのに使った液体に入れるとどうなると思いますか。これも5分後に調べることにします。

 予 想

  ア. とけてしまう。

  イ. 変化しない。

  ウ. その他

 予想をたてたら実験しましょう。

 実験結果

    

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[問題4]

 鉄くぎをとかした液体が手についたときに、5分くらいそのままにしておいたら、手のその部分はどうなると思いますか。                      

 予 想

  ア. とける。

  イ. なんともない。

  ウ. その他 

 

 この問題は、実験で確かめるわけにはいきません。次のおはなしを読んでください。

  (注意:薬品が皮膚についた時は、水ですぐに洗ってください)

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金属をとかすもの(酸)

 鉄くぎをとかした液体は、水に「塩酸」と「過酸化水素」とをまぜた水溶液です。この溶液は、鉄くぎだけではなく、たいていの金属をとかします。しかし5分くらいなら布や皮膚はとけません。皮膚にこの液がつくとヒリヒリしたり白くなったりしますが、すぐに水で洗えばなんともないのが普通です。

 化学者が金属をとかそうとする時には、「塩酸」のほかに「硫酸」とか「硝酸」という薬品をよく使います。「硫酸」や「硝酸」は金属をとかすはたらきがとても強いのですが人体にも害があるので、前の問題では「塩酸」を使いました。「塩酸」も金属をとかす働きの強い薬品ですが、金属の中には「塩酸」にとけないものもあります。それで、「過酸化水素」も加えてあるのです。「過酸化水素」は分解すると、酸素と水になる薬品ですが、この酸素の助けがあると、ほとんどの金属が「塩酸」にとけるようになります。

 では、金でも塩酸と過酸化水素と水をまぜたこの溶液にとけるのでしょうか。ある人は「金はとけないだろう」と思いましたが、念のため金箔(金を薄くのばしたもの)をこの溶液に入れてみました。金箔は溶液の上に浮いたままで何も変化しないようでした。次の日になっても同じでした。「やっぱり金はとけないのだな」と思って、そのまま放っておきました。3日後にふと見ると、金箔は見えなく

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なって、黄色の透明な溶液になっていました。金もこの溶液にとけたのです。でも、金をすぐとかしたい時には、塩酸と硝酸をまぜた溶液が必要です。この溶液は、1000年以上も昔から、金をとかすのに使われてきました。「王水」と呼ばれています。「金属の王様、金をとかす水のようなもの」ということから名づけられたのでしょう。

 塩酸、硫酸、硝酸の他には、金属をとかす液体はないのでしょうか。じつは他にもあるのです。レモンのしぼり汁も、ゆっくりですが鉄をとかす働きがあります。調味料の酢も少しづつなら鉄をとかします。

 マグネシウムという金属は、レモンのしぼり汁や酢にも泡を出しながらとけます。先生にマグネシウムがレモンのしぼり汁や酢にとけるようすを見せてもらいましょう。

 レモンのしぼり汁や酢は、とてもすっぱいものですね。ところが、塩酸、硫酸、硝酸はもっともっとすっぱい味をもつ物質です。じつは、すっぱい味をもつものは、大なり小なり金属をとかす働きがあります。それで、化学者はすっぱい味のする物質をひとまとめにして「酸」と呼んでいます。

 塩酸、硫酸、硝酸は名前の最後に「酸」という字がついていますが、すっぱい味をもつ物質の名前には、最後に「酸」という字をつける約束があります。

 レモンのしぼり汁に入っているすっぱい味の物質には「クエン酸」、酢の中に入っているすっぱい味の物質には「酢酸」という名前がついています。

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 ヨーグルトなどには、「乳酸」というものが入っています。「乳酸」も金属をとかす働きのある「酸」の仲間でしょうか?「乳酸」も、とても弱いのですが金属をとかす働きがあり、すっぱい味をもつ物質です。だから、名前の最後に「酸」の字がついているのです。

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錬 金 術

 この授業書の題は<錬金術入門>です。皆さんは「錬金術」という言葉を聞いたことがありますか。金という字が入っていますから、金と何か関係がありそうですね。私たちがふつう耳にする「錬金術」という言葉は、「人をだまして大金を手に入れる」という意味で使われています。だから、錬金術というのは悪いことをする術と思っている人がいるかもしれません。この勉強では、金を作るのだろうと期待する人がいるのですが、何かよくないことをするのではないかと心配する人もいます。

 いったい、錬金術とはどんな術なのでしょうか。

  金は、人類がはじめて手に入れた金属です。すべてのものは、使い続けるうちに、くさったり、砕けたり、さびたりして、形が変わり汚くなって使えなくなります。しかし、金だけはその美しい色や光沢、形をいつまでも保ちます。だから、昔からずっと金は貴重品でした。昔の遺跡かから発掘された金製品を見ると長い年月を経ているのが信じられないほどその美しさを保っています。

 金は石の間や砂の中にありますが、石や砂の中から金だけを取り出すのはたいへん手間のかかるものです。しかも、金が見つかる場所は、特別の地域に限られ、その量も少ないのです。何時の時代にも、「もっとたくさんの金を簡単に手に入れる方法はないものか」と考える人がいました。

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 今から300年ほど前までは、「すべてのものは、4つの元素(火・空気・水・土)がまじりあってできている」と考えられていました。「金も、その他の金属もみんな火・空気・水・土の集まったもので、その割合が少しづつちがう」というのです。だから、「銅や鉛のような金属も、金と比べて不足している元素を加え、多すぎる元素を取り除けば金に変えられるにちがいない」と考えられたのです。その後、物質に関する科学が進歩して。「他の金属を金に変えることは不可能である」ことが明らかにされました。だから、私たちは「昔の人は、バカなことを考えたものだ」と思います。しかし、物質がどんなもので出来ているのかわからなかった時代には、「銅や鉛を金に変えられる」と考える人がいてもおかしくなかったのです。

 銅や鉛を金に変える技術を「錬金術」といいます。鉱石から金属を取り出す職人や薬屋さんなどがこっそり錬金術を試みたようです。「銅や鉛を金に変えることは不可能」なので、錬金術の研究は、成功しませんでした。それでもこりずに、銅や鉛を金に変えようといろんなことをやってみる人が現われました。

 「銅や鉛を金に変える」ために、錬金術師たちは動・植物や珍しい石から、いろいろな物質を取り出しました。また、それらの物質をあれこれまぜ合せたり、熱したりして、別の物質に変化させました。このような実験のなかで硫酸や硝酸のような強い酸も使われました。硫酸や硝酸は

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金属や石をよく溶かすので、その溶液をいろいろ混ぜ合わせると新しい物質が出来たのです。

昔の硫酸製造の様子

 強い酸の中で一番はじめに作られたのは硫酸です。ミョウバンという薬品を下の図のようなかまで焼いて作りました。

                        

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